僕の中に入った天使の天さんとともに悪魔の世界へ。

目をつぶって思いっきり走って、飛び込んだ空間、なんだか体がぐるぐる回り、地の底まで吸い込まれそうな感覚。

やがて、底に着いた。そんな感覚で目を開けた。

閉じるも同じだった暗がり。長ーい廊下の中途に僕たちは着いたようだ。

目を凝らして、ようやく分かる。

細い、横に3人ほどで詰まるような幅。天井がやけに高く5m以上はありそう。

暗さに加えて、壁も黒。

いかにも悪魔界、という感じ。

仮にイメージと違って変に明るかったとしても、天さんは言うだろう。

「ほな、何か? あんさんは悪魔界を見たことがあるんか? 人間の想像だけで言わんといてほしいな」

なつかしい、天さんの常套句。

天使と悪魔、イメージの違いを言ったら、いつも、こう切り返していた天さん。ついに、その天さんと一緒に悪魔界までやってきてしまった、僕。


ん? 感慨にふけっている場合じゃない。

僕たちは悪魔女を取り返しに来たんだ。


「しっ、誰か来る。姿消すから、絶対しゃべったらアカンで」

「・・・・・・!」


長い廊下、左手前方の角を曲がって二人の男が現れた。

廊下の端に張り付くように、通り去るのを待つ僕と僕の中の天さん。


「どうしたん? その目」

「いやいや、あの女悪魔、とんでもないやつや。いやな、さっき女悪魔の身ぐるみひん剥いて洗脳槽に浸けてきたとこなんや」

「ああ、知ってる。さっき連れてこられた悪魔のくせに悪魔っぽない女悪魔やろ」

(・・・・・・!、!)

「そう、そいつ。裸にしたらええ体しとるんで、運ぶ時につい、この手が触りよったんや」

「ほう、それで」

(・・・・・・怒!、怒!)

「そしたら、いきなりオレの目にパンチや。ホラッ、青アザもんやで、まだ痛いわ」

「そら、スケベなおまえが悪いわ。ワッハハハ」

(・・・・・・笑、笑)

「笑い事やないで。警備室にカギ返しに行った時も笑われたわ。ホンマ、あの女悪魔!」


去って行った男悪魔たち。

「ほんま、悪魔も関西系はようしゃべりよる。それで助かるけどな。ええ情報や」

「何がだよ。あいつ、天さん、あいつ、許さん!」

「落着きぃな。よう聞いたか? カギ返した言うてたやろ。あっちゃんを閉じ込めてる部屋のカギや、きっと」

「天さん!」

「そう。急ご! 警備員室や」


僕たちは急いだ。やつらの来た方向。ん? 僕の中の天さん、窮屈さがなくなったような。

角を曲がる。

あった! 「警備員室」の部屋看板。


こそっと、慎重にドアを開ける。

映像モニターが並ぶ。その前に座る一人の男悪魔。

ラッキー! 居眠り中だ。


キーボックスを目ざとく見つける天さん。凄い!

感心している場合じゃない。

開ける。ズラッと並ぶカギ、カギ、カギ。

(・・・・・・・・・・!!!)

発見! 「洗脳槽・K13」。これだ!


慎重に、音、立てない。でも、早く。

震える指。


やっと、取った。

警備員、まだ寝てる。一生寝てろ。

ん、机の上の書類が目に付いた。「天使界から悪魔界へ」

悪魔女の天使変更手続き書類だ。

(・・・・・!!!!)

こっそり胸にしまった。

部屋を出る。慎重に、慎重に、ドアを閉める。


部屋を出た僕たち。

進み出した所で、天さんの息遣いが荒い。

「どうしたの、天さん?」

「うーん、いや、限界かも。天使にはこの世界の空気が合わへん、言うてたやろ。きついわ、やっぱり。ちょっと、あんさんから出るで」


僕から出た天さん、見て僕、ビックリ。

やせ細って、天さんじゃない。

わずかの間に、ガリガリになっていた。

ここだと、消耗してしまうんだ。


「どうしょう、天さん。どうしたらいい?」

わからない僕。ただ、ただ、焦るだけ。


廊下の向こうから話し声。

やばい! 悪魔がやって来る。

でも、ふらつき状態の天さん、取り合えず抱きかかえようとした僕。

「おっ、誰だ!おまえたちは!」

しまった! 見つかってしまった。


(つづく)