サンはジェゴンと水原へ行って、ヤギョンら検書官のいる築城現場に立ち会った。
切り石の城壁は半円形で、二重構造の壁の底はかなり深い。
職人らは内壁と外壁の間に通路に立って、最上段に切り石を1つずつ重ねていく。半円形の直線部分に建てたあずまやと、獣と鳥の混じった絵柄の旗が、頂上で力強い風をまともに浴びた。
この城壁から作業場の全景が見渡せる。山と丘がすぐ迫る。地上では、ざるや樽を頭にのせた婦人、木づちを肩に抱えた労働者、2人で棒を担いだ役人が、切り石をさげて通り過ぎていった。
筒型の壁に沿って、丸太を組んだ足場が竹林のように伸びている。荷物を上へ運ぶのは、板を並べた橋か丸太の階段を使う。
白い前かけをした作業員が、背負い椅子に切り石を3つのせ、足場の途中に組んだ作業スペースへあがっていった。
役人は2人かかりで、巨大な糸巻きの取手を地面へ尻が触れるまで力を込めて押し下げた。7つの取手が回転して、荷物がロープで引き揚げられていく。押したらまた立ちあがって、次の取手を押し下げる。
石工や木工などの職人の賃金は4両2文、日雇いの人夫は2両5文だった。賦役と違って、民にちゃんと賃金が支払われたおかげで、城壁工事の遅れ以外は、予定通り進んだ。
「奇器図説」を参考にしたヤギョンの試作モデルを見るため、引き続き部署へ移動した。
「想像以上に大規模ですな…」
ジェゴンは期待を込めたように、石の運搬クレーンの出来栄えに目を細めた。天から足元まで10本のロープが川の字に伸びている。
その巨大な仕かけとは、丸太を井の字に組んだもので、てっぺんの横木から、4個の鉄の滑車つきロープと、それに加えて中央に滑車なしのロープが2本、吊ってある。一番外側に装着した滑車のロープは、仕掛けを支える両端のハシゴに結びつけられていた。
「滑車を固定しないことで、2万5千斤の物を40斤の力で持ち上げられます。そこでこの機械を挙重機と名付けました」
「ではなぜすぐに城壁の工事に使わない?」
サンは自分で試すべく、ハシゴに結わえたロープを1本つかんで引き下げた。その瞬間、5つの滑車を装着した足元の枕木が、ふわりと宙に持ちあがり、片側だけが大きく傾いた。
サンはしばらく、ロープを引きあげたり下げたりしてみながら、やがてガッカリしたように手を放した。ロープはスルスルと滑車から滑り落ちて、枕木がぷらんと水平に戻った。
この滑車の問題点がわかったのだ。
両側から同じ力で縄を引っ張らない限り、重心が崩れて石が落下してしまう。
安全に作業するには水平に保つ必要があった。
町におふれを出してからというもの、宮中にはソンヨンを診察しようと、はるばる遠くから医者がやって来た。
肝硬変の患者を実際に治したことがあるという医者も見つかった。
しかしやはりその医者さえも、サンが解雇した医官たちと同じように、手の施しようがありませんと、最後には残念そうに頭を垂れた。
もはやソンヨンの回復は、サンの悲願になった。
サンが今、眺めているのは、首から膀胱まで描かれた内臓の正面と背面図の本だった。臓器の名称と一緒に、説明も添えられてある。
1つ前にページを戻した。こちらの方は横向きの人体図で、長い背骨に沿って肝と腎。手前に肺、心臓、脾臓、胃、大腸などと明記されている。
清から戻った通訳官の話では、西洋医術で肝硬変を治した医者がいるらしい。
噂に聞くばかりで、実際には誰も見たことがないのだから、ソンヨンに試すには大きなリスクがあるだろう。
しかし明日にでもソンヨンが息を引き取るのではないかと思うと、息も落ち着いてできないくらい苦しかった。
テスは王命を受けて、一瞬も馬を休ませないつもりで清へ出発した。
「私が知るところ西洋の医術は体を刃で切り裂き、臓器をくりぬくなど残忍極まりない治療を施すそうです」
最後まで難色を示したのは年老いたジェゴンである。
テスが清から医者を連れて帰るまで、じりじりと時間が長く感じられた。それはサンだけではなくて、テスの叔父パク・タロも同じだった。
宮中での仕事など、どうせ手につかないのだからと、たわら型のカバンを背中に長く垂らし、パク・タロはテスを迎えに旅へ出た。上手くいったら、王様の親衛隊より早くテスと遭遇するかもしれない。
そして山に開けた草野の丘から、遠くを見渡していたパク・タロは、鼻筋に白い模様の通ったテスの栗色馬を、誰より一番先に見つけたのだった。
赤い三角旗を背中に立てた親衛隊の早馬が、この朗報を届けるため宮中へ突っ走った。
かなりの名医がテスの後から着いて来ており、間もなく都入りするという。