“Step Again”

“Step Again”

「再生」をテーマにした、大人の恋愛小説です


         


         
           心はまた必ず再生します 

    あなたが願うなら…   そのドアを開けたなら…

      勇気を出して もう一度
 「Step Again」

Amebaでブログを始めよう!

その夜、麗子から聞いたところによると、

貴之の選んだボトルは「B44 守護天使」というもので、

「ネガティブから平和への変容」という意味があるそうだ。

 -自分の人生の状況に絶望している。

 -心の平和が欠けていて、自分の存在自体に自棄的。

 -辛い子供時代を送ったことがまだ解決されていない

というのが、ボトルから読み取れる彼の状況だそうだ。

そして、あのボトルには、

虐待の経験から生じた苦しみを解放するような作用もあるらしい。

(まあ、その効果の真偽は、その時はまだ未知数だったのだが)

しかし、100本を越えるボトルから、貴之があれを選び出し、

その意味とやらが、あまりにも貴之の状況にぴったりだったことに、オレは驚いた。

まさに貴之の「乗り越えるべき課題と、直面している困難」そのものだったから。



麗子は続けた。

「あのね。4本選んだうちの3本目。それは、今どういう状況であるか、

どんな過去が今に影響を与えているかっていうことを示すボトルなんだけど、

それにも「子供時代の感情をいまだに抑圧していて、憤りを抱えている。

自分が感情を表現できないことに対しても、怒りを感じてる。

権威者への恐怖に縛られていて、その恐怖で妨げられている」

っていうことが出てたわ。

やっぱり、貴之くんの中で、ご両親への恐れとか子供時代の問題が、

今も大きく関わってるんだと思う。

こっちにきて、彼はそんな恐怖から、もしかしたら、ほんの少しであっても

解放されたのかもしれないわね」

「あぁ、そうかもしれないな。やっぱり、来てよかったよ」

「でもね。彼の選んだボトルのポジティブな面をみると、クリエイティブな能力や、

人を癒すようなヒーラー的な能力を感じさせるものばかりなのよ。

貴之くんはきっと繊細で人の感情に敏感なのよね。

いい方に開花すれば芸術的に優れてたり、

人の深いところに繋がれる才能になるけど、

人より感じやすくて、恐怖や不安も感じすぎる面もあったんでしょう」

「その通りだと思う」

「ポジティブな面を伸ばしてあげたいね。いつか」



実の家族よりも的確に、麗子は分析をしていたし、

恩着せがましくなく貴之のことを心配してくれているのがよく分かった。

「本当にありがとう」

オレが静かに言うと、麗子はシンプルにこう言ったんだ。

「だって、家族でしょ」

家族かぁ・・・。

その夜、日付が変わってもなかなか眠れないままに、

オレの頭の中で「家族」という言葉がグルグルと回り続けていた。




★これは「プラチナ通りで逢いましょう」のスピンオフストーリーです★
  

翌日、貴之は最後の「出勤」をした。

帰国の2日前だった。

オレが帰宅すると、貴之はキレイな色のビンを

光に当てたり斜めから見たりしながら弄んでいた。

「あれは・・・?」

「あぁ、あれはオーラソーマっていって、カラーセラピーの一種なの。

107本のいろんな色のカラーボトルから4本選んで、

どれを選ぶかで、その人の状態や本来持って生まれた性質とか可能性がわかるの。

エッセンシャルオイルとかハーブの抽出液がボトルに入ってて、

あれは自然の色素なのよ」

「へぇ、なんであいつがそれを持ってるの?」

「うちの会社でも、オーラソーマ製品をこれから扱うことになったのよ。

それで、今日、お手伝いのお礼にって、セラピストがリーディングをしてくれたの。

あのボトルは、貴之くんのチャレンジとギフトのボトルでね。

要は、彼が乗り超えなきゃならない課題とか、今向き合っている困難とか、

