米津玄師さんがOPを担当するなど話題の2025年冬アニメ『メダリスト』の1話感想ブログになります。
--以下筆者の自己紹介と本ブログの方針なので、飛ばして頂いても大丈夫です--
元々「次にくるマンガ大賞2022」コミックス部門1位等、有名な原作漫画でしたが、アニメ化決定したことで単行本を購入して初めて読みました。
自分が現在ネットで『高校女子の卓球部活小説』を連載していることもあり、原作漫画を読んで物語の構成やキャラクター作りなど参考になる点や共感する点が多々ありました。そこで「少女スポーツものを書く立場からの感想」を書いてみようと、今回のブログ連載に至りました。
女子フィギュアと女子卓球は、どちらも「日本が強く、観戦人気は高いが、競技人口は少ない(身近に経験者がいない)」共通点があります。
ちなみに2023年の調査によると、15~18歳の女子へのアンケートで以下の通りとなっているようです。
・観戦するのが好き 7位フィギュア 10位卓球
・自分で行うのが好き 6位卓球 11位以下フィギュア
また、観戦が好きになった理由で「家族の影響」が80%以上なのが上位10位以内でフィギュアと卓球だけというのも面白いです。
(参考元:トレンド調査2023:女子高生のスポーツ・運動に関する意識)
私自身はフィギュアスケートについては全日本やGPシリーズは観る、CSでジュニアやノービスの大会があれば観る程度の平均的なフィギュアファンだと思います。北国民なのでスキーは普通に滑れますが、スケートは手すりを掴まずに一周できるかどうかの完全な素人です。
ということで、このブログの感想方針としては
・女子フィギュアスケート競技の特性を、女子卓球競技と比較しながら書く
・アニメと原作の差異については書く。ただし原作を読んでいない人へのネタバレになる部分は極力伏せる
とします。
--ここから本文--
では『メダリスト』1話感想です。
まず冒頭、自分が原作で一気に引き込まれた、いのりの独白から始まります。
『対価もわからず飛び込んだ~数えきれないものを支払っていくんだ」
この文章と『メダリスト』というタイトルで、作品の方向性を視聴者に明示します。
スポーツもの作品のフォーマットには大きく分けて「チームメイトと共に県大会、全国大会を目指していこう」と「全てを賭けて日本の、世界の頂点を目指していこう」があります。私が書いているのは前者ですが、メダリストは後者だというのを冒頭1分で焼き付ける素晴らしい独白だと思います。
そして、続けてこの作品のもう一人の主人公である司のシーンに移行しますが、原作を読んでいる方はおわかりの通り、司のバックグラウンドについてはバッサリとカットされています。
これは、漫画という媒体だといのりと司のダブル主人公だということを1話で示せるが、アニメだと30分の枠で漫画の1話と同じ部分まで進めるために、まずはいのりを主人公として話の筋を通したのだと思います。
メダリストの特徴はこの、いのりと司という「選手とコーチのダブル主人公物語」ですが、一話30分でそれをやろうとすると焦点がぼけるので、先ずはいのりが主人公の物語として書いたのだと思います。
ただし、司というキャラの軸である「フィギュアを始めたのが遅かったことに後悔している」「他人に対しては熱くなれる」はしっかりと一話から強調されていました。
そして一話前半の名場面であるいのりと司のおいかけっこのシーンです。
ここの手すりを滑り降りるシーンについて、自分は原作では「いのりは運動神経が抜群なんだ」という感想しか持てていなかったのですが、アニメでは後半の「この子は全然怖がらないんだ」という司のセリフにこのシーンを被せたことで、漠然と運動神経が良いということではなく、いのりの長所である「氷を怖がらない」ことの証明としてつかっているのが上手いと思いました。
ちなみにこの「氷を怖がらない」ですが、「コートを怖がらない」「ボールを怖がらない」等と、実は小学生以下の子供がスポーツを始めるときの重要なポイントです。実際どのスポーツでも体験に来る子供の半分以上はクラブ入会前にここで挫折すると思います。
これを才能だと示しているところに、スポーツを始める子供に真摯に向き合っている作品だと感じました。
次に、いのりが学校では勉強もクラス行事も上手くできないところが描写されます。その直前に司がフィギュア教本にびっしりといのりが書きこんでいるところを見つける描写があるおかげで、いのりがただ勉強ができない子ではなく、フィギュアに対してだけは情熱を持って研究ができる人間であるという、終盤部分への上手な伏線となっています。
そして、司はアイスダンスのペアだった瞳がHCを務めるクラブのアシスタントコーチを打診され、そのクラブにいのりと母親がやって来ます。
