悪魔女、実年齢119歳とか。でも、見た目は20歳そこそこ。

明るく陽気な性格、多少、かなり怒りっぽいが、正義感が強く、そう、悪魔なのに天使の天さんより強い正義感。悪魔なのがおかしいぐらい。

小柄だがスタイルよく、出るとこは出て、ただ、それを露出し過ぎ、挑発し過ぎ、僕が困るのを楽しんでる気配は、悪魔的。まーるく大きな目、赤ちゃんのようにふっくらした頬、その童顔さが僕を和ませる。いくら悪魔女のせいで痛い目、それも半端じゃなく痛い目に遇っても、なぜか許してしまう。


「ねぇ、ねぇ」

悪魔女と二人きりの中華料理店休憩時間。カウンター席に座り新聞読む僕に執拗な悪魔女の誘い。調子に乗って触れるもんなら、悪魔女、防御スイッチ入って、僕、ブッ飛ばされる。わかっている。

僕の顔、下から覗き込むように、じっと見つめてくる。こいつ、僕の弱点知っている?

「あのねぇ、悪魔君」

「何?」

「何してんの」

「なんにもしてへんよ。ただ、見てるだけ」

そう言いながら、顔を近づけてくる悪魔女。


〈キス、してもええよ〉

小声でささやく。マイッタ。

「ただし、防御スイッチ入っても大丈夫なように、手足、縛るからな」

僕だって学習能力ある。万全の態勢を取るのだ。


ビニール製の丈夫そうなロープ見つけてきた僕、悪魔女をイスに座らせ、両手を後ろ手にして、念入りに縛る。

しばらくして、悪魔女が悲しそうな顔。

「なんか、いややなぁ。こんなことしてキスなんか。ムードもないし、うち、みじめっぽい」

「そうだよな、ごめん悪魔君」

僕はロープを解き始めた。


「やさしいね。キスしたい? うち、やっぱり、縛られてもいいよ。でないとうちの防御スイッチ入ったら大変やし」


また、縛り始める僕。せっせと、何も考えない。縛ることに専念だ。


両手を縛り終え、イスの背を利用して胸から胴とぐるぐる巻き。ワンピースを着ているとはいえ、肉にロープが絡みつく様子は、なぜか僕の心臓の鼓動を速くする。もちろん、こんなの初体験だから。

「なんか、ヘンな感じやね」

若干、顔を赤らめぎみに悪魔女。僕と同じ感覚か? 色っぽさが増す表情。


最後は二人とも無言で縛り終えた。


いよいよ、だ。


もはや、僕の頭に防御スイッチのことなどなかった。


イスに座って、両手を後ろ手にされ、ロープでぐるぐる巻きにされながらキスを待つ悪魔女。その前に立つ僕。異様な光景。だが、僕と悪魔女、真剣。

唇を近づける僕、あと少し、触れる悪魔女の唇。


「むぎゃっ、いたたたたたっ!」

悪魔女、一瞬、半透明になって、すぐ戻ったかと思うと、両手で僕のほっぺたつねり上げた。

ロープ、解けてる。


忘れてた僕、半透明になれば壁でも通り抜けられる悪魔女。こんなロープなど。


最悪、防御スイッチ、入ってる。


僕のほっぺたから両手を放すと、ジャンプ一番!


僕の首を足でカニ挟み、そのまま、横回転! きりもみ状態!


「ぅああああああああっー!」



僕が目覚めた時、店は夜の繁盛真っ只中だった。

奥の間で寝かされる僕に、店にいる悪魔女の声が聞こえてきた。

「ハーイ! ラーメン2つね。あっ、いらっしゃあーい!」


なんなんだ、あの元気さは。起きようとする僕、ううっ、身体が痛ーい! 


やだ、もう。


(つづく)