年を重ねて振り返ると、
それまで分からなかったことで、
分かることがいっぱいある。
色んな立場の、色んな人の気持ちが分かることがある。
自分が親になると、自分の親の気持ちが分かるし、
部下を持つと、上司の気持ちが分かったりする。
他人の有難味を、身に沁みて味わうことがある。
昨日、もう既に引退された元上司に誘いを受け、
お寿司屋さんに連れて行っていただいた。
引退された今でも、一年に二回ほど、
私の同僚と二人、誘っていただいている。
ダンディでロマンスグレーのオシャレなこの元上司は、
美味しいモノを本当によくご存知の方だった。
部下の時代、本当にこのMR.ロマンスグレーには、
よく面倒をみていただいた。
三人、立場も年齢も違うが、20年近い付き合いになる。
いつも会うと朗らかに楽しい一時を過ごせる。
数年前のあの日も、同じ寿司屋のカウンターで、
ロマンスグレーの中年紳士と、私と同僚、三人仲良く並んでいた。
「私、来月、結婚するんです。」
私が、既に引退されていたMR.ロマンスグレーにそう報告すると、
私の同僚が泣き出した。
寿司屋のカウンターで、私の同僚が泣いてくれるのを、
MR.ロマンスグレーと私は、黙って見つめていた。
何か話そうとしても、言葉が詰まって話せなかった。
しばらくすると、MR.ロマンスグレーは、
「ホントに、良かったなぁ。私は、ホントに嬉しいよ。
今まで4回会社を辞めると言ったあなたを、4回引き止めた。
ホントにコレで良かったのかなぁ、
別の会社を歩む人生もあったんじゃないのかなって、
思うことがあってね。その方が良かったんじゃないかって。
だから、ホントに、ホントに、良かった。」
少し震える声で、言ってくれた。
その言葉を合図に、三人とも、満面の笑みで大笑いした。
自分の結婚で、こんなに喜んでくれる人々がいる。
本当に有り難い一時だった。
私は、若い頃、本当に愚か者だったなぁと思う。
仕事において完璧を追い求め、追い求め過ぎて、
自己中心的な人間だった。
自分ばかりが大変だと思い、空回りばかりしていた。
おまけに、融通が利かないので、どうしようもなかった。
私はこのMR.ロマンスグレーに、実に4回も会社を辞めると言い放ったことがある。
本当によく面倒をみていただいたなぁと思う。
私だったら、4回も辞めると言われたら、
「バカヤロー、さっさと辞めちまえ!」って気持ちになると思うが、
その度に、MR.ロマンスグレーは、なだめすかし、根気強く、話を聞いてくれた。
年を重ね、自分も人様のお世話をするようになり、
いかにこの方が人間として、
器が大きい方だったのかというのが、
愚かな私でもわかるようになっていった。
全く見えていなかったことが、見えるようになってきていた。
大きな気持ちで、人を待つこと。
それをこの方に、教えていただいた。
ご馳走になった翌朝、MR.ロマンスグレーからメールが届いていた。
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御蔭様で、私も楽しい一時を過ごす事できました。
何よりも、関さんの結婚を知り、本当に、心より嬉しいです。
おめでとうございます。
○○さんも泣いて喜んでくれていましたが、
私も貰い泣きそうになり、必死に堪えていました。
お蔭で、四角い中トロが丸く見えておりました。
ps:
すし屋の座敷じゃなくて、カウンターで男と女3人が泣いたというのは、
すし屋では歴史的な?出来事と確信してますが・・・
2人なら一杯あると思うけど。
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四角い中トロがまあるく見える。
MR.ロマンスグレーらしく、粋な表現だった。
確かに三人には、四角い中トロがまあるく見えていた。
四角い中トロがまあるく見えるという、
その有り得ない光景は、
人を少し幸せにする。