ああー、つまんない。

天使の天さん、悪魔女、何でも屋の仕事、僕は留守番。

最近、天さんの取ってくる仕事少なくて、暇で仕方がない僕。


僕たちに任されていた中華料理屋さんの仕事も、ご主人が退院し、おかみさんも元気になり、終了。ただ、悪魔女の評判良過ぎて、店員もいないこともあって、悪魔女だけ続行。今日も夜9時まで、悪魔女がんばってる。

天さんはモーニングコールのおばあさんで、最近、寝込みがちの90歳のおばあさんの世話、せっせと励む毎日。

だから僕、ああー、つまんない。掃除して、洗濯して、買物して、天使と悪魔のために食事を作って、僕って主婦ならぬ、主夫。


思えば主婦もたいへんだな。毎日、同じ生活の繰り返し、それに毎日の献立考えるのも、ほんとやっかい。レパートリーの少ない僕なんか、とくにだ。

「また、これぇ」

悪魔女なんか、平気で文句言うし。

そういや、遅いな、悪魔女。もう、10時なのに。いつもなら、帰ってる時間。


胸騒ぎ、なんかないけど、落着かなくなる僕。


やっぱ、迎えに行こう。


中華料理屋なのに悪魔女目当ての客も多いし、悪魔女、調子いい軽さあるし。

僕、何心配してるんだろう?



部屋を出て、表に飛び出した僕。

うっ、寒い! もう、冬だな。天使と悪魔、出会ったのは夏だっけ。随分、以前の気がする。


途中にある公園の暗がり。数人の人の気配。

異様さを感じた。

目を凝らすと、若い女を二人の大男が殴る蹴る。一人の男がベンチに座り、見ている。

あれは、悪魔女だ。


慌てて、僕はそこへ走って行った。

「やめろっ! 何してんだ!」

一人の大男が悪魔女をはがいじめにして、もう一人の大男が太い腕で殴りつけていた。もうすでに、ぐったりしている悪魔女。殴る手を止めた男が僕に振り向いて、ギロッと睨んだ。

僕は臆することなく、そいつに飛びかかった。

しゃにむに腕にかぶりついた。


だが、あっさり振り払われ、太い腕の一撃を喰らった。


ぶっ飛ぶ僕、尻もち。

悪魔女が、苦しそうに顔を上げた。

「やめてぇ! その人、関係ないやろ」

「そうは、いくかぁ!」

殴った男、僕の襟首つかんで、引きずり上げた。


「きぃええーっ!」

悪魔女、力振り絞って、はがいじめ解いて、僕をつかむ男にキック!


が、通用しない。

男は攻撃相手を悪魔女に戻しただけ。


散々な攻撃が続いた。

何度となく飛びついた僕は、その度、跳ね返された。


どれだけ経っただろう。

「そのへんで、止めとけ」

ベンチに座ったままの男の声で、二人は悪魔女への攻撃を止めた。

言葉もなく、男たちは立ち去った。


僕は悪魔女に這い寄った。体中が泣きそうなぐらい痛い。でも、悪魔女はピクリとも動かない。

「大丈夫か、な、な、返事してくれよぉ」

動かない悪魔女。どうしよう。



僕は悪魔女をおぶった。

よろよろ、よろけながらも前に進んだ。

「部屋まで帰ろう。な、天さんがなんとかしてくれる。な、部屋に。死ぬなよ、な、な、痛かっただろ。ごめんよ。ごめんよ」

僕は、涙も、鼻水も、拭くことなく歩いた。僕の背中で動かぬ悪魔女が、心配でならなかった。結局、なんの助けもならなかった自分が、情けなかった。二つの思いが、涙を、鼻水を、溢れさせていた。

(つづく)