司と瞳の関係性も原作では一話からしっかりと書かれていますがアニメでは省略されています。総じて司関連の話は二話以降に入れ替えているのかと思います。
(特番やインタビューなどでは「いのりと司のダブル主人公」としっかり言われているので、司側の事情がカットされることは無いと考えています)
いのりの母親は、姉がフィギュアをやって挫折したから、妹のいのりにはその思いはさせたくないと、諦めさせるためにやって来ました。
最初の自己紹介で書きましたが、フィギュアは卓球と並んで「家族がやっていたから観る・始める」スポーツです。
それは同時に上の子が上手or下手だったから下の子は〇〇させよう、というのが多いことでもあります。
原作では何でもできる姉ですら挫折したのに、何もできない妹には無理だというニュアンスで母親が話すため、それに反発する形で司が話し始めます。
アニメではその部分がさらりと流されたので、母親に反発するよりも、「今から始めても無理」という言葉に反発するという部分が強調されていてわかりやすかったと思います。
その後いよいよ、いのりの初スケーティングです。
この靴を履かせているときの司の「君は十分偉いよ」の描写に力を入れていることで、司も主人公なんだということがわかって良かったです。
スケーティングの描写は3Dでかなり力が入っています。まず、最初のスケーティングで軌跡に星が舞うというアニメ的な描写から、戻ってきたときのリンクの氷が削れる細部までの表現。
これで、このアニメがスケートに対して真剣だということを実感できました。
ひょうたん、T字、スケーティングもほどよく「上手な子供の動き」をしていて、その後の会話に説得力を持たせています。
そのスケートを見て褒める母親ですが、いのりがフィギュアを始めることには反対します。頑張っても報われないのに時間とお金をかけて欲しくない。もっと他のことをやって欲しいと。
自分が報われなかった(と思っている)司は、母親の言葉に納得しそうになりますが、その時いのりが自分の思いを激白します。
恥ずかしくない自分になりたい、みんなができないスケートが自分はできる、それが自分のお守りだった、それすらただのまねっこで。だからスケート絶対やりたいという心からの叫び。
ここのいのり役春瀬さんの演技が文句なしでした。一話の、そしてメダリストという作品の肝となる感情。
それに応える司役大塚さんの真っすぐで熱血漢な演技。漫画の中の台詞達がすべてお二人の声で再現される感覚です。
ちなみに原作からカットされたセリフで司が「ものになれるってオリンピック選手になれるかどうかですよね」というものがあります。
自分の知人で、スキーモーグルで全日本強化選手まではなったけど日本代表にはなれなかったという人がいました。
たしかにそこまでいくと、時間もお金も全てをモーグルに捧げていました。なので、いのりの母親のセリフや、瞳コーチの「本格的にやると本当にお金がいる」というセリフもすごいわかってしまいます。
でも、自分でやりたいと思う本人の気持ちが一番で、それがあれば始める年齢は関係ないというのがメダリストという作品の軸です。
二話以降、いのりと司の二人が始める年齢が遅いというハンデをどう乗り越えていくか、楽しみにしています。
尚、一話でフィギュアは5歳から、という話をしています。卓球も一般的に日本代表レベルを目指すなら5歳からと言われます。
自分の作品では高校から卓球を始めてインターハイを目指すというキャラが登場しますが、ファンタジーぎりぎりのラインで、一般には中学から始めて高校のインターハイに出場できる人がごくまれにいるかいないか、と言われています。
メダリストも、11歳というほぼファンタジーの世界だけどそれでもそんな存在を期待してしまう、そういう絶妙な年齢からのスタートが作品の魅力を引き立てているのだと思います。
尚その二、フィギュアにはお金がかかるの件です。
とりあえず始めるなら1万円前後で靴はありますが、いのりが履いているのは28,000円のものです(コミックス参照)。
卓球も5,000円程度のラケットはありますが、全国目指すような子供は最初から20,000円くらいするラケットを使っています。
このあたりのこれから始める初心者も道具は最初からきちんとしたものを買おうという話は自分の作品の中でも題材としています。
最後に、一話でこのペースだと、二話ではあのシーンがラストに入ってくると思いますので、会話シーンもスケート作画も今から楽しみです!
おまけの宣伝
カットマンというマイナーな戦型にあこがれた少女が奮闘する高校女子卓球小説『はじまりはいつもラブオール』、下記サイトにて連載中です。