そういうのを表してるんだけど。体につけるのがいいんだけど、

ああやって見たり香りを嗅ぐだけでも効果があるんだって」

「そのセラピーって無料なの?」

「いいの、いいの。私からのプレゼント」



ボトルを眺めている貴之を見て、麗子は嬉しそうに微笑んだ。

オレは貴之の横に座って、貴之のボトルをまじまじと見た。

上が薄紫で下が薄いブルーで、

ブンブンと貴之が上下に振ると、2つの色が交じり合ってライラック色に変わる。

光が当たると、まるで夜明けの空の下に澄み切った海が広がっているような、

なんとも幻想的なボトルだった。

「キレイな色だな。貴之、これが気に入ったのか?」

貴之は頷き、そして蓋を開けて香りを嗅いだ。

言葉はなくても、貴之は「そうさ、僕のボトルなんだ」と言っていた。



その穏やかな横顔を見ていたら、

貴之が赤ん坊の頃の記憶が突然蘇ってきたんだ。

お袋が貴之に母乳をやっているのを、幼いオレが

お袋の肩に手を添えて一緒に見たり、貴之の頬を指でつついたりしている。

貴之が泣くとお袋が歌を唄って、

オレもそれに合わせて一緒に歌ったりしている。

どこに隠されていたのか分からないが、そんな幸せなシーンが

断片的にオレの脳ミソの地下深くからバラバラと集まって、

パズルのようにはまっていったんだ。

泣きたくなった。

こらえきれなかった。

オレは立ち上がって、風呂に駆け込んだ。

熱いシャワーを頭から浴びながら、オレは声を殺して泣いた。

「カズくん、タッくん」

お袋がオレたちを呼ぶ声が聞こえる。

それは今では聞く事のない、優しく温かい「母親」の声だった。




★これは「プラチナ通りで逢いましょう」のスピンオフストーリーです★
  

2日後、社会科見学と称して、貴之は本当に麗子と一緒に出掛けていった。

そして、その翌日もまた、貴之は麗子と一緒に出勤していったんだ。

どうやらオンラインショッピングの

会員宛ダイレクトメールのシール貼りの仕事があり、

それの手伝いをさせてもらっているようだった。

貴之は相変わらず誰とも口をきかなかったが、

真面目にシール貼りの手伝いをして、みんなと一緒にランチも食べたそうだ。

これは驚くべき進歩だった。

地球が引っくり返っても起きないと思っていたことが、

たった数週間で起きたのだから、奇跡みたいなもんだ。



だが、麗子は大袈裟に喜んだり、自慢げな様子もなく、

淡々と、しかし持ち前の豪快な明るさで、

「貴之くんが手伝ってくれたから明日でシール貼り終わりそうなんだって。

みんな助かったって喜んでるわ。来てもらって大正解」 と言っていた。

貴之もまんざらでもないようだ。

それを見ていたら、オレたち家族があまりにも臆病で、

自分たちが守ってやらなきゃ何もできないんだと勝手に思い込んでいて、

貴之を押さえつけていたのは病気ではなく、

オレたち家族の先入観と傲慢さだったのではないかと思うようになった。

貴之がこっちに来たことで、びっくりする程たくさんの気付きと、

天地が逆転するくらいのカルチャーショックを得たのは、

実はオレだったんだ。





★これは「プラチナ通りで逢いましょう」のスピンオフストーリーです★
  

最初はオレたちのあとをついて食事に出るくらいだったが、

しばらくすると、ひとりで近所を散歩したり、

スーパーで食料を仕入れたりするようになった。

驚いたな。あの貴之がひとりで外に出るとは思ってもみなかった。

やっぱり日本の(というか、あの家の)限られた空間と

限られた人間関係の中にいるよりも、

思い切り違う環境の方がよかったということだ。

しかも、人のことに全く干渉しない麗子は、貴之にとってはラクな人種だったらしく、

周囲の心配をよそに、3人の生活は意外にも順調だった。



貴之が日本に帰る1週間くらい前だったと思うが、

3人で食事をしている時に麗子が提案した。

「ねえ、せっかくアメリカまで来たんだから、貴之くん、うちの会社を見学に来ない?

