美しくも哀切な怪談映画「中川信夫監督 東海道四谷怪談」
毎日猛暑が続くので、怪談映画の話題など・・・・・。
中川信夫監督の「東海道四谷怪談」(1959)は、美しく哀しい怪談映画である。
といっても、きれいなシーンが出てくるとか、上品に作られていると言う意味ではない。
むしろ逆に、毒を飲まされたお岩さんの顔が醜く変形していく場面とか、その死体が戸板に打ち付けられて流される場面とか、怪談映画らしい惨たらしい場面が何度も登場する。
だが映画自体は中川信夫の怪談映画の美学に貫かれていて、見事な統一感がある。そこに凄惨な美しさがある。そしてどこかに哀切な風情すら漂わせている。
この映画は新東宝というマイナーな映画会社で作られた。当然、予算にも恵まれず、悪条件の中で制作された。
それでも完成した映画は、どんな大作の怪談映画、ホラー映画よりも怖くて美しい作品となった。
この映画は出演者にも恵まれている。
大スターは一人も出演していない。それでも出演している一人一人が、まさに適役といえる演技、存在感を見せている。悩める伊右衛門、罪の意識に苛まれ自滅していく伊右衛門の姿を演じきった天知茂、隠花植物を思わせ、顔が醜く変形して惨たらしいお岩さんの姿になっても非常に哀切な感じのする若杉嘉津子、いかにも小悪党らしいメフィストフェレス・直助役の江見俊太郎、不気味な按摩の存在感を漂わす宅悦役の大友純という具合に、一人一人が実に印象的で、その役の極めつけともいうべき存在なのだ。
出演者に恵まれ、中川信夫の幻術的な演出が冴え渡り、傑作にならないわけがない。
この映画は怪談映画のベストテンでは必ず一位に輝くし、怪談映画という枠をはずしても映画史に残るような名画であることはまちがいない。ちなみにこの映画と監督のもう一本の代表作「地獄」は国立フィルムセンターに所蔵され、昔は毎年夏になるとフィルムセンターで上映されたものである。
中川信夫は芸術映画を撮った監督ではない。一般には怪談映画の巨匠と思われているが、様々な娯楽映画にその手腕を発揮している。娯楽映画、職人肌の監督だ。
だが、怪談映画において、実に斬新な映像を作り出した。
この映画では、伊右衛門に直助が斬られた瞬間、寺の小部屋が穏亡堀に変貌するシーンとか、伊右衛門が釣りをしていると突然空に稲妻が走り、足元にお岩さんが打ち付けられた戸板が出現するシーンなど、斬新な映像と恐怖が溶け合ったシーンになっている。
もう一本の代表作「地獄」においては、まるで前衛映画のような映像さえ何箇所か登場する。職人技を極めて、アートな映像世界に到達してしまった感じさえする。
ぼくは幸運にも晩年の中川信夫監督に会ってお話をする機会があった。監督が自費出版された詩集を手に入れて読んでいたので、会話の最後にその感想を述べると、なんとも嬉しそうな顔をしたのが印象的だった。数々の怪談映画を褒めた時よりも嬉しそうな顔をした。それがちょっぴり意外だった。



