刀剣店でのマナー | 平成の侍 町井勲オフィシャルブログ『居愛道』Powered by Ameba

刀剣店でのマナー

刀剣を取り扱うこの仕事を生業としておりますと、様々なお客様に出逢います。

今回は出逢った様々なお客様の中から、刀剣店の店主として、お願いと苦言を述べさせていただきます。

将来刀屋へ出向かれる方や、現在も刀剣店に出入りされておられる方、御参考にしていただければと思います。



一.店内の品に無許可で触れるべからず。

武道具店に並ぶ模擬刀、自由に手にとってバランスをみるシステムをとっているお店をよく見かけます。また、日用雑貨や電化製品など、大量生産品につきましては、店頭で必ずと言って良い程、商品見本を置いてあり、自由に触れることができます。

そんな感覚が刀を扱う世界でも当たり前だと誤認している御客様が多く、店主に何の断りも無く、勝手に刀掛から刀を取り、抜き払って眺める御客様が後を絶ちません。

また、馴染みであったとしても、接客中にかかってきた電話に対応している間に、時間潰しであれこれと許可なく刀剣や小道具を手に取られる方も多いのです。

逆の立場で考えて下さい。いくら商品とは言え、許可も求められず勝手に触れられたら嫌じゃないですか?
更には作法に適わない扱い方で手にする人がおり、刀に錆や傷をつけられたことも数度となくあります。

御客様商売ですからガツンとは言えないのですが、相当嫌なものです。



一、みだりに刀剣を批評するべからず。

下世話な話、購入するための現金を用意してきて来店され、あれこれと刀を見て、気に入る物がなくて「この刀もちょっと…」「この疵が気になって仕方ない…」などと批評されるのは致し方ないと思いますが、ここで多いのがただの「刀剣拝見客」です。

購入する気配も気構えもなく、ただ名刀をじかに手にとって見たいというだけの卑ん坊のお客様。刀をお見せするには、油も取り、場合によっては柄を外したりと、刀剣油にティッシュペーパー、打粉と言った消耗品も使いますし、応対には貴重な時間も割かれます。
そんな気苦労はおかまいなしで、快くお見せした刀を、「この疵は目立つな」「磨上げじゃなかったら良かったのに」「鑑定書がついているけどなんか雰囲気怪しいぞ」などと頼んでもいないのに素人鑑定し出す御客様も多いのです。

商品とは言え、可愛い刀です。それをけなされたら良い気がするわけがありません。
ましてや購入するつもりもない冷やかし客に対し、誠心誠意の対応をしているのですから、「貴重なお時間をありがとうございました。数多の作品を拝見させていただき、良い勉強になりました。」と礼を述べるのが正しいマナーであり、間違っても拝見させて頂いている御刀を批評するものではありません。江戸の世であれば大事になりますよ。



一、興味本位で中心拝見を願わぬこと。

柄を一回脱着するたび、鐔やはばきを一回外すたびに、刀身や中心は厳密に言えば痛むのです。
江戸時代には刀番がおり、大名家が管理する朱銘・金粉銘の刀は、柄の脱着にも細心の気配りをしていたので、健全な姿をとどめていました。それが今の時代はどうでしょうか?
商品として扱われるようになった刀剣は、柄の脱着や、じかに中心に触れる回数が江戸の世に比べて格段に増し、いまや巷では金粉銘や朱銘が剥離してしまった名刀を見かける機会が随分と増えました。悲しいことです。
真剣に購入を検討している場合や、店側が自ら中心まで見せてくれた場合を除き、気軽に「中心拝見」は申し出ないでおきましょう。




一、名刀を手にさせてもらうのは馴染みになってから。

初めてお会いする一見さんなのに、「この店にある一番いい刀、高い刀を見せてくれ」といきなり申しだされる方が稀におられます。
どのお店にも、金庫や刀箪笥の奥に秘蔵する名刀があるものですが、それをいくら御客様とはいえ、見ず知らずの者にお見せするわけがありません。
稀に遠路わざわざ訪ねて下さったお客様に、やむなくお見せすることがありますが、正直このような申し出は慎んで頂きたいものだと思います。

以前このようなことがありました…
何度か来店されたことがある御客様、売価三千万を超える名刀をじかに手にとって見たいと言われ、快くお見せしたところ、手元の部分を見ることに夢中になり、鞘をコツンとぶつけて傷物にされました。
よくよく見ないとわからない程の小さな凹みではありましたが、どれほどの精神的金銭的ダメージを受けたことか…

御客様に弁償できるだけの経済的余裕もなく、私が一人泣かざるをえませんでした。私が泣くだけならまだ良いのですが、私が一番気にすることは、名品を傷物にしてしまったことに、結果一役買ってしまったということ。ガンとして名刀拝見をお断りしていれば、次の時代にも健全な姿で伝えることができたであろうに… という悔いても悔やみきれない後悔なのです。

このようなことが起これば、互いに気不味いものです。御縁も自然と切れるます。
たとえ馴染みになったとしても、万一の弁済ができる心構えがなければ、大名刀の拝見など願い出るものではありません。

更に致命的な空気を読めない御客様などは、本来博物館や美術館でガラスケース越しでしか見ることができない程の大名刀を、ただで拝見させてもらいながら、同じ○○でも他店にあった物の方が私は好みだな。などと要らぬ一言を洩らすのです。
気前よく応対してこれでは、腹立たしさは絶頂になりますよ。



一、貴金属は取り外すべし

指輪やブレスレット、腕時計をしたままで刀を拝見する御客様が多いです。
指輪をした手で白鞘の柄や鞘を握れば、摺れ傷や凹みを招きます。腕時計やブレスレッドも然り。袱紗を当てて観刀中、うっかり手元が滑ってしまった時に、それらの貴金属で刃を欠かしてしまったり、深いヒケ傷をつけてしまうこともないとは言えません。
値段の高低にかかわらず、刀剣拝見の最低限のマナーとして、貴金属は取り外し、刀を前に口を開かないこと。これは絶対に守らなければならないことです。





ということで、酸っぱいことを書きましたが、これが店側の気持ちです。
御客様と刀剣店が良き関係を築けるよう、上述しましたマナーは是非御守りください。