凄い、凄い、天使界の乗り物。

あっというまの、高知到着。


降り立った僕たち。やくざの親分、大邸宅の前。

あっと驚く、歓迎ぶり。? ? ?

夜中なのに、道いっぱいの人。手に手に大きな懐中電灯、工事現場で見かける赤い誘導灯を持ち、たまに通る車をチェックしている。

黒服、黒シャツ、白ネクタイ姿。近所の家では何事かと、カーテン越しにチラ見の人影。

「だめだよ、天さん。目立ち過ぎ。僕たち、逃げて来たんだよ」

「見て! 横断幕まであるわ。『歓迎、天使御一行様』やて」

「ま、とにかく、これおさめなアカン。早よ、行こ」


僕たちの姿を見て、一人の大柄な男が近づいてきた。以前にも岡山で見たことがある、親分をガードしていた、確かテッポウ・タカ。若い時はは無鉄砲タカと呼ばれていた。一人で敵対する組事務所に乗り込み、10人相手に大立ち回りをしたという伝説の男。

「ちょっと、アカンがな、これ。目立ち過ぎ」

「あ、ああ、さいですか。おーい、みんな、灯り消せぇ! お客さん、おいでや」


タカさんのひと声、道の両脇に整列するやくざの人たち。このあたりは流石だ。


大広間に通された僕たち。そこは酒宴の準備がなされていた。

「おおっー、よう来たな。まま、こっち座って」

待ちかねていたそぶりの親分。顔は嬉しさにあふれていた。

かくまう、という緊張感など微塵もない。


「あの、親分。電話でも言わせてもろたように、逃げてきたんやから。人目をはばかる身なんやけど」

「ま、そう堅いこと言わんと。うちのシマに来たからには安心じゃ。心配せんでええ」


悪魔の恐ろしさは口で言っても解るものではない。仕方ないことかも。

「これだけ用意してもろたら、オレも、ほなサイナラとはいかんわなぁ」

おいおい、天さん。僕たちを親分に預けて天使界に行くんじゃなかったの。天子様に訴えるってのは…。

「凄いね。ごちそういっぱい。この歓迎ぶり、うち、嬉しい。なんか、二人の披露宴みたい」

違う、違う。披露宴じゃないし、この夜中に酒宴なんて、おかしいし。


おかしい、思いながら注がれる酒を飲み干す僕。そのうち、悪魔でもなんでも来るなら来い!って気分で、見る物が二重に、三重に。


そういや、ホント久しぶり。飲んじゃった。喰っちゃった。歌っちゃった。ん? 


僕と天使と悪魔と、大勢のやくざ衆。


うつろな記憶の中で、カラオケ大宴会だったような……。


悪魔の追手が迫っているかもしれない、というのに。


(つづく)