僕と僕の中にいる悪魔女。

なんとか、洗脳槽を抜け出した。


でも、悪魔女に沁み込んだ洗脳ドロ、まだ、すべてを出し切っていない。

体が重い。苦しさは残っている。

四つん這いになって、フラフラ逃げるのがやっと。


すぐ見つかってしまう。どこか、逃げ込むところは?

見渡すが、ない。薄暗く長い廊下。


うっ、また来た。全身の震え、悪寒。

さっきより、きつい。


ううううーっ、動けない。ただ、この苦しさに耐えるだけ。

は、早く、出てしまえ!


「いたぞぉーっ、人間だあーっ、ここにいたゾ!」

見つかってしまった。

ドタドタドタッ、右から左から、足音。


い、いいや、僕、それどころじゃない。

なんとかしてくれぇー、この苦しさ。うううーっ。


ん? おぼろげに悪魔たちの後ずさりを感じる。

僕の胸から、なんか、光が。悪魔女の『天使変更証明書』だ。

僕、胸から取り出した。こいつが光ってる。この光が、悪魔たちの近づきを阻んでくれている。朦朧ぎみの僕、大きく手を挙げてこれをかざした。来るなら、来い!

「がんばれ、がんばれっ!」

天さんが応援してくれているような気がした。

僕を悪魔女のもとに行かすために、自ら粉々になって悪魔たちを防いでくれた天さん。すべては、悪魔女を救うため。

苦しくても、残りのドロを出さなくては、出し尽くさないと悪魔女は、救えない。


ううう、ぐぐぐがあーっ、耐えがたい痛みが、胃から喉へ、頭の中で強い電流が走りまくる。

ぐぐぐっ、ゲボッ。

ドロが塊のように、僕の口から飛び出た!


やった。フハァーッ。ついに、抜け出した地獄の苦しみ。天さん! やったよ、僕。

「ようやった、ほんま、ようがんばったな」

「て、天さん!」


がんばれ、天さんの声、幻じゃなかった。

「どこ、どこ? 天さん」

「ここやがな、ここ」

よく見ると、悪魔たちを防いでいる光りの元、10㎝ほどの天さんの小さな顔。

「天使は死なへん。言うたやろ。体は粉々になったけど、魂はほら、ちゃんと生きてる。それでも、早よ天使界帰らんと、再生でけんと魂だけになってしまうけどな。そんなこと、言うてる場合やない。ええか、いまから、オレが力の限り光り出すからな。ついて走っておいで。悪魔女はまだ目覚めへんから、あんさんが精一杯、走るんやで」

言うなり、僕の持ってる『天使変更証明書』の光り、薄暗い廊下の先まで一気に伸びた。

悪魔たちは恐れ慄き、廊下にへばりつく。


「走れぇーっ!」

天さんの声に、僕は立ち上がり、駆けだした。

光の中を。すべて吐き出した僕の体は軽い。

まばゆいばかりの光りの中を、僕は走った。


僕の中の悪魔女、救えた喜びと安堵も手伝って、

僕、光りに負けないスピードで、走りに走った。

(つづく)