武道における様々な都市伝説 | 平成の侍 町井勲オフィシャルブログ『居愛道』Powered by Ameba

武道における様々な都市伝説

ちょっと真面目な話を書いてみます。


尊敬する人のことを語る時、また、自分が見たことを語る時、人はそれに尾ひれをつけたがるものです。



先日放送の鉄パイプにしたってそうです。


日本刀はパイプ椅子の鉄パイプ程度なら容易に裁断できる。しかも刃こぼれもしない。


そう言われていましたし、僕自身も思いこんでいました。



何故なら僕が15くらいの頃でしょうか?

とあるテレビ番組でパイプ椅子を日本刀で裁断する映像をみたことがあったからです。



番組的、名誉的な問題がからんでくるので、出演者や刀の作者など深くは触れませんが、日本刀の強靭さをアピールするシーンで、いとも簡単にパイプ椅子を裁断したその人は、番組のメインである兜割の斬り手にはならず、どこかの流派の先生が、斬り手としてチャレンジしていました。



放送では見事兜に斬りこみを入れたとして、日本刀の勝利みたいな終わり方でしたが、実はこの撮影では刀が折れ、兜が勝ってしまったのを、番組の構成上、斬りこみやすい別の兜に差し替え、刀も替えて再チャレンジしたそうです。



若造が偉そうに薀蓄傾けさせていただきますが、兜割にチャレンジされたその先生は、私の眼から見るに、兜割に適した好斬手とは思えませんでした。



今思い返せば、鉄パイプをいとも簡単に裁断した人物こそが兜割りにチャレンジすべきではなかったのか?


なぜチャレンジしなかったのか?



その後、その番組は別の番組内でも放映されましたが、肝心のパイプ椅子裁断シーンはカットされていました。



なぜ?




やってみてわかりました。


パイプ椅子の鉄パイプなど、日本刀を用い、人力で裁断するのは不可能。



恐らく放送で使われたパイプ椅子は、鉄ではなく、アルミなどの素材だったのではないかと推測され、もしくは鉄パイプ椅子との説明はなく、勝手に視聴者が鉄パイプだと思いこんでいただけかもしれません。


と、いいましても見てきたわけではないので、あくまで想像ですが…



今回様々な太さと厚さの鉄パイプを試して見てわかった答えは、鉄パイプの直径が大きくかかわってくるということでした。



刀の刃が鉄を裁断するまえに、パイプが潰れることで衝撃を吸収し、裁断ができないわけです。


直径4センチ、厚さ1.2ミリほどの鉄パイプを試したところ、僅かに斬りこんだだけで、パイプは半分ほど潰れて刀は止まりました。


厚さ2ミリ直径2.5センチほどの鉄パイプも試しましたが、とうてい真っ二つにできるものではありません。



僕の腕をもっての結論としては、厚さは1ミリ、直径は16~17ミリが人力で両断できる限界だと思います。




さて、前置きが長くなりましたが、最近よく言われるのが


「町井さん、水甕は斬れる?」


というもの。



なんでも某抜刀術の先生(故人)がジャッキーチェンの映画に出てくるような大きな水甕を一刀両断にしている写真があるそうで、僕も薄っすらと記憶に見た覚えがあります。


その写真では水甕が全く欠けることもなく、刀が綺麗に半分まで入っていました。



見てきたわけではないので断言は避けますが、これ…

人間にはできません。(と思う)



若い頃趣味で窯業をやった経験があるのですが、素焼き前の自然乾燥させた状態の水甕なら裁断はできると思います。

茶碗や湯のみの高台なんて、この自然乾燥させた状態の時に削りだして作るのです。


で、気になる証言が一つ


水甕には水がなみなみと張ってあったということ。

分厚く作った自然乾燥の水甕の首に釉薬らしきものを着色し、中に水を張れば、水甕は内部から水が染み、粘土に戻ろうとします。外見上はわからないでしょう。


この理屈なら物理的に水甕(モドキ)を一刀両断にすることは可能です。



水甕斬りをしたその人物は、後日その刀で兜割りにもチャレンジしたそうですが、斬り込みは一センチ弱だったそうです。


窯の中で焼き、化学変化を起こしてガラス化した焼き物を、砕くことなく、綺麗に斬ることができるだけの実力の持ち主なら、もっと兜に深い斬り込みを入れることができたはずです。

また、その様子が写真でしか残っていないというのも非常に気がかりです。


あくまで僕個人の見解を綴りましたが、武道の世界にはフェイクがどれほど多いことか。

そういったトリックを知らずに同じことにチャレンジする人が、毎年少なからずも一人はいるようで、折角の刀が折れたり、再生不可にさせられたりしています。



人間だもの


できることには限界がありますし、物理的にも不可能なものがあります。



今回の僕の鉄パイプ裁断を「簡単そうだ」と真似する人も現れるかもしれませんが…


よほどの修練積まなければ必ず刃こぼれさせますし、叩きつけるような斬り方では刀の寿命を奪ってしまいます。



決して生半可な気持ちで鉄パイプ斬りの真似事をするのはやめてください。

もし、チャレンジする場合は、時代物の美術刀剣の使用は絶対にさけてください。折角数百年の間生きてきた刀を、むげに殺すのは大罪です。

僕のようにこころやすい刀匠と組んで、現代刀でチャレンジするようお願いします。