北里大学病院医療過誤裁判 東京地裁から最高裁まで 第Ⅹー4に引き続き、行政処分等申立書(平成29年2月7日付) 第4章 MAによる医事に関し不正の行為について記載したいと思う。

 

第4章 MAによる医事に関し不正の行為

第1 医事に関し不正の行為

1.4月25日、本件第1手術実施前、MAは予防的抗菌薬を投与せず、手術部位感染防止対策を行わなかった。これは感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律5条1項違反であり、医事に関し不正の行為に当たる(医師法4条4号、医師法7条2項)。

 

2.参考事項

 4月25日、MAはセファゾリン1gパックを2個手術室に持参し予防的抗菌薬を投与しなかった。MA[2個手術室持参]と記載がある(乙A1の219頁)。

 

第2 医事に関し不正の行為

1.4月25日、MAは「右化膿性膝関節炎の疑い」の治療に対して必須のセファゾリンの投与量を誤り、「右化膿性膝関節炎の疑い」に対する治療を行わなかった。これは医療法1条の4第1項違反であり、医事に関し不正の行為に当たる(医師法4条4号、医師法7条2項)。

 

2.参考事項

(1)「化膿性膝関節炎の疑い」の治療としてセファゾリン1回2gを8時間毎に投与しなければならない。これは医師として当然に具備すべき基礎知識である(甲B92の489頁、甲B133の851頁)。

 

(2)4月25日本件第1手術中の12:15頃から、MAは、セファゾリン1回1gのみを投与開始し、術後も1回1g投与であった。結局同剤を1日3gしか投与しなかった(乙A1の49、219頁)。

 

第3 医事に関し不正の行為

1.4月25日、「化膿性膝関節炎の疑い」に対し本件第1手術において、必要もなくMAは滑膜を切除した。これは療養担当規則20条5号イ違反であり、医事に関し不正の行為に当たる(医師法4条4号、医師法7条2項)。

 

2.参考事項

(1)本件第1手術記録(〇〇〇〇と記載がある。)から、滑膜を切除したのはMAである(乙A1の46頁)。

 

(2)滑膜切除術は関節包の内層を被っている滑膜に化膿性膝関節炎当の病変がある場合にのみこの滑膜を摘出する。1977年滑膜切除について否定的な見解があり、長期的には可動域制限や強直をきたすことが明らかとなり2003年滑膜切除の適応は限定されていた。

 

第4 医事に関し不正の行為

1.5月1日、MAは右膝MRSA感染を認識しておきながら直ちにバンコマイシンを投与しなかった。これは感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に対する法律5条1項及び医療法1条の4第1項違反であり、医事に関し不正の行為に当たる(医師法4条4号、医師法7条2項)。

 

2.参考事項

(1)本件病院の細菌培養検査結果に要する日数は「3日間」である(本書面54頁参照)。よって、MAが4月27日MRSA SCを認識したのは4月30日である(甲A34,乙A1の132頁)。

 

(2)右膝MRSA感染認識月日について、UKは、「4月30日です。」と証言した(U証人調書32頁)。

 

第5 医事に関し不正の行為

1.5月1日、MAは右膝MRSA感染を認識しておきながら、同日MRSA耐性ペニシリン系ビクシリンを投与した。MRSA耐性抗菌薬投与に因り右膝MRSA感染を増悪させる。これは感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律5条1項及び医療法1条の4第1項違反であり、医事に関し不正の行為に当たる(医師法4条4号、医師法7条2項)。

 

2.参考事項

 5月1日、MAは、MRSA耐性ペニシリン系ビクシリンを投与した(乙A1の216頁、甲B75)。

 

第6 医事に関し不正の行為

1.4月25日、本件第1手術において、MAは接触感染防止対策・空気感染防止対策・飛沫感染防止対策等の手術部位感染防止対策を怠った。これは感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律5条1項及び医療法1条の4第1項違反であり、医事に関し不正の行為に当たる(医師法4条4号、医師法7条2項)。

 

