一昨日紹介した寺山修司の写真はおもに、ヨーロッパで撮影されたものだった。
あれらの写真が収録された写真集は、寺山の死後に編集されて出版されたものだ。写真の構成とか見せ方といった、写真集自体に寺山の意図が反映されているというわけではない。
寺山にはもう1冊、「犬神家の人々」という写真集がある。こちらは寺山の生前に発行されたもので、寺山修司の独特の世界観のもとに制作された写真集だ。寺山の劇団「天井桟敷」の役者達がモデルになっている。
この本を写真集というと、ちょっと語弊がある。収録されている写真の一部は絵葉書などにアレンジされ、架空の差出人から架空の相手に向って投函されたことになっている(わざわざ昔の切手が貼られ、架空の都市のスタンプが押されている)。そこに記されたメッセージはひどく謎めいていて、見る者をドラマ世界に引きずりこんでしまう。
またどの写真にも、天井桟敷の舞台を思わせるような演出がされていて、天井桟敷の世界を擬似体験できる。そういう編集になっている本なのである。
寺山の意図がすみずみにまで反映され、これはもう、完璧なまでに写真で再現されたテラヤマワールドなのである。