いぬとやぎとニワトリと。ときどきネコ

いぬとやぎとニワトリと。ときどきネコ

我が家には犬が7頭、ヤギが6頭、ニワトリが3羽。そしてネコが3匹います。
彼らとの楽しくにぎやかな日々を綴っています。

赤ん坊たちがいるケージに近づいてきたニャン。

子どもたちを救い出そうと何度も柵の隙間から手を突っ込む。

子どもたちに触れることはできても、

外に出すことはできない。


赤ん坊はピーピーと鳴く。


どうするニャン。


ぼくはじっとニャンの行動を観察していた。

ケージに入ったらさっと扉を閉める。

それで保護は完了だ。


ニャンはケージのまわりをうろうろ歩く。

ときどきぼくの方を見る。

何とかしてくれと救いを求める視線にも感じる。


ここは我慢比べだ。


たぶん、ニャンはぼくが子どもたちを囮にしてニャンをケージに閉じ込めようとしているのを知っている。

ケージに入ってしまえば、

扉を閉められ、今回の保護劇は終わることもわかっていて、

どうすればいいのか迷っている様子が伝わってくる。


ケージに入る決心はつかない。

でも、

このままでは子どもたちと一緒にいられなくなってしまう。


「こいつに捕まった方が得か?」

ぼくを値踏みしている部分もあったような気もする。

毎日、エサをあげた。

チュールを手からあげたこともある。


信用できる奴だと思ったからこそ、

子ネコをくわえて150メートルも移動してきたのだろう。


えーい、ままよ!

なるようになれ!


ニャンの覚悟が伝わってきた。


「入るぞ」

ぼくは準備した。

すると、

さっとニャンがケージに入った。


保護完了。

次女を呼んだ。


ニャンは暴れることもなく、

子ネコの側に近寄り、

抱きしめるように手を出した。


めでたし、めでたし。

















ぼくの脇を猛スピードで駆け抜けていくニャン。

横っ飛びで捕まえようとしたが、

ぼくの運動神経では及ばなかった。


庭の隅の方へ姿を消した。


「一生悔いが残るわ。

ビビったんだよね。一瞬。そのすきに逃げられた。

ああ、なんでビビったんだろ。

自分が情けない」

次女が頭を抱える。悔しくてたまらない気持ちが伝わってくる。

ぼくが捕獲の役をやってあげれば良かった。

うまくできたかどうかはともかく、

ここは責任を負う立場だったかもしれない。


しかし、

悔しがっていても仕方がない。


「まずは子ネコを保護しよう」

チビたちはひょいと捕まえればいい。

1匹、2匹、3匹、4匹。

全員固まっている。


用意した段ボールに入れる。

ピーピーと鳴いている。

いきなり母親が逃げ出して不安に思っているのかもしれない。


赤ん坊の入った箱を、

ニャンがよくエサを食べに来ていた裏口の軒下に置いた。

チビたちの中には箱をよじ登ろうとするのもいたが、

生後数週間の体力では壁に前足をかけたらゴロンと転がってしまう。


ひょっとしたらニャンが戻ってくるかもしれないという期待があった。

母親なら子どもを捨てて逃げるはずがない。


ぼくたちが近づくと、

シャーと声をあげながら怖い顔でにらんできたニャンだ。

絶対に現れる。


ぼくが見張り役。

次女は家から犬用のケージを運んできた。

ちょうど一個、中型犬用のケージが使わないまま残してあったのだ。


ニャンが現れたのはほんの数分後だった。

5メートルくらい先でお座りしてこっちをじっと見ている。

「ニャン、大丈夫だから。お前たちをもっと快適なところへ連れて行ってあげようと思っているんだから。

こんな暑いところにいたら、赤ん坊は死んでしまうぞ」

心を込めて語りかけた。


ずいぶん前のことだが、

ぼくは「犬と話ができる!」という動物たちとのコミュニケーションの本を書いている。

動物とお話ができる獣医さんに取材をして、

動物たちにも意思はあるし言葉もあることを確信していた。

気持ちを込めて話しかければ、彼らは必ずわかってくれる。


次女がぼくの横にゲージを置いた。


赤ん坊がいる段ボール箱をケージの中に入れた。


「赤ん坊はここにいるからな。

ニャンと子どもたちを安全なところに連れていくためだから。

俺を信じて、ここへ入っておくれ」


ぼくと次女は何度も何度もニャンに声をかけた。


「私は中へ入っているね」

捕まえようとした次女がいると警戒するのではということで、

彼女は家の中で朗報を待つことにした。


ぼくは、

笑顔でニャンを見つめていた。


ケージの中では、

チビたちがピーピーと母親を呼んでいる。


少しずつニャンが近づいてくる。

ここは我慢比べだ。


ぼくはただ横でじっと見ているだけ。






保護の日も決まった。

どうやって捕獲するかも打ち合わせした。

 

もうその日を待つだけ。

緊張する。

 

ところが思わぬことが起こった。

 

保護予定日の前日。

暑い日だった。

ぼくが納屋の前に行ったときのこと。

ニャンがいた。

ぼくの姿を見て警戒する。

しかし、

納屋の中へ行かない。

 

納屋の外に使っていないトイレがある。

入り口は亡くなった母が使っていた陶製の漬物用の甕でふさいである(ネコは入れるが)。

周辺はミントが繁り、草の丈のけっこう大きくなっている。

 

そのトイレの前に座っていたのだ。

別にあいつがどこにいてもいいのだが、

ちょっと様子が違う。

座ったまま動こうとしないのだ。

 

「何かあるぞ」

ぼくはニャンに近づいた。

「シャー」と威嚇する。

普段なら、さっと逃げていくのに。

 

トイレの横の茂みを覗いてみた。

 

「なんで」

開いた口がふさがらない。

草の下に子ネコたちがいるではないか。

 

明日だよ、保護するのは。

さんざん作戦も練ったのに。

 

よりによって、今日、引っ越しかよ。

 

ニャンは察知したのだろうか。

朝は納屋の中にいたはずだ。

ぼくたちが家の中にいるのを見計らって、

赤ん坊を納屋から連れ出したのか。

 

わかっているのか、ニャン。

外はむちゃくちゃ暑いぞ。

直射日光は当たらないかもしれないが、

猛暑に赤ん坊は耐えられるのか。

 

お前の選択は間違っている。

 

次女を呼んだ。

「なんで・・・」

唖然としている。ぼくと思いは同じだった。

 

「口を開いて呼吸しているよ」

赤ん坊たちを見て次女の顔はこわばった。

暑さに参っている様子だ。

 

「2人で保護するか」

妻も長女の次女も出かけている。

「このままじゃ死んじゃうよ」

ぼくもそう思う。

やるしかないか。

 

「私がつかまえるよ。後ろでカバーしてて」

ニャンは草むらに入って赤ん坊を守っている。

次女が体をかがめてゆっくりニャンに近づいた。

にらみ合いが続く。

逃がしたら大変だ~という必死の思いが次女の背中から伝わってくる。

 

「行け! いまだ」

ぼくが思った瞬間、次女の体が前に出た。

ニャンが草むらから横に出た。

そのまま手を伸ばせば捕まえられたのに、

次女はとっさのところでひるんでしまった。

一瞬のすきをニャンは逃がさなかった。

さっと次女の横を通り抜け、

ぼくの方に。

ぼくはゴロを横っ飛びにとろうとする野球選手のようにニャンに飛びついた。

しかし、

ニャンは手の先をかすめて後方へ。

 

「あちゃー」

「最悪だ」

次女と顔を合わせた。

ニャンは庭の隅の方へ走り去った。