2.参考事項

(1)4月25日、MAは本件第1手術を「中央手術室」にて実施した。中央手術室は床面コンクリート剥き出しであり多人数収容可能である。平成20年12月24日、「中央手術室」は衛生上の問題があり(本件第1手術実施約4ヵ月前である。)、医療器材等の消毒問題・古い医療機器の譲渡使用問題・保管方法の問題が多数指摘されていた(甲B51の2頁)。

 

(2)MRSAの感染経路は接触感染であり、手術室では通常のスタンダードプリコーションを確実に実施しなければならない。よって、医療器材の消毒、手術室入室者を最小限に制限すること及び術中会話の制限は必須である(平成16年10月30日健感発第0130001号)(甲B14の35~36頁、甲B15の85頁)。

 

(3)本件第1手術記録から、MAは他者に説明・解説をしながら消毒問題が指摘されていた医療器材を使用して施術を進行させており、接触感染防止対策・空気感染防止対策・飛沫感染防止対策を怠ったことが窺える。例えば、「注意して展開していく」、「あまり遠位まで展開しすぎないように」、「それ以上遠位にはいかない」、「引っ張った後に反転するのがコツ」、「つかんで分けていく」、「電気メスで切除していくと軟骨を焼いてしまうので」、「続いて膝を屈曲させて」、「コッヘルでつかんで持ち上げて」等である(乙A1の46頁)。

 

第7 医事に関し犯罪・不正の行為

1.4月24日本件病院入院前、UKは右膝切開以外に治療方法はないと説明し、切開範囲について10cmと説明した。本件第1手術記録には「約10cm」切開と記載があるが、実際には「約17cm」もの切開をした。術前の説明と異なり、不法にMAが約17cmもの右膝切開をしたことは傷害である。また、本件第1手術記録に虚偽記載をしたことは真実を記載する義務違反である。これは医療法1条の4第2項及び療養担当規則20条5号イ、ロ違反であり、医事に関し犯罪・不正の行為に当たる(医師法4条4号、医師法7条2項)。

 

2.参考事項

(1)本件第1手術において、「約17cm」切開した事実は、4月29日付写真から明らかであり、切開創を見た整形外科医らは、「約17.5cm」切開であると明言している(甲A16の1)。

 

(2)よって、本件第1手術記録(〇〇〇〇と記載がある。)にある「約10cm」との記載は虚偽である。

 

3.関連事項

(1)申立人は本件病院麻酔科にて1泊2日の「腰・胸部神経節ブロック術」(年2回)を受けていたが(4月24日は当該施術のための予約日であり本件病院に来院していたのである。)、同ブロック術前・同意書には説明内容として、「1.当該施術の内容・目的及び必要性、2.方法、3.危険性・合併症・副作用」について詳細な記載がありかつ説明医師(TT医師)の署名・捺印がある(甲A6、甲A96、甲A97)。

 

(2)ところが、本件第1手術同意書には上記のような詳細な記載がないだけでなく、UKの記名のみで押印もない。本件第1手術同意書は4月24日にAJ医師(本件第2手術者)が病室に持参したのみであり、UKは本件第1手術説明同意書について説明をしなかった。これは医療法施行規則9条の23第1項4号違反であり、医事に関し不正の行為に当たる(甲A41、乙A1の58頁)(医療法16条の3第1項7号、医療法29条4項4号)。

 

第8 医事に関し不正の行為

1.4月27日、MAは虚偽の病名を診断群分類決定票に記載した。これは医師の真実記載義務違反であり、医事に関し不正の行為に当たる(医師法4条4号、医師法7条2項)。

 

2.参考事項

(1)4月27日、MAは2009年04月分診断群分類決定票に(「〇〇」捺印有り。)、①【併存症】「低ナトリウム血症」、「2型糖尿病・糖尿病合併症なし」として虚偽の病名を記載し、②自立神経発作を認めていないにもかかわらず、【後発疾患】「自立神経発作」として虚偽の病名を記載した。4月分レセプトには、入院時併存傷病名として「低ナトリウム血症」、「2型糖尿病・糖尿病性合併症なし」と記載があり、入院後発症傷病名として「自立神経発作」と記載があるが、これらはいずれも虚偽の病名である(甲A53、甲A76の1)。

