#浅き夢見路への招待状

 

ボクは毎日おおよそ決まった時間に目が覚める。だいたい六時を少し越えたあたりか。

仕事は簡単なデスクワークと少しややこしい電話の対応である。

萌愛に逢いに行く日は、朝から煩わしく感じる仕事なんて糞喰らえと思いながらデスクに齧りつき、早く終業時間が来ないか待ち遠しくて堪らない。

 

お店でのデートは、いつもイチャイチャすることから始まる。

お気に入りの彼女はおっぱいが大きくて口づけが甘い。

そして何よりも首筋の匂いが堪らない。

匂いフェチのボクに無条件で与えてくれる匂いは、ボクの鼻腔から脳天へと突き抜けて、薄暗い店の雰囲気など忘れるほどのお花畑にシーンを移してくれる。

1セット四十分のシステムなのだが、ボクはいつも2セット分の彼女を堪能する。

抜群の人気嬢ではない彼女は時間帯によっては、ほぼボクの独占状態になる。

その間、彼女はボクにうっとりとした表情を見せたり、ときおり甘えて見せたり。ボクも彼女の匂いを堪能したり、ときおり豊かな胸への挨拶を楽しんだり。

そんなボクと彼女は、店の中ではまるで恋人同士のようだったし、そんなボクを危険な人物ではないと認識してくれたようでもあった。

店のルールでは、指名嬢の大事なところも悪戯していいことになっているが、萌愛はそれを嫌がっていたので、ボクは無理にその遊びに興じることはしなかったし、セックスに関する話題もほとんど持ち出さなかった。

 

そんな遊びを始めてから数ヶ月間通った。デフォは2セット、ときどき3セットというパターンをあまり変えずに。

そんなある日、彼女が店を卒業したいと言い出した。そろそろちゃんとした仕事をしないといけないなどと思いだしたらしい。

彼女も二十二歳。大学へ行っていたなら卒業する歳だ。それが彼女の一つの区切りだったという訳だ。

ボクは寂しくなる想いを伝えながらも、彼女の将来にエールを送った。

「でもその前に、キミとの思い出が欲しい。一緒に飲みに行かない?」

「いいわよ。」

「何が食べたい?」

「肉がいい。バルっていうの?なんか鉄板が目の前にあるイメージのやつ。それと美味しい日本酒が飲みたい。」

始めはそんなことが実現できるなんて、あんまり思っていなかった。嬢が客とデートできる確率なんてビビたるものだという噂を聞いていたから。

それでもここまで品行方正で臨んできたボクに、恋の神様が少しだけ悪戯を仕掛けてきた。

 

 

つづく