今日は琴子と琴美が退院する日。

今日までお見舞いの絶えない日が続いた。

里美、じんこなどのF組女子や、大学の友人や、大学の教授までが。

 

流石有名な2人だ。

 

「琴子、準備出来たか?」

「うん。行こっか。」

病院の玄関には琴子が医学科の実習でお世話になった先生達が花束を持って、待っていた。

 

「琴子ちゃん、おめでとう。学校はどうするの?」

「西垣先生。ありがとうございます。学校なんですけど、私、看護学科に転科することになりました。」

「え!?琴子ちゃん、医者じゃなくて、看護師になるの!?そんな〜、琴子ちゃんと仕事できるの楽しみにしてたのに……」

「そ、そのかわり私の旦那様が、お医者様を目指してくれますので。」

琴子は直樹を見上げた。

「はじめまして、入江直樹です。」

「こいつか…僕の琴子ちゃんを汚した奴は。それにしても天才で、パンダイの次期社長何だろ?そんな苦労する仕事につく必要ないじゃないか。ま、僕には関係ないけどね。琴子ちゃん、じゃあ僕はオペの助手につかないといけないから、失礼するよ。」

(何が『僕の琴子ちゃん』だ!?琴子は俺の物だ!俺が何で医者を目指すかなんてどうだっていいだろ!?てか、なんでパンダイのこと知ってんだよ?)

 

「直樹、タクシー来てるから乗ろうよ。」

(琴子には免許取ったこと言ってなかったな。)

「琴子には言ってなかったな。俺、車の免許とったから、タクシーじゃなくて俺の車で帰ろうぜ。子供用のシートもあるし。」

「直樹、免許とったの!?ならよかった。この荷物だしさ。ありがとう。」

琴子と直樹の手には琴美と琴子の入院用具以外に、沢山のお見舞い品があった。

 

 

家に着くとお馴染みののパーティーがあった。

家族みんなが琴美を抱きたく、取り合いになり、直樹の怒りがピークになってきた。

「いい加減にしろ!」

直樹の声が紀子たちの浮かれた声を消え、琴美が驚いて目が覚めた。

紀子たちがあやしても一向に泣き止まない琴美。

「琴子、琴美と部屋いくぞ。」

「え?…分かった。琴美、おいで。」

琴子が琴美を受け取ると、何とか落ち着いてきた。

「やっぱり、琴子ちゃんの代わりは務まらないわね…誰でも母親が1番よね…1人例外がいるけど…」

紀子のつぶやきに誰もが頷いた。

(お兄ちゃん、小さい頃は素直で可愛かったのに…今じゃ琴子ちゃんや琴美ちゃん以外には素直に優しく微笑むことが減って…はあ…)

 

部屋に戻った琴子達は琴美に授乳をし、泣き止ませた。

「琴子、悪かったな。パーティー途中で抜けさせて。」

「いいよ。直樹は元々好きじゃ無いもんね。ところで急に怒鳴ってどうしたの?」

「琴美がお袋達の取り合いになっただろ?琴美は物じゃないのにってイライラしてきたんだ。」

「ふふっ。直樹、みんなにヤキモチ焼いてるの?琴美を取られて。」

「な訳ないだろ。くだらん!琴美、おいで。」

直樹は胸の中で眠る琴美を目を細めて見ていた。