「失礼するよ。」
大泉会長が入ってきた。
「大泉会長、お待ちしておりました。」
「直樹君、すまんね、忙しいのに。君、直樹君と2人で話をするから出ていってくれないか?」
大泉会長は琴子を追い出そうとした。
「大泉会長、彼女も含めて3人で話すこともあるんです。今日はその為に呼びました。」
出ていこうとする琴子の肩を抑えた。
「ほう。何かね?」
大泉会長は平然としてるが、直樹の手が琴子の肩に置かれているのが気になってしょうがない様子だ。
「会長、この間、お見合いの話をなさいましたよね?」
「ああ。…まさか彼女か?でも直樹君は彼女はいないと。」
「ええ。彼女じゃありません。僕の妻です。琴子。」
「大泉会長、初めまして。直樹さんの妻をさせていただいてます。琴子です。」
琴子が自己紹介をした。大泉会長は驚きを隠せなかった。
「お、奥さんかい!?直樹君、20歳じゃないのか?」
「今年で20歳です。」
「はは。君の家は早婚だね。奥さんといい、君達といい。じゃ、その子は直樹君の子かね?」
大泉会長は琴子の腕の中にいる琴美を覗いた。
「はい。今1ヶ月の琴美です。」
「そうか…じゃあ見合いの話は仕方ないな…」
残念そうに言う。
「でも君が授かり婚なんて意外だな。」
「正確には授かり婚じゃないんです。高校2年生の時には婚約者でしたから。」
「ほぉー。君がね…」
残念そうな、直樹の新しい1面見て嬉しそうな微妙な表情だ。
「琴子くんと言ったかな?」
「は、はい!」
琴子は急に名前を呼ばれ、飛び跳ねた。
「そんなに驚くことないだろ?今から食事しないか?3人で。」
「す、すみません、会長。直樹さんの弟が高熱で、直ぐに帰らないと…」
琴子が申し訳なさそうに言う。
「そりゃ大変だ!早く帰りなさい。見合いの事は心配しなくていいから。食事は今度でいいよ。」
「ありがとうございます。失礼します。直樹、琴美を。」
いつの間にか琴美を抱いてた直樹は残念そうに琴子に渡した。
「直樹君、わしも今日は見合いの話をしに来ただけだから失礼するよ。」
「はい。わざわざ来ていただいたのにすみません。」
見合いの為だけに来たのかと思うと呆れもするがなんとか堪えた。
「いいんだよ。琴子くん、車で送るよ。」
「え!電車で帰れますので、気になさらず。」
「直樹君の弟さんが熱なんだろ?急がないといけないだろ?」
「ええ…まぁ…」
「君と少し話もしたいしね。」
琴子は少し考え、車で帰ることにした。
「じゃあお言葉に甘えてお願いします。直樹、仕事頑張ってね。」
「ああ、裕樹の事頼むな。」