テラヤマワールドが全開!! 「寺山修司 あゝ、荒野」 | 銀のマント

 

■テラヤマワールドが全開   「あゝ、荒野」

 最近、寺山修司の長編小説「あゝ、荒野」が舞台化され、主演がアイドルの松本潤と小栗旬で演出が蜷川幸夫ということもあってか、結構話題になったようである。
 画像は1966年に刊行された初版本の表紙。
 小説世界を思わせるような人々が記念写真のように写っていて、その中心にはカンカン帽をかぶったギャンブラーのような寺山修司がいる。再刊ではこの写真が使われなくなってしまったが、ぼくはこの初版本の表紙が好きである。小説の雰囲気を伝えていると思う。
 小説自体は、まさにテラヤマワールドだ。小説としての出来を云々するより、テラヤマワールドを愉しんだほうが良い。寺山にはもう1冊「新釈稲妻草紙」という小説があるが、完成度としてはあちらの方がはるかに高い。というか、「新釈稲妻草紙」は、物語作者としても抜群の才能を持っていて、天才的な「言葉使い」である寺山修司が、書こうと思えば面白い小説がいくらでも書けたのだという証しでもあると思う。
「ああ、荒野」の後書きで寺山は、この小説をモダンジャズの手法で書こうと思ったと述べているが、まさにここには当時の寺山修司がぎっしりと詰まっている。最初からまともな小説を書く気なんかなかったのだろう。自作短歌が挿入され、時として小説を逸脱して、エッセイになったり詩になったりしている。小説という概念が撹拌されている。だがこれこそまさに寺山修司。
 舞台化の影響で今まで寺山を知らなかった読者がこの小説を手にとったとしたら、それだけでも舞台にする意義はあったと思う。ここには寺山ならではの美学や思想、ドラマツルギーがふんだんに盛り込まれている。寺山修司入門としても格好の1冊なのである。