 

(2)申立人は「低ナトリウム血症」、「2型糖尿病・糖尿病性合併症」と診断された事実は一切ない。また、本件病院入院後4月24日から4月27日までの間に「自立神経発作」を一切認めていない。要するに、「低ナトリウム血症」、「2型糖尿病・糖尿病性合併症なし」及び「自立神経発作」はいずれも虚偽の病名である。

 

(3)ザイボックスの重症度が高度の副作用として「低ナトリウム血症」がある。また、当時申立人が服用していた三環系抗うつ薬アナフラニールとザイボックスとの併用投与に因って「セロトニン症候群」が発現するが、セロトニン症候群の三主徴の一つは、自立神経活動亢進である(甲B20の87頁、甲B22の301~302頁、甲B70の55、57頁、甲B81の11、18、23頁)。

 

(4)4月27日ザイボックス服用以前のMAによる虚偽病名の記載は不可解であり何らかの意図があったものと考えられる。6月11日朝食後のザイボックス服用後に実際に発現した副作用であるセロトニン症候群と無関係であるとはいえない。

 

第5章 MMによる医事に関し不正の行為

第1 医事に関し不正の行為

1.4月30日、院内感染対策指導医 MMは、右膝MRSA感染を認識しておきながら直ちにバンコマイシン投与開始を指示しなかった。これは感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律5条1項及び医療法1条の4第1項違反であり、医事に関し不正の行為に当たる(医師法4条4号、医師法7条2項)。

 

2.参考事項

 院内感染対策指導医 MMは、「4/30より皮疹」とカルテに記載し、また、「拝見しました」と記載したカルテに「activeな感染症があります」と記載がある。

よって、MMが右膝MRSA感染を認識した月日は、「4月30日」である(甲A91、乙A2の1,2頁)。

 

第2 医事に関し不正の行為

1.5月1日、院内感染対策指導医 MMは4月30日に右膝MRSA感染を認識しておきながら、右膝MRSA感染症の治療に使用できないMRSA耐性ペニシリン系ビクシリン投与を指示した。これは感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律5条1項及び医療法1条の4第1項違反であり、医事に関し不正の行為に当たる(医師法4条4号、医師法7条2項)。

 

2.参考事項

 5月1日、MMは、「ビクシリン→5/1のope后変更する」とカルテに記載した。5月1日ビクシリン投与指示の記載がある。「指示実施記録」の発行者がMMであることから、MRSA耐性ペニシリン系ビクシリン継続投与の指示を出したのは、院内感染対策指導医MMである(乙A2の3、4頁、甲B75)。

 

3.関連事項

 院内感染対策指導医が右膝MRSA感染症の治療に使用できないMRSA耐性ペニシリン系ビクシリン継続投与を指示したことは、院内感染対策を行う者を配置する意義がない。これは医療法施行規則9条の23第1項2号違反であり、医事に関し不正の行為に当たる(医療法16条の3第1項7号、医療法29条4項4号)。

 

第6章 「M」による医師法違反・医事に関し犯罪の行為

第1 医師法24条1項違反

1.6月11日「自殺未遂」との「架空」をカルテ記載した「M」について、「医師」であることを前提として以下記載する。

 6月11日、「M」は、「自殺未遂」とカルテに記載した。申立人は自殺企図をした事実は一切ないので自殺未遂という事態は起こり得ない。よって、「M」の「自殺未遂」とのカルテ記載は「架空」である。「架空」の記載は、医師法施行規則23条が規定する事項に該当しない(乙A1の26頁、U証人調書53頁)。

 

2.したがって、「M」が「架空」をカルテに記載したことは、医師法24条1項違反である(医師法33条の2)。

 

3.参考事項

 申立人は、以下のとおり、関係諸機関に文書を出すなどし、「M」の氏名特定に努力してきたが、結局、「M」の氏名を特定することができなかった。

(1)平成28年4月18日付苦情申出書5、18~19、49頁

(2)平成28年8月1日付補充書面(3)3頁(丸の内警察署長殿宛)

