刀剣研磨に見る人生考 | 平成の侍 町井勲オフィシャルブログ『居愛道』Powered by Ameba

刀剣研磨に見る人生考

大幅な納期の遅れから、僕自らも研磨作業に勤しまなくてはならなくなった近頃。

正直、刀剣研磨はしたくないのです。

研磨に時間を割くと、刀剣の撮影、編集、掲載と言った作業に支障が出るからです。

子供8人を抱える身としては、短時間で効率の良い仕事を優先すべきなのですが、それが今はできません…

このままだと家計は火の車になりそうですが、納期の遅れを取り戻すには致し方なく…


しかも並研磨や居合用の研磨ですから、キッチリとした仕事をして時間をかけていたのでは大赤字となります。


そこで、手を抜きながら、どこまでごまかし研磨が出来るか、最短何日で研ぎあげることができるかを計算してみようかと、一振の刀で試してみました。

鎬地、平地、全て筋違で攻め、三ツ頭も横手もキッチリと立てたものの、元の下地をなぞるように、鎬地は丸いなりに研ぎすすめ、改正砥(#1000)に取り掛かった頃、どうしても気持ち悪くなり、もう、我慢がならなくなりました。


何をしたかと言いますと、再び砥戻しをし、一から研磨やり直しです。


研磨修業中、手の抜き方を教わることなく、己の戦いの痕を残すな。つまり、砥石目を残すな。と教えられたのが身に染みているのか、これくらいならいいじゃない?と言う砥石目ですら、気になって除去してしまう…

完全に上研磨です…

本当に割りに合いません。

今手がけている刀を研ぎ終えたら、もう研磨はしない。己の刀や門弟の刀以外は。刀の研磨に時間を割けば割くだけ家族を養えるだけの収入を得ることができない。


でね、思ったのです。


刀剣研磨って、人生みたいだなと。


元の下手な下地をうまく利用して、なるべく手をかけず、上手にそれなりに仕上げる研師もいれば、僕のように神経質な研師もいます。

棟から見ると、肉眼でもわかるほどに、厚いところや薄いところがあって、ムラが随所に見られるのに、それなりに研いでしまう様子は、人付き合いが上手で、俗に言う世渡り上手な人の人生みたいだ…

世渡りが下手なくせに、その場をごまかしごまかし、嘘で固める生き方は、蟻とキリギリスの話のように、後になって苦労をする。日本刀研磨も然り。
砥石目が粗いうちはごまかしが効くが、砥石目を細かくしていくと、当てたいところに砥石が当たらない。または思わぬところで鎬筋や小鎬などが崩れてしまう。重ねた嘘が露見した時には、とんでもないことになるのと同じですね。

面倒臭くても、一切の妥協をせず、入念に下地を整えた刀は、石橋を叩いて渡る人生のよう。若いうちに苦労を買って耐え忍んだ成功者のようです。
正しく肉置きが整えられているので、後々楽に砥石目を落としていくことができます。


かと言って、それが世間から正しく評価されるかと言えばそこは運もかかわるもの。

評価されずに終る人もいれば、認められて立身する人もいることでしょう。

然しながら努力の跡には大なり小なり、華が咲きます。その後の工程も非常に楽です。


僕は不器用で、それなりに仕上げることができないものですから、やはり地道に下地を整える研磨が向いているようです。



本当は、研磨も人生も、上手にやり過ごせる世渡り上手な人間になりたいのですが…






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