元陵と永祐園の間にある別内や松秋などへ向けて、一行は出発した。

先頭で旗を持つのは丈の長い衣を着た役人たちだった。切手のような縁どりの四角い旗の中で、大柄の龍が強風で大きく広がった。

テスと仲間の3頭の馬、とんがり棒と黄色い衣のチャルメラ楽器隊10名の後に、王様の馬が細い脚をゆったりと折り曲げて進んだ。

サンのその特別な馬は覆面をしていて、布の2つの穴から耳を出し、額と鼻づら部分に金の紋様が打ちつけてある。

ナム、ジェゴン、グギョンの馬がそばに、背後には鉄かぶと兵がついた。

かぶと兵の大将は、ウロコつきの鎧に身をまとい、首に赤布を巻き、毛皮帽をかぶっている。彼が乗っているのは、鼻筋に白模様が通った見事な馬だった。

一行は、わら屋根の集落を通った。その様子をひと目見ようと、野次馬たちが道の両側に立ち並んだ。

そり返った赤屋根のコシが、好奇心たっぷりな野次馬の目に近づいてきた。入口ののれんと房飾りの奥に、ひっそりと中殿の姿が見える。

畳6枚分はあろうハシゴの上に、コシが丸ごとのせられており、ずきんをかぶった男らが、肩とハシゴをたすきで縛り、船をこぐように押して歩いた。側面に房や散り花の串飾りを差し立てた華やかなコシだった。

パク・タロの妻で飲み屋の女将は、近所のお喋り女や、くたびれた男らに、さも誇らしげに説明するのだった。

「あれがうちの甥っ子のテスよ。従5品の宿衛官なの! あそこにいるのは従八品、うちのだんなよ!」

近所の女や男たちが感心して視線を送った先には、中殿のコシのそばで、堂々と腕を横に振って歩くパク・タロがいた。

女将はさらに勢いづいて、大声を張り上げた。

「新しく側室になられた宣嬪様は、王様の寵愛を一身に受けてるそうよっ!」

中殿のコシとソンヨンのコシの間には、赤い大ウチワをかかげて歩く2人の女官がいた。

金の屋根のソンヨンのコシは、青い日除けの内側に金すだれを巻きあげ、外付けの椅子タイプであったので見通しが良かった。ソンヨンは久しぶりに懐かしい街を目にして、嬉しそうな笑顔を浮かべた。

赤服と青服の役人、図画署員、銃兵、槍兵、荷物運びの男らと、行列はわら屋根の集落から林の一本峠を抜け、やがて荒れ地の原っぱを長々と下りはじめた。

最後尾を行く数本の旗の揺らめきは、はるか後ろの方だった。

先頭のずっと向こうに、黒瓦の2階門の横長いとりでが、かげろうのように、ぼんやりと映った。

その方角から砂埃を巻きあげて、4頭の馬が駆けのぼってくる。

馬が行列の前で止まると、一行の歩みも自然にストップした。

うち1人が馬から降りて、何か急な知らせでもあるらしく、サンのもとへ挨拶に走った。

「私は村長、パク・インギュでございます。この村には特に要望もありませんので、通過してもよろしいかと」

逆に通過されると何か困ることでもあるような切実な表情である。

「そうはいかない。村を視察せねば。案内してくれ」

サンにきっぱり跳ねつけられ、村長は戸惑いつつも、自分の馬をサンの前へ回した。

行列が再び進みはじめると、大太鼓、長ラッパ、小太鼓、つづみ太鼓など、チャルメラ楽器隊の音楽が、ススキの荒れ野原に奇妙に響き渡った。

しかしサンが険しい顔で馬を止めたのに合わせて、演奏の方もぴたりと静まり、代わりに、煙のあがる草畑を、村人達が枝ではたく音と風、小鳥のさえずりだけが残った。

「何を焼いている?」

「はっ、王様。何でもありませんが…」

村長は慌てて誤魔化そうとしたものの、ナムが事情をよく知っていたから無駄だった。

「綿花はこの土地の副産物です。最近は清からの輸入が増え、重要が激減したため、綿花畑の半分を焼き払っているのでしょう。育てても売る先がないのです。民にとっては生活に関わる問題ですが、役所の人間は放置しています」

サンは、早速この村に宿泊して民の声を聞く場を設けることに決めた。

それに伴い、敬老の宴の準備の方も進められたのである。


中殿は庭に立って、脚付きのお膳に女官達が、出来あがった料理を縁側へ並べる様子を満足そうに眺めた。

皿の音が耳に心地よかった。

しかしその背後では、グギョンが中殿を憎々しげに見つめていたのだ。もちろん中殿は知るよしもなかったが…


夜になって、役所の執務室にようやく腰を落ち着けたグギョンは、襟元から、ふと薬包を取り出し、しばらく眺めた。

翌朝、その薬を亡くなった元嬪の尚宮を務めていた女に手渡した。敬老の宴で中殿に出される食事へ混入する手はずだ。

そのあと北門に配置していた護衛、十数名ばかりを南門へ去らせ、宿衛官で狙撃の名手を、密かに北の見張り門が見下ろせる山中に潜伏させた。こちらの方は万一、中殿の毒殺が失敗したときの予防策だった。

民の声を聞く場は、役所前の広場にて開かれた。サンは村人と役人とを交えて話を聞き、当分の間、村の綿花は国で買うこと、村長には清に劣らぬ綿花の品質改良を求めることで、ひとまず問題にケリをつけた。

変わった点と言えば、宣嬪がめまいを起こして、部屋で休んだことくらいだった。

昼近くに、ソンヨンを見舞いに中殿とサンが部屋へ顔を出した。

グギョンが宴の前に中殿を見かけたのは、それが最後だった。




絶体絶命を生き抜く ―スキルス胃がん余命三カ月から三年半