(3)平成28年8月1日付上申書(1)(丸の内警察署長殿宛)

(4)平成28年8月16日付補充書面(3)3頁(東京地方検察庁特別捜査部直告班宛)

(5)平成28年8月16日付上申書(1)(東京地方検察庁特別捜査部直告班宛)

 

第7章 SHによる医師法違反・医事に関し犯罪・不正の行為

第1 医師法24条1項違反

1.6月12日午後退院前、SHは右大腿骨内側顆約5cm縫合部(6月1日HNによる縫縮術部位)を抜糸し、診療をしたがカルテに一切記載をしなかった。申立人はSHに「抜糸後の消毒方法」について質問し、「ザイボックス服用後、吐き気・身体の震え・頭痛が発現し、脈拍が118になっており胸が苦しいこと及び吐き気に因り食事を摂ることができないこと」を訴えた。SHは「消毒せずにガーゼを貼付して乾かすこと。ザイボックスを服用し続けること」を説明したが

症状をカルテに一切記載しなかった(乙A1の66頁)。

 

2.したがって、6月12日、SHが処置及び症状をカルテに一切記載しなかったことは医師法24条1項違反である(医師法33条の2)。

 

第2 医事に関し不正の行為

1.6月12日午後退院前、SHは申立人らに右膝MRSA感染中であり治療が終わっていないこと及びバンコマイシンを継続投与が必須であることを説明せず、ザイボックス継続服用の必要性を説明した上で同剤を服用させ続けた。これらは感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律5条1項、医療法1条の4第1、2項、医師法23条、療養担当規則12、18、20条2号イ及び医薬品医療機器等法1条の5違反であり、医事に関し不正の行為に当たる(医師法4条4号、医師法7条2項)。

 

2.参考事項

 UKは6月11日時点にて右膝MRSA感染中であり治療が終わっておらずバンコマイシン継続投与しなければならない病態にあったことを証言した(本書面29頁参照)。6月12日、申立人がSHにザイボックス服用後の吐き気等を訴えたことに対し、SHは「ザイボックスを服用し続ける必要がある。」と説明したのみであった。

 

第3 医事に関し不正の行為

 6月12日午後退院前、SHは右大腿骨内側顆約5cm縫合部を抜糸後、創部をフィルムドレッシング剤で保護せず創部を乾燥させた。また、消毒せずガーゼ貼付するように指示した。これは感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律5条1項、医療法1条の4第1、2項、医師法23条及び療養担当規則12、13、15条違反であり、医事に関し不正の行為に当たる(医師法4条4号、医師法7条2項)。

 

第8章 OAによる医事に関し犯罪・不正の行為

第1 医事に関し犯罪の行為

1.6月11日、OAは、申立人の同意を得ず、正当な理由がなく、Yクリニック宛診療情報提供書を発行した。これは医師の守秘義務に反し、医事に関し犯罪の行為に当たる(医師法4条4号、医師法7条2項、刑法134条、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法第123号)(以下、「精神保健福祉法」という。)53条1項、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律73条1項)。

 

2.参考事項

 6月11日、OAは診療情報提供書に「右化膿性膝関節炎(MRSA)」と記載した。MRSA感染症患者であることは秘密に該当する(乙A1の32~33頁)。

 

第2 医事に関し不正の行為

1.6月11日、OAは、診療情報提供書に公然と申立人の社会的評価を著しく害するに足りる虚偽の事実を摘示、記載して申立人の名誉を毀損した。これは医事に関し犯罪の行為に当たる(医師法4条4号、医師法7条2項、刑法230条)。

 

