昨夜の稽古 | 平成の侍 町井勲オフィシャルブログ『居愛道』Powered by Ameba

昨夜の稽古

昨夜の稽古





初伝形全十一本を抜く。

その中で気になったのが六本目「請流」での抜き。

僕の道場での稽古は独特です。

他の英信流道場では恐らく行っていない稽古法を用います。

どのような稽古法なのかは相変わらずの非公開ですが、今や古株で主席指導員となった柳原君ですら四苦八苦しています。


少しだけ記述しますと…


鞘付き木刀を用い、二人一組で稽古します。

絶対絶命の不利な状態から、さっと刀を抜くと同時に受流しの形をとるのですが、これをシビアに行うのです。


英信流系居合教本を見るに、また、僕自身教わった英信流形も、想定では敵は左斜め前方から斬りかかって来ることになっていますが…


僕はこの想定に異を唱えています。


考えてもみてください。


わざわざ相手から見てとれる位置から斬りかかろうと皆さんは思いますか?


古来より侍を攻めるには左からと言われています。右から攻めるに比べ、左から攻めると抜刀する都合上、侍は不利と考えられているからです。


それでは何故現代の英信流居合は左斜め前方から攻めてくるのか?


これは僕個人の想像ではありますが、天覧での形演武などで失敗することを恐れ、間違いなく形が成立するよう、相手が見える位置から攻めてもらったことが、いつしかそれが正当だと誤って伝えられたからではないかと思うのです。


男性と女性では身体の構造上視野範囲が異なることを皆さんはご存知でしょうか?


女性の視野は広く、左右九十度の位置にあるものも視界に入るのに比べ、男性の視野は狭く、左右九十度の位置にあるものは見え辛いのです。


ならば、その身体的欠点を攻めるのが武術。


斬り手は侍(男性)の視野に入り辛い左右側面から襲いかかることで、己を優位にしようとするわけで、見えない位置から攻めてくる相手を倒すには、研ぎ澄まされた感性と、体捌き、そして間が必要とされるのは必然。


また、形を見ていても、どう考えても真左から攻めて来る相手を斬った位置に身体は向いて終わっているのです。


よって、左斜め前方から攻めて来た敵を斬った形ではありません。

しかし、居合教本の写真では、斬り手は大げさなくらい受流しでかわされ、前のめりに軸が傾斜しており、その首を落とすなどと表現されているのです。


おかしいではありませんか?


皆さんが座している相手を斬るのに、そんな隙だらけの前傾姿勢で斬りますか?

答えは「NO」のはずです。


現在英信流もしくは神伝流を稽古されておられる方は、一度真左から打太刀にかかってみてもらってください。

相手の気配は読み辛く、また、体裁きで受流しつつ斬り終えた状態は、相手を真っ向から斬り斃している形になることに気付かれることでしょう。


本来の居合術(敢えて居合道と居合術は別物と表記します)はそのように非常にシビアな命のやりとりになるのです。


道場を構えられている年配の先生方、また、先輩方の形演武を見るに、あくまで自分が優位に始まる形であって、そこに危機に対処する姿は見られません。


また、「請流」を文字の如くそのまま受けて流すものと勘違いされておられるかたも多いのです。


居合用の安価な真剣であっても、数万で購入できるものではなく、それなりに使えるものとなれば、相場が下がった現在であっても、やはり40~50万は見なくてはいけません。

サラリーマンからすれば大金です。


そんな大枚はたいて購入した刀を、わざわざ刃こぼれさせたり、傷物にするような使い方をしますか?

しませんよね?

本来の「請流」とは、体捌きで敵の斬撃をかわすものです。受け流しの形をとるのは、万一相手が真っ向ではなく、袈裟で攻めて来た場合や、思いの他相手の斬撃が速い場合の保険に過ぎないと僕は門弟達に教えています。


その体裁きと抜き上げの技術を習得するには、絶対絶命の不利な状態からの稽古が一番なのです。


昨夜の稽古では何故右手で刀を抜いてはいけないのか?
腰を引き、前傾になりながら鞘引きで抜きあげてはいけないのかを、痛いほど理解できたものと思います。

何故なら様々な想定のもと、隙があれば木刀で突かれる、斬られる、と言った打太刀本位(有利)の状況の中で稽古するからです。


たった人差し指一本で、大抵の人の請流は封じることができます。

大切なのは自分の軸を絶対に崩さない安定した体捌き、そして腕で抜き上げるのではなく、体捌きの結果勝手に刀が鞘から抜けているという本来あるべき刀の抜き方をすることです。

それができるようになれば、柄留めされようと、腕を掴まれようと、はたまた柄や鞘を握られようと、なんら問題なく相手を斃すことが可能となります。


土曜日の豊中道場での稽古に参加される門弟の皆さん、今週の課題は昨夜同様に請流での抜き上げを徹底的に稽古しますので、ふるって参加されてください。

腰で回る、腕で抜き上げる、腰を引きながら鞘引きで抜き上げることが何故隙を作ることにつながるのかを痛感することでしょう。














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