会社を見るの初めてでしょ。

日本ではなかなかできないことだから、全部こっちでやっていっちゃいなよ」

しばらく黙ってピザを食べていたが、貴之は手を拭くと、オレの方を見た。

同意を求める目だった。

オレは頷いて、「いいんじゃないか?社会科見学だ」と言ったんだ。

黙ったままだったが、貴之は麗子を見てコクリと頷いた。

「じゃあ決まり!明日会社で話つけてくるから、明後日は社会科見学にしましょう」

麗子はそう言って、おいしそうにワインを飲んだ。

心底、麗子を尊敬したね。

貴之の心を覆っていた重苦しい闇に、

麗子という太陽が少しずつ光を照らしていくような、そんな感じだったよ。




★これは「プラチナ通りで逢いましょう」のスピンオフストーリーです★
  

麗子がこっちに来たのは、アメリカに行って4ヶ月ほどしてからだ。

来るような気もしていたし、来ないような気もしていた。

どちらの可能性もあるし、どちらの可能性もないような。

なんだろうな。そういう掴み所のなさが麗子そのものだ。

「いいのか?」って聞いたら、

「仕事なんて、自分がする気になれば、どこにでもあるわよ」 とあいつは答えた。

何も言えないくらい潔く、そして圧倒的な意思と誇りがそこにはあった。

だからオレは「ありがとう」とだけ言った。

心からの感謝を込めて。



そしてその言葉通り、あいつは程なくして日本語教師のバイトを始め、

その生徒だった女性に気に入られ、彼女の旦那の紹介で、

あるオーガニックコスメやアロマを扱う会社の部長秘書の職を手に入れた。

夕方までのパートタイムの仕事ではあったが、

(日本で言うところの時短就業というものだ)

