抱え首 | 平成の侍 町井勲オフィシャルブログ『居愛道』Powered by Ameba

抱え首

抱え首について語ってみましょう。



>首の皮一枚を残し、罪人自らが首を抱くように斬るのが、お試し御用たるおつとめと聴いたことがあります。


このようなコメントをくださるとは、非常に歴史ツウです(^-^)

そうなのです。

自らが首を抱くように斬るのが理想とされたのです。

ただし、これは罪人ではなく、切腹人に対して行われる斬り方です。



切腹での介錯



斬首


イメージするのはどちらも首を斬るまたは刎ねるという行為ですが、両者は似て全く非なるものなんです。

切腹は武士として面目を保つ誉れある死に方。
斬首は罪人として処刑される死に方。

に分類されます。


切腹は、切腹人と介錯人、そして検視役(大抵の場合お偉いさんです)で構成され、武士としての名誉ある死だけに、屋敷室内にて行われます。※身分によっては庭先、牢屋敷内も。

時代劇では真っ白な裃を身につけていますが、実際には浅黄色(薄い青色)の裃を着用し、上下逆に屏風を立て、四方を布で囲って行われました。


ここで介錯人がいかに腕の立つ者でなければいけなかったのかは、~斬るといふこと~で書き記しましたが、切腹人を預かる家としては、介錯に失敗するなんてことは、家の不名誉になるので、家臣の中に斬り上手な者がいない場合は、わざわざ他家へ頭を下げ、上手な者を借りたといいます。


話が少しそれましたが、斬首と切腹がこれだけ意味の異なるものだけに、完全に首を斬り落とすのではなく、首の皮一枚残して胴と首をつなげておく必要がありました。
勿論介錯の作法は、その地域や流儀によっても異なることがあり、完全に斬り落とすところもあったそうです。


ここで挙げる「抱え首」、刀の入射角や圧力など、様々な条件を満たしていなければ成し得ることができません。
首の皮一枚残すことに重点を置き過ぎると、骨で止まって首の中ほどまでしか斬ることができず、切腹人はそれこそ悶え苦しむことになります。
かといって留めることをしなければ、首は身体と離れてしまいます。更には手前が浅く、向こうが深く、またはその逆といった斬り方になると、本来なら首を前に落とし、抱え首をさせることによって、前倒しにしたい切腹人の身体が、
首が前に落ちず、左右に少しずれたところに落ちてしまうことで、身体も崩れ倒れ、検視役に血飛沫が付くなどの無礼にもなってしまいます。

介錯って本当に難しいものですね。

なお、時代劇で見るような短刀・脇指で腹を切るなんてことは、江戸時代では幕末頃の一部の武士しかしておらず、殆どの場合は形式化して、短刀を取ろうと手を伸ばして、身体が前に倒れる瞬間に介錯をするというもので、もっと形式化されたものになると、短刀ではなく、扇子を腹に当てる、または扇子に手を伸ばした時に介錯していました。



マメ知識…


斬首に処される罪人の身体は、返還されることがなく、刀の試し斬り用に使われました。ただし、侍や坊主など一部の身分の死体は、試し斬りに使用することが禁じられていました。


首と胴を斬り離された切腹人の身体は、柄杓の柄を胴に差して首を継ぎ、敷絹で死骸を包んで棺に納めたのだそうです。