2.参考事項

(1)OA及びSNは北里大学病院の医師ではなく、北里大学東病院の医師である。よって、診療情報提供書にある「北里大学病院」との記載は虚偽である。

(2)申立人は診療情報提供書発行について同意していない。【紹介目的】「患者の希望」と記載があるのは虚偽である。

(3)「近医にて両変形性膝関節症と診断され穿刺やヒアルロン酸注射を繰り返していました。」と記載があるが、事実無根の「架空」である。

(4)「4月24日、右化膿性膝関節炎と診断され」と記載があるが、「右化膿性膝関節炎の疑い」である。4月24日右化膿性膝関節炎と診断することは不可能である。

(5)「身辺看護に対して強迫的となり、病棟ナースに対する被害関係妄想が出現して興奮を呈することを繰り返していました」、「被害的になり興奮することがありました」と記載があるが虚偽である。申立人が「興奮した事実」を表す記載記録はない。

(6)「6月11日、転院の話題に対して過剰に反応して衝動的に離棟し、病院屋上へ向かうことがありました」と記載があるが全て虚偽である。衝動的に離棟した事実はない。「衝動性は消退し、」と記載があるが、「衝動性」を表す記載記録はない。

(7)北里大学東病院精神科医が診療情報提供書に「架空及び虚偽」を記載をする杜撰かつ無責任な体質・体制と「相模原殺傷事件」とは無関係であるとは言えない。

 

第3 医事に関し不正の行為

1.4月27日、OAは申立人の同意なく、必要もなく精神科受診を強制した。これは医療法1条の4第2項、療養担当規則12、16、20条1号ニ違反であり、医事に関し不正の行為に当たる(医師法4条4号、医師法7条2項)。

 

2.参考事項

(1)OAは本件病院医師ではなく北里大学東病院の医師である。申立人を診察するために、わざわざ本件病院まで来院したのである。

(2)4月27日午後、OAが申立人を診察すると言ったことに対し、申立人は「私は2週間の入院予定です。N先生にお世話になっており失礼なので診察は必要ありません。お断りします。」と不快感をもってOAの診察を強く拒絶した。また、同日OAは診察の結果、「入院診療に支障を来す程の症状はない」と記載した。よって、診療は不要である(乙A1の41頁)。

 

第4 医事に関し不正の行為

1.6月11日17:30過頃MTにて、OAが転院先として「相模台病院精神科」と容認・看過したことは、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律5条1項、医療法1条の4第1、2項、療養担当規則12、16条及び精神保健福祉法20条違反であり、医事に関し不正の行為に当たる(医師法4条4号、医師法7条2項)。

 

2.参考事項

 6月11日17:30過頃MTにて、HNによる相模台病院精神科転院先決定に対し申立人は「右膝疾患ですから整形外科に転院すべきであって、精神科に入院する必要はありません。」と主張し明確な拒否の意思表示をしたが、MT参加者の一人であるOAはHNの上記決定に何ら異を唱えなかった(本書面64頁参照)。

 

第9章 Y及びOによる看護師業務に関し犯罪・不正の行為

第1 看護師業務に関し不正の行為

1.5月2日午前4時50分頃から午前9時頃迄約4時間もの間、Y及びOらは、右膝MRSA感染症の治療に必須の持続洗浄を実施するための措置を講じなかった。申立人が当直医を呼ぶように訴えたがY及びOらは「当直医はいない。」と返答し、保健師助産師看護師法(昭和23年法第203号)(以下、「保助看法」という。)5条が規定する診療の補助を行わなかった。これらは感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律5条1項及び医療法1条の4第1項、16条違反であり、看護師業務に関し不正の行為に当たる(保助看法9条2号、保助看法14条1項、医療法74条1項)。

 

2.参考事項

(1)5月2日午前4時50分頃から、申立人はY及びOらに持続洗浄を実施しないと死亡する危険性があることを計4回訴えたが、両名は持続洗浄を実施しなかった。両名は、「持続洗浄しないことになっている。治療はしない。〇〇さんは治療の対象になっていない。」と言明した。

 

(2)「本件第2手術直後から持続洗浄を実施しないと死亡する。」と説明したUK自身が術直後から持続洗浄を実施しなかったので、Y及びOらに持続洗浄を実施しないよう指示をしたのはUKである。

 

