試斬とその稽古について | 平成の侍 町井勲オフィシャルブログ『居愛道』Powered by Ameba

試斬とその稽古について

今の技術に到達するまでの間、つまり、修行期間中、数多くの刀を試し、曲げたり、刃毀れさせたりしながら腕を磨いてきた…

と言う方や、僕もそういった経過を経てきた一人だと思っている方もおられるのではないでしょうか?


実は、僕は多くの刀を試したことがないのです。

そして、稽古に於いて刀を潰してしまったこともないのです。


抜刀道と言った試斬中心の道場に所属されている方のお話を伺いますと、曲げては直しを繰り返した結果、刀に金属疲労を起こしてしまったり、大きな刃毀れや折損といった事態を招いたり、刃筋を通せないことから、刀に捩じれを生じさせてしまい、使い物にならなくしてしまった経験談を耳にします。


僕は貧乏性のせいか、ことさら刀を大切に扱ってきました。

勿論、修行中(現在も修行中ですが)に刀を曲げてしまったことはありますが、何度も刀を買い替えることは一切ありませんでした。


現在、藤安将平刀匠の作を大小合わせて5振、繫久1振、新々刀の無銘物1振、宗勉の作を3振、計10振の刀を武用刀として使用していますが、それら以外に試斬に使用していた刀としては、室町期の再刃物1振に、大磨上無銘の高田物1振のみでした。

それらは僕が斬る様子を見た方等に懇願され、お譲りしましたが、稽古で使い潰して手放したわけではありません。


先日門弟にも言い聞かせたのですが、ダメな時は何をやってもダメ。そんな時にむきになって刀を振っても、曲がりや捩じれを生じさせるだけなので、刀を放し、樋入りの模擬刀等でしっかりと素振りや軸作りに勤しむようにさせています。
当然、僕もそのように行ってきました。


抜刀道や試斬中心に稽古されている方にお願いしたいことなのですが、稽古には存命中の現代刀匠の作を積極的にお使いになってください。

そうすれば刀匠も生活出来、今の時代に良い利刀を産み出すお手伝いもできます。

昨今、刀剣の相場が大きく下がり、室町時代以前に鍛えられた古刀や、江戸時代以降に鍛えられた新刀や新々刀などが、現代刀よりも安く入手できるようになりました。

その影響で、古い刀をどんどん試斬やその稽古に使われる方が増え、今、文化財である刀剣は未曾有の危機に瀕していると言っても過言ではありません。


江戸時代以前、今の時代のように、やたらめったら試斬稽古をする道場などありませんでした。

刀はあくまで身分の象徴であり、いざという時のための守り神であったのです。

それがどうでしょう?
意味もなく古刀を試斬に試し、巻藁を斬りやすくするために、平肉や刃肉を削ぎ落とすような研磨をかける方も見受けられます。

文化財破壊のなにものでもありません。

刀は一振あればそれでじゅうぶん。一振の刀を生涯使い続けるのも、かっこいい生き方ではありませんか?


武用刀を10振所有する僕が言うのもなんですが、僕の場合は、斬る対象物に合わせて、それぞれ研ぎを変えて所持しており、また、より良い現代の名刀を世に残すべく、将平刀匠の作を試す役目も担っているため、これだけの数を所有しています。

巻藁を斬らずとも、刃筋が通っているか、理想的な斬り方ができているかどうかは、模擬刀や木刀の素振りからでも体得できるものです。


また、刀は腕や首を両断するような使い方が正しいわけではありません。骨を断たず、動脈をさっと斬る。それが正しい使い方なのです。

考えても見てください。動き回る相手に対し、骨まで断つ斬り方で戦い続けては、流石の日本刀も長持ちなどしません。
相手を裁断できるほど間合いを詰めては、自分自身も危険極まりない相手の間合いに入ることになるのです。こんな戦闘法はナンセンスです。
物打を使用する必要などありません。遠い間合いから切先1寸で勝負はつきます。


そんな武術的観点、物理的観点などから、僕の道場では試斬には一切力を入れていないのです。



さて、話を最初の話題に戻しますが、僕自身、刀を潰してしまったことが全くないわけではありません。

ただし、それは稽古の過程ではなく、TV収録の過程やそれに付帯する業務上においてです。

初めて壊した刀は、フジテレビ『THE BEST HOUSE 123』の依頼で鉄パイプを斬るという撮影に挑んだ時でした。
本番に際し、どれくらいの太さ、肉厚の鉄パイプなら綺麗に斬れるのかを実験すべく、厚さ2ミリ幅1センチほどの薄い和鉄製の鉄板を自宅で試した時、フジテレビさんが用意して下さった、戦時中に鍛えられた某陸軍受命刀工の作になる一刀が、最初の一太刀で真っ二つに折れてしまいました。
物資不足という戦中の時代背景柄、鉄の素材が悪かったこと、焼き入れの具合もあったのでしょうが、刀とはいとも容易く折れるのだと、身をもって経験しました。

その後は藤安将平刀匠協力のもと、氏の鍛えた作で、様々な太さや条件で、鉄パイプを斬り込み、将平刀匠の作を2振り潰したのみです。


他に番外編?としましては、お客様からの依頼で、「この刀がどれほど斬れるのか試して欲しい」とのことで、土壇斬りに使用した再刃物の刀があります。
なんでもヤフオクで12万円くらいで購入されたとのことで、一見して再刃物とわかるものでした。焼刃も非常に眠く、しかも焼刃があるところ、ないところがあるくらいの完成度の低い再刃物でしたので、絶対に姿が壊れてしまい、ダメになるだろうから、この刀で土壇斬りなどしたくないと断ったのですが、どうしてもということで、やむなく斬り込んだところ、畳表1本を両断したのみで、逆への字に俯いてしまいました。

このように、刀の焼き入れ状態、素材である鉄質や、斬り方によっては、たった一撃で刀は鉄クズと化してしまいます。

古い刀や、現代刀であっても、故人の作は、再び生産することはできません。
我が国が世界に誇る文化財として、古い刀は使用せず、次の時代に残していくことに、武道を嗜まれる方には御協力をお願いする次第です。

経済的な理由から、現代刀を購入することができない方は、しっかりとした腕達者の先生の指導のもと、刀を壊さないように細心の注意を払ってお使いいただきたく、一愛刀家としてお願いいたします。


今のままでは日本刀はどんどん数を減らしていくことでしょう。
素晴らしい文化財を次代に残し、伝えていくことこそ、現代に生きる我々の役目だということ。金を出して購入したからには、自由に使っても良いなんてことはありません。
今の一時代、地球規模から言えばほんの一瞬の時間、預からせていただいているのだという認識を、どうか忘れないでください。