A組担任の吉良山先生は1年A組の1限目を自習にした。

吉良山先生と2年A組担任松岡先生と佐藤綾子で話をすることになった。

「君は、相原さんを呼び出して何をしたのかね?」

「あいつが、先生にチクったんですか?」

「いや。あの後、相原さんは倒れたよ。よほどショックなことがあったんだろうね?入江君が君の顔、相原さんを呼びに来た時に見て、副会長だとわかったんだよ。」

「倒れた?」

「何があったか教えて貰おう。相原さんは意識がない状態だ。かなり酷いことを言ったんじゃないか?」

「まぁ酷いことは言いました。相原さんに入江君へ書いたラブレターを渡して欲しいとお願いしました。勿論彼女は戸惑いました。」

佐藤綾子は俯いた。

「私は言いました。彼女が居るからって許婚が居るからって関係ない。私はあなたより美人で、精神年齢が上で、父が大会社の社長だから地位も彼にピッタリだって。お前のお父さんは板前で地味な仕事だからパンダイ次期社長には似合わない。お母さんがいないから子供を育てる時に苦労する。だから、私の方が彼を幸せにできる。そう言いました。」

「彼女にお母さんがいないのは彼女にはどうにもできない。相原さんは4歳の時、お母さんを亡くされたそうだ。お父さんは板前さんだから夜はいなくて一人ぼっち。とっても寂しかったとおもうよ。お父さんに迷惑かけないように頑張って勉強して、明るく振舞っているって聞いたよ。」

「そうですか。彼女は言い返して来ました。板前という仕事は誰にでもできるものじゃない。お父さんをバカにするなと。お母さんがいないとか関係ない。子供は夫婦が育てるもので、祖父母が育てるわけではないと。彼が自分じゃなくて私がいいと言うなら彼のために身を引くと。でも、彼女はとっても暗い顔をしました。あんな顔初めてみた。私は彼女にザマーミロと思った。」

佐藤綾子は顔を上げた。

「口だけは強くて、自信がない彼女なら入江君を奪える。そう思いました。私はどんなにアタックしても無視されて、誰にも無表情だと思っていた彼が、彼女には笑っていて、悔しかった。彼の笑顔は私が作りたかったから。」

「彼達は2歳から許婚らしいよ。その頃はまだ入江君はもっと明るい子だったそうだ。これは入江君のお母さんから聞いたんだが…彼はトラウマで感情を表に出さなくなったそうだよ。でも、彼女と再会してから彼女といなくても入江君は表情が柔らかくなったそうだよ。入江君は相原さんに心を開ける。相原さんが入江君に光を見せてるんだよ。相原さんが笑顔を作ってるんじゃなくて、相原さんは入江君が自然に笑顔が出せるようにした。元の入江君に戻ろうとしているんだよ。」

「私は彼に笑顔になって欲しかった!でも、近づけなくて戸惑っているうちに、あの女と抱き合って、心繋がって…先生、私、嫉妬してただけですよね?」

「まあな…さっき保健室行ってきたんだが、入江君、凄く心配そうだったんだ。クラスの奴らに聞いても、すごい大きい声で『琴子!』って呼んで傍に寄って苦しそうな顔して走って保健室行ったそうだよ。初等部の入江君から今の入江君までを知っている生徒に聞いたよ。相原さんと入江君が一緒にいる時、入江君は今までにないくらい優しい顔をして、目が輝いて、何よりも、イキイキしているそうだよ。」

「先生達、迷惑かけて申し訳ありません。相原さんにも、入江君にも、謝ります。」

「うん。そうしなさい。今度、入江君と相原さんを含めた5人で話そうな。」

「はい。すみませんでした。」

その日は琴子の意識不明を各担任から聞いて学校中大騒ぎになった。