私は、3つの皿に桃を切り分けた。
「ハイ、これはヒトミさんの分」 と言って、ヒトミさんの前に置くと、
ヒトミさんは泣き腫らした顔で少し微笑んで、一切れの桃を口に運んだ。
その時、トモキさんが 「人美!」 と大きな声を上げた。
呼ばれたヒトミさんも、ニッコリと笑いかけている。
トモキさんの目線は、確実にヒトミさんを捉えていた。
あぁ、トモキさんにもヒトミさんが見えるんだ。
トモキさんとヒトミさんは、今、固い絆で結ばれていて、
相手を想う強い気持ちがその姿を見せてるんだと、
私はただ自然に理解した。
ふたりは見つめあって微笑みながら、桃を食べていた。
まるでヒトミさんが生きている時の、たわいもない夜のように、
桃を食べたふたりは、
寄り添いながら小さなベランダで空を見上げている。
そのうしろ姿を、私は部屋の中から静かに見守っていた。
少しずつ、夜明けが近づいていく。
ふと、棚の上にフォトスタンドがあることに気が付いた。
近づいて手に取ると、ふたりの写真だった。
海外なのか、抜けるように青い空と海をバックに頬を寄せ合う様子は、
幸せいっぱいの恋人同士そのもので、
鮮やかなオレンジのノースリーブを着たヒトミさんが、
白い歯を見せて楽しそうに笑っていた。
写真を見て、私は確信した。
今、ここにいるヒトミさんは、確かに本物の人美さんだ。
体の左側にひどい痣があって、体もかなり透けてしまっているけれど、
右の目の下の小さなホクロも、筋の通った細い鼻も、
確かに本物の人美さんだった。
あまりにも不思議で、眩暈がするほど説明のつかない出来事だけれど、
私を見つけてここまで連れてきたヒトミさんの想いに胸が熱くなった。