「被害者は斎藤笑美。芸文大学文学部の4回生です。」
会議室の空気は一段と沈んでいた。
まぁ、無理もないか…
たった2週間の内にこれだけ犯行が続いて、被害者が出ているにも関わらず、依然犯人の影さえ踏めていないんだからな…
その日の捜査でも有力な情報は無かった。半ば諦めかけている捜査員達を一課長が奮い立たせる。…だが、それにも限界が来ているようだった。
そんな中、2人だけが疲れを感じさせない瞳に炎を燃やしていた。


「私を捕らえる事など不可能だ…無理なんだ…アハハハハハ!!!」
捕まえてみろ!馬鹿な狛犬共に可能なものか!


捜査会議が終わり、靴音が減って行く中、浅間と耕介だけがその場に残った。
「八坂さん、この事件…どう思いますか?」
浅間が資料を捲りながら尋ねる。耕介が視線を移せば、被害者と目が合った。「まだか…」そう聴こえたようで、耕介は慌てて目を逸らす。
「おそらくは愉快犯だろうな。被害者は増える可能性がある。」
「ええ…」
頷いた浅間が、捜査資料の一枚に視線を留めた。慌てて他の資料を捲る。「!?」
「八坂さん、これ…」
複数の資料を広げた浅間が、それぞれの写真の一部を指さしてゆく。「ここも…ここも…」
浅間の指を追った耕介も、見落としていた、思わぬ共通点に目を見開いた。写真の隅にひっそりと、控え目に十字架。
「全て十字架の近くで犯行が行われている…」
「十字架だからと言って、教会のそばとは限らないんですね」
「3件目は壁の落書きか…」
耕介は静かに口角を上げる。
「現場近くの教会を調べるんだ!」
事件が微かに転がり始めたように感じられた。