日本進出を視野に入れていたその会社では、

バイリンガルで、セクレタリとしても経験豊富な麗子は

大変貴重な存在だったようだ。

そんな訳で、1年を過ぎた頃には

麗子はすっかり自分のライフスタイルを確立しており、

相変わらず趣味に仕事に人生を満喫していたんだ。

あのバイタリティとタフさには頭が下がるよ。

どんなに頑張っても追いつけない颯爽とした麗子は、オレには眩しすぎるんだ。



とはいえ、麗子のような奴じゃなければ、

貴之をアメリカに呼ぶなんて計画は、まさか実現しなかっただろう。

麗子はただ、「いいんじゃない?きっと何かが変わると思うわ」 と言っただけで、

文句も意見も言わなかった。

そんな訳で、貴之はショートステイではあったが、

アメリカにやってくることになったんだ。

生まれ育った日本でさえ引きこもっていた貴之が、

本当にアメリカに来るとは誰も想像していなかったと思うが、

意外にも貴之は嫌がらなかった。

相変わらず黙りこくったままだったけど、

小さなスーツケースに、ほんの少しの服と青いタオルケットを詰めて、

貴之はアメリカの地に降り立った。




★これは「プラチナ通りで逢いましょう」のスピンオフストーリーです★
  

それじゃいけないと思えるようになったのは、

アメリカに行こうと決めてからだ。

こんな状況のままで、オレだけ日本を離れることはできなかったし、

自分に目標ができて、人生に対して前を向けるようになったんだと思う。



俺は暇を見つけて、貴之に会いに行った。

何の反応もない貴之に一方的に話しかける感じではあったけど、

昔のことを謝ったりもした。

あいつの感情はピクリとも動かなかったけど、

でも車の助手席に乗せて、海を見に行ったりもした。

何にもせずに、砂浜に車を停めて、何時間もぼんやり過ごしたりした。

あんなのは、子供の時以来だったな。



両親から離すことが一番かもと本気で思ったのも、その時だ。

ひとりで置いておくのが心配で、あの部屋に閉じこもっている貴之を、

外の世界に出すことを恐れて何にもできずにいたのは、

俺たち家族の方だったのかもしれないってな。

だから言ったんだ。

オレも頑張って仕事して、一日も早く生活に慣れるから、お前もアメリカに来いよって。

無茶苦茶なことを言ってると自分でも思ったさ。

でもなんだか、それが一番良いような気がした。

根拠も、実現できる要素も、何もなかったけど、

誰も貴之を知らない土地で、なんとなく自由に生きられたらいいような、

そんな気がしたんだ。




★これは「プラチナ通りで逢いましょう」のスピンオフストーリーです★
  

父親は母親に、ひとかけらの愛情も持っていないように見えた。

金は入れてたんだろうけど

(まあ、そのお陰で、オレたちは随分と金のかかる学校に行けた訳なんだけど)、

ファミリーなんて言葉から想像されるような温かさや優しさは、

うちの家庭には皆無だったな。

母親は父親を憎んでいた気がするが、その感情自体を、

母親は気が付いていない (または、気が付かない振りをしている) ようだった。

夫への憎しみや、やり切れなさを、

教育熱心な母親を演じきることで相殺しようとしていたんだろう。

オレが知る限り、あの人はこの世で一番愚かで気の毒な女だ。

真面目で神経質で誇り高い、オレを産んだ女。



おっと、また話が逸れた。

母親のことになると、なんでオレはこんなに熱くなっちまうんだろう。

貴之は高校の途中で完全に引きこもりになって、

病院で出された白とピンクの錠剤を飲みながら、

どうやら生きているような状態だった。

薄い唇はいつも青くて、いつまでも中1の子供みたいな薄っぺらな体のままだった。

20代の半ばくらいに、ボランティアのゴミ拾いなんかで砂浜の掃除だとかに参加して、

少し外に出られるようになって、

あぁ何だかいい方向に動き出したかと思ったが、

1年後にはまた引きこもっちまって、反動なのか一層心を閉ざしてしまったんだ。

おふくろは絶望とヒステリーを繰り返し、

病院を転々としたり、運命を嘆いたりしていたが、

その行動が貴之の病気の根源であり、

病状を悪化させている一番の理由だってことには気がついていないようだった。

(いや、例え気がついていたとしても、それを認めることなんかなかったんだろうけれど)



