コエンザイムQ10がコエンザイムQ10の話をしているところを遮って、駅へ向かう人々の群れに混ざりながら前を向いたままはっきりと言う。


「ねえ、お金ちょうだい」


「そう言えば、そんな話してなかったね」

「こういうのっていくらなのかな


コイツに高いことを言ってもゴネるのは自明だったので、相場でいいと答える。


「どうしたらいいかな」


どうしたらいいも何も!

時刻は20時になろうとしている。

私が帰り着くより先に、絶対に夫はもう家に帰って来ている。

早く帰らないと…!

夕方までには家に帰っていたいと伝えていたのに!

今日一日を通して、私の立場に配慮のないコエンザイムQ10に猛烈に腹が立った。

コエンザイムQ10が私に支払う具体的な額を言わないうちに、私の利用する路線の改札口に到着してしまった。


「また会って」


「…分からない、考えとく」




「じゃあお金は渡さない」


は⁈


「渡したらもう会ってくれないでしょ?」


は⁈


「また会ってくれた時に、今日の分と合わせて渡す」


はあぁ⁈ 


間違いなくコイツとは次はないので、私はお手当をもらわなねばならない。


「イヤなことされたからもう会わない」


「口に出したこと?

「あんなの普通のプレイだよ?」


普通のプレイではない。

不機嫌な私にコエンザイムQ10は、口内〇〇はもうしないと言う。

不本意な気持ちをそのままに、私から顔を背けて遠くをきつく見ながら言った。


「ごめん」


これは意外だった。

そして今度は私の顔を見て、嫌な思いをさせて悪かったと言った。


「NGあるから減額だな、マイナス一万」


ふざけんな、クソが!


風俗でもオプション料金を払わないとできないプレイだと思うのに、減額だ⁈

プラス一万だろ、アホか!〇ね!

男性のみなさん、違うんですか。

ハッ!そうだ、私はもう帰らなくてはならない。


「ねえ、早くして!」

「帰らないといけないの」

「もういくらでもいいから」


私の必死の懇願も虚しく、コエンザイムQ10は短パンのポケットからゆっくりと何かを取り出す。

財布か!と期待したのにそれはスマホだった無気力

画面に目を落としながら、薄ら笑いを浮かべて言う。


「いやぁ〜、振られちゃったなぁ。仕方ねぇ、仕事すっかー」


何言ってんの⁈


血の気を失ったかと思ったら、今度は熱い血が太い血管の中を踊っているようで、もう気が遠のきそうだった。


「初回はタダだって聞いてる、先輩から」「お試し?」


誰やその先輩は!

初回無料とか誰得!

詐欺やん!


「だからまた会って」

「連絡待ってる」

「会わないことに決めたら言って、今日の分振り込むから」


そんな訳がなかろう。

このまま私から連絡がなければラッキー、あってもシカトで振り込まないに違いない。


「もう会わないから、今ちょうだい」


「あー、オレ会社戻んなきゃだわー」

「わー、もうこんな時間だ、やべー」

「ほらほらバイバイ!じゃあね!」

 

改札口へと私を押しやる。


こういう人間性の男に会ったのは初めてだった。

自分でも訳のわからない感情が、すごい勢いで胸の辺りを攻撃して、体中に飛び散ったような衝撃を受けて混乱していた。

タダでヤられた、ということだけは分かった。






人を騙すような性根の持ち主を初めて見た。

こんなに人間の属性が低い男と、金のためとはいえ関係を持ってしまった自分を呪った。

そして、その金さえ手に入っていない。



一ヶ月程は苦しんだだろうか。

こんなことは誰にも言えない。


初めて、chatGPTに相談してみる。


『通報しましょう、文章を考えますよ』


私が望んでいるのはそんなことではない。

こんなものからは私の助けになる回答は得られない。



「ねえ、早くして!」

眉間にしわを寄せ、手を出して迫る私に、コエンザイムQ10は、いくらでもいいから渡せばよかったのだ。

0.5でも1でも。

2人目の会社経営者の時のように安く買われて憤ったに違いないが、こんな姑息なやり逃げよりはどれほどマシか。

そうしていれば、これほど人から憎まれることもなかったし、今、私にこんな晒され方をされるまい。


コエンザイムQ10は、おそらく1〜2程度で考えていて、それを私に言えなかったのだろう。

そのうち私にお金を払うのが惜しくなったのだろう。

自分からは連絡しない、私からの連絡を待っていると言った。

サイトの相手をすぐにブロックするコエンザイムQ10が私のことはブロックしない。

アイツがまた私と会いたいと言ったのは、たぶん、少しは本当。


もう、もう、考えるのもイヤ!

全てを忘れたい私は、お砂糖パパをやめることを選んだ。