「うーん」

目が覚めた僕。

そうだ。悪魔のちょび髭男にブン殴られて、ノビた。

天さんは? いた。

あ、悪魔女? いない。


連れ去られてしまったか?

「お、目ぇ覚めたか。大丈夫か?」

「う、うん。彼女は?」

「ごめん、守られへんかった。悪魔界に連れて行かれた」

「ええ! どうすんだよ! 天さん。ええ、じゃ、天使になれない」

「ああ、やつらは天使界の決定なんか無視しよるから、通知より先にあっちゃんを洗脳させてしまうつもりや」

「だめだよ、そんなの! なんとかならないの?」

「悪魔界に行って、あっちゃんを取り戻すしかない」

「なら、行こうよ、天さん」

「そんなぁ、簡単に言うてくれるで、ほんまに。人間の世界でもやつらに歯が立てへんかったのに。殺されるかもしれへんで、今度は」

「いい。いや良くはないけど、彼女を悪魔から救わないと、彼女は、絶対に天使にしてやらないと」

「ほんとやな。その覚悟はできてるんやな」

「ああ。ああ。僕も男だ」

「よおーし、ほな、オレも覚悟を決めた。連れてったる、悪魔界へ。ちょっと待っとりや」

天さん、服を脱ぎ始めた。

「えっ、えっ、何するの?」

「何って、あんさんの中に入るんやがな。人間が簡単に行けるとこやない。オレがあんたの中に入って悪魔界に連れてったる。ただ、あそこの空気は汚れ過ぎて、天使には耐えられへんらしい。どこまでもつか分かれへんけど、行けるとこまでオレが連れてったる」

「ありがとう、天さん」

「ほな、入るで。んーん、きつぅ」

「うーっ、ホント、天さん、きついー。ダイエットしなきゃあ」

「そ、そんなこと、いまさら。我慢、我慢。オレも我慢するしィ」


僕の中に入った天さん。窮屈、窮屈。

悪魔女を救いたい気持ちは同じ。一心同体だ。


「ええか、悪魔界の入口はどこにでもある。目ぇつぶって思いっきり走ったら、扉は開く。絶対、目、開けたらアカンでぇ!」

表へ出て、言うなり僕の中の天さん、全力疾走。うわーっ、恐い! 目をつぶっている闇の中のスピード感はハンパじゃない。恐い、でも、開けたらダメだ。うわっ、うわっ、うわっ、うわぁーっ、急に体が落ちだした。

奈落の底か?

落ちだした体が止まらない。

(つづく)