オレがあいつに出会った頃は、

貴之は感情もなく、意思もなく、ただそこに存在するだけになっていた。

家族全員が、まったく好転の兆しのない貴之の病状になす術もなく、

ただ手をこまねいているだけだった。

オレは仕事にかこつけて実家には立ち寄らなかったし、完全に目を背けていたよ。

逃げてたんだ。 すべてのことに。

それじゃいけないって分かっていたのに、向き合うのが怖かったし、面倒臭かった。

もう、どうでもいいような気がしてたんだ。

オレを取り巻くすべてのものにな。




★これは「プラチナ通りで逢いましょう」のスピンオフストーリーです★
  

そんな訳で、オレはアメリカ行きを目指すことになったんだが、

あの頃の一番の問題は貴之の病気だった。

貴之はオレの3つ下の弟だ。



母親が「教育」「躾」という名前の暴力をオレに振り翳しているのを、

貴之は震えながら見ていた。

最初のうちは大声で泣いたが、泣き喚けば貴之も「躾」を受けた。

だから段々と耐えるようになった。

声を出さずに涙だけ流して、震えながら部屋の隅で座り込んでいた。

いつも、タオルケットを放さなかった。

赤ん坊の頃から腹の上に掛けられていた、

既に洗いざらしになった薄いブルーのタオルケットを。

貴之は好き嫌いが多く、しかも食が細かったから、

小学校に上がっても体が小さくって、

整列なんて言うと、いつも前の方で腰に手を当てていた。

そして寝る時には、相変わらずタオルケットを持って寝ていた。

やたらと母親の顔色を伺って、大きな声ではしゃいだり、

母親の周りをまとわりついていたと思ったら、粗相を仕出かして怒られる。

すると、途端に真っ青になってガタガタと震え、

部屋に閉じこもったっきり出てこない。

貴之に「中庸」はない。 0か100か、針が振り切れてた。

完全にいっちまってたんだ。



もっと早く、医者に連れていけばよかったのかも知れない。

今になってそう思うが、あの頃のオレにはそんな知識も余裕もなかった。

オレだけじゃない。うちの「家族」すべてがだ。

貴之には悪いことをしたよ。

あいつをあんな風にしたのは、オレのせいだ。

オレがもっとうまく両親とやっていたらな。

ほんと悔やんでも悔やみ切れないよ。



オレは図太かった。そして反抗した。

思うままになってたまるかと。 オレはオレなんだと。

でも、子供のオレは、オレとして生きることなんか現実的にはできなかった。

だから途中から作戦を変更した。

勉強していい会社に入って金を稼いで、自由を手に入れようってさ。

それまでは、文句を言われないようにしてればいい。

あの人たちは勉強さえしてれば、何にも言わないって分かったからな。

勉強さえしてれば良かったんだ。 簡単な話だ。

もっと早くそのことに気づいて、うまくやってればな。

貴之にあんな恐怖を与えることはなかったのかもしれない。




★これは「プラチナ通りで逢いましょう」のスピンオフストーリーです★
  

現状にも満足いかなくて、

なんだかすべてが中途半端になるような気がして、

気持ちばっかり焦ってカラ回りしてたオレが、

このままじゃいけないって思ったのは、あいつの一言がきっかけだった。

仲良しの友達がみんな内定が出たんだとか言って、

泣きながら虎ノ門まで来た日のことだ。

ワァワァ泣いててどうしようもないから、月島まで連れて行ったんだ。



ビール飲んでもんじゃを食べて、帰り道にあいつが言った。

「カズさんは将来、何になりたいの?」

将来?驚いたね。

「大きくなったら何になりたいの?」なんて、小学校低学年の質問だ。

でもあいつは、ひどく普通にそう言ったんだ。

それでオレは考えた。

オレは…、オレはどうなりたいんだ?ってね。

今のままでいいのか?オレって。

もしかしたら、あの日がなかったら、

オレはあのままマーケをやっていたかも知れないな。



夏のじっとりと暑い夜だった。

白い月があいつのピンクの頬を照らして、

邪気のない表情でオレを見上げてるあいつが無垢な子供みたいで、

それが気恥ずかしいような、くすぐったいような感じがして直視できなかった。

あぁそうか、オレにも…、オレにも将来があるんだよな、

まだまだこれからがあるんだよなって、改めて気付かされた。

あいつが泣いてるから励ますために月島まで来たっていうのに、

あいつは別れ際、泣き腫らした顔でオレに言った。

「ありがとう。カズさんも頑張ってね」

笑っちゃうよ、オレが励まされるなんてな。

でも、頑張ろうって思ったんだ。

必死にもがいてるあいつを見てたら、昔の自分を思い出した。

そうだ、オレも頑張らなきゃな。

電車の窓ガラスに映る自分に、そう誓ったよ。




★これは「プラチナ通りで逢いましょう」のスピンオフストーリーです★
  

別に麗子に不満があったわけじゃない。

麗子とは、それなりにうまくいっている。

お袋を見て育ったオレは、結婚しても絶対に仕事を持つべきだと思っていた。

そうすれば、仕事一筋にもならないし、

家庭以外何も見えないような世界の狭い女にはならないと思った。

色んなものを見て、色んな価値観に触れた方がいいってな。



麗子はオレが望む望まないに関わらず、仕事を辞める気なんかなかったし、

趣味も多くて、常に習い事なんかもしてて忙しい奴だった。

麗子は人としてすごく魅力的だと思う。

前向きで、エネルギーに溢れてて。

そのエネルギーがすごくて、ずっと一緒にいると休まらないだけだ。

疲れてる時は、麗子のテンションがきつい。

それで、あいつに会いたくなる。

癒しのコーラルピンクに身を任せたくなるんだ。



新卒の採用なんかやっていると思い出す。

あいつが地味な紺のスーツを着て、

泣きべそをかきながら就職活動をしてた頃のこと。

よく泣いてたな。

でも、泣きながら必死で夢を叶えようとしてた。

バイトして就職活動して、忙しそうだった。

心配で、なんとかしたいと思ったけど、相変わらずあの男と付き合っていたしな。

たしか、あいつと同じ心理学をやってて、男の方は院に行くって言ってた。

ずいぶんと頼りない感じの男だったが、

なにか、あいつにしか分からない良さがあったんだろうか。

今頃、こんなことを考えてるなんてバカな話だよ。

今更どんなに思ったって、

もうあの日々を取り戻すことなんてできないのに。




★これは「プラチナ通りで逢いましょう」のスピンオフストーリーです★