第2 看護師業務に関し犯罪の行為

1.5月2日午前4時50分頃から午前9時頃迄約4時間もの間、Y及びOは、申立人をベッドに寝かせず、床上約160cmの高さに設置した担架状様に放置した。これは社会通念上許容される限度を超えており、刑法35条が規定する正当業務行為に該当しない。申立人はかかる位置から落下する危険があり、また、落下に因る死亡の危険があった。Y及びOらの行為は、非人道的行為、「拷問」そのものであり、重篤な病態(CRP:29.36)にあった申立人の生命を軽視し尊厳を踏みにじる行為である。これは刑法35条違反であり看護師業務に関し犯罪の行為に当たる(刑法35条、保助看法9条2号、保助看法14条1項)。

 

2.参考事項

(1)本件第2手術麻酔記録には、「99へ」と記載がある(乙A1の59頁)。

 

(2)5月2日午前9時頃、Y及びOが申立人を床上約160cmの高さにある担架状様からベッドに降ろす際、いずれか一方が申立人の顔面に「白い布」を被せた。申立人は恐怖のあまりをれを払いのけることを躊躇したので、病室までの経路は不明であるが、Y、Oのいずれか一方の靴が反響し防火用非常扉を開けるのが垣間見えた。よって、病棟とは隔絶された場所に放置されていたことは事実である。

 

第3 看護師業務に関し不正の行為

1.5月2日午前4時50分頃から午前9時頃迄、Y及びOらは申立人をベッドに寝かせず床上約160cmの高さに設置した担架状様に放置し約4時間もの間、身体がこれに深く沈み込み全く身動きができない状態にし、右臀部裂部に褥瘡を生ぜしめた。これは看護師業務に関し不正の行為に当たる(保助看法9条2号、保助看法14条1項)。

 

2.参考事項

(1)右臀部裂部に「褥瘡」発生の事実は写真(甲A46)から明らかである。

(2)Y及びOらは褥瘡発生のハイリスクを認識していた。4月25日褥瘡予防治療計画書には「褥瘡発生ハイリスク」と記載があり、「重点的な褥瘡ケアの必要性 要」と明記がある(乙A1の359頁)。

(3)5月1日褥瘡リスクアセスメントには、「体交もNs2人介助要である。Alb低値もあるため今后もplan do」と記載がある。5月2日、Alb:2.0であり栄養状態の低下を認め当時境界型糖尿病であり褥瘡が発生し易い状態であった(乙A1の360頁、甲A28)。

(4)保助看法5条が規定する療養上の世話として褥瘡発生予防がある。褥瘡発生ハイリスクを認識していたY及びOらは、褥瘡発生を予防するべく2時間毎の体位変換をする必要があったのである。

 

第10章 Tによる看護師業務に関し犯罪の行為

第1 看護師業務に関し犯罪の行為

1.本件第2手術翌日、5月3日、Tは体重測定を実施するために持続洗浄を終了した。看護師が持続洗浄機器(診療機械)を操作し持続洗浄を終了したことは、保助看法37条違反であり、看護師業務に関し犯罪の行為に当たる(保助看法9条2号、保助看法14条1項、保助看法44条の2)。

 

2.参考事項

(1)持続洗浄は「絶対的医療行為」である。

 

(2)持続洗浄を終了しなければ体重測定をすることは不可能である。また、体重測定には少なくとも3名を要し手間のかかる作業である。本件第2手術翌日5月3日に必須の持続洗浄を終了し体重測定をする合理的理由を一切認めない。Tは手間のかかる体重測定をする一方で申立人の病状に一切注意を払っておらず、日勤でありながら「術後1日目から7日目まで使用」と看護記録Ⅲのチェック欄が全て「空欄」である(甲A73の5、乙A1の307頁)。

 

(3)持続洗浄の目的について、UKは「関節内に遺子物質を残したくないと。遺子物質が残ることによってそこにまた菌が繁殖する場所が残るのが嫌なので、遺子物質を流し出す」と証言した。よって、本件第2手術翌日5月3日持続洗浄終了に因り関節内に遺子物質を残遺させMRSA細菌叢を産生させ右膝MRSA感染は増悪する(U証人調書26頁)。

 

北里大学病院医療過誤裁判 東京地裁から最高裁まで 第Ⅹー6に続く。