信用まかせの経済
みなさんは銀行の仕事をご存知でしょうか。銀行は実はかなり特殊なことをやっています。それはまさにマジックともいえる手法で経済を動かしているのです。では、銀行の仕事はなにか。銀行の業務は多種多様ですが、簡単に言えばお金を預かって、そのお金を貸すことで利子をもらい利益を上げているわけです。一見何の不思議もないようですが、銀行のマジックは次のようなものです。よーくイメージしながら聞いてください。例えば、「森銀行」なる銀行ができたとします。開店初日に、Aさんが100万円を預けました。なので、今、森銀行の倉庫には100万円があり、Aさんの口座手帳には100万円と記載され、Aさんはいつでもお金を引き出せる状態にあります。そして、数日後に、Bさんが森銀行に来て「100万円貸してー」と言ってきました。森銀行は100万円貸すことにしました。なので、今、100万円はBさんの手元に移り、森銀行の倉庫には何もありません。無事にお金を借りられたBさんは喜びました。そしてまあ100万円を家に置いとくわけにもいかないので森銀行に預けました。なので、今、100万円は森銀行の倉庫に移り、Bさんの口座手帳には100万円と記載され、Bさんはいつでもお金を引き出せる状態にあります。数日後、Cさんが森銀行に来て言いました。「100万円貸してくれー」。森銀行は100万円貸すことにしました。なので、今、100万円はCさんの手元に移り、森銀行の倉庫には何もありません。無事にお金を借りられたCさんは大喜び。そして、100万円を家に置いとくわけにもいかないので、100万円を森銀行に預けました。なので、今、100万円は森銀行の倉庫にうつり、Cさんの口座手帳には100万円と記載され、Cさんはいつでもお金を引き出せる状態にあります。もうおわかりでしょうか。実際にあるお金は100万円なのに、Aさん、Bさん、Cさん3人ともいつでも100万円を引き出せる状態にあります。まさにマジックです。話をわかりやすくするためにかなり単純化しましたが、銀行はおおむねこれに近いことをやっています。これを「信用創造」といいます。これは、ものすごい経済効果です。というのは、3人とも「自分は100万円をいつでも自由に使える」と思っているからです。実際にあるお金は100万円なのに心理的には300万円(3人合わせて)あるような気持ちになる。この心理によって消費が促されることはあきらかです。しかし、すでにお気づきかも知れませんが、このシステムは不安定です。というのは、銀行からお金を借りたBさんかCさんが「ごめん借金返せないわ」となったら、瞬時に信用創造が崩壊してしまいます。つまり、銀行はちゃんと借り手を審査して、返済能力のある人にお金を貸すなどきちんとした管理をしなくてはなりません。また、私たちはそれを信用してお金を預けているわけです。ゆえにこの信用創造というシステムはその名の通り「信用」によって成り立っているのです。
経済はこのように信用で成り立っていることが多いです。例えば、お金もそうです。筆者は誰よりも一万円がほしいという情熱がありますが、一万円札は言ってみればただの紙切れです。では、なぜ価値があるのか、それはみんなが一万円札を価値のあるものとして信用しているからです。なので、言ってみれば、その信用がなくなった瞬間に一万円札はただの紙切れになります。日本は、経済や政治が安定していますから一万円札がただの紙切れになるというのはうそのような話ですが、旧ソ連が崩壊するときなどには、実際にお金に対する信用がなくなり、人々はお金を使用しなくなり、代わりのものを(タバコやドル)お金の代わりにしたという話があります。景気も信用によって浮き沈みします。景気の気は気分の気というように、人々が、これから景気がよくなると思えば景気はよくなりますし、これから株の値段が上がると思えば株の値段が上がります。
まとめると経済とは信用なのです。恋愛と一緒ですね。めでたし、めでたし。って、そうはなりません。信用で成り立っているということは、信用がくずれたら経済は一気に混乱するということです。銀行の信用が失われれば取り付け騒ぎになります。国の信用がなくなれば国債や通貨の価値が暴落します。株への信用が失われれば株価は暴落します。信用とはもろいものです。なので、このような信用をどこまで許すのか。それが経済の大きなテーマの一つでもあります。