#20「聖夜のフェニックス」エア実況&解説。

 

冒頭のオーディション、恐らくほとんどの視聴者が驚いたことだろう。

あんな落とし方をする主催者がいるか。酷すぎではないか、と。

ここはもう私は覚悟を持って描いたつもりだ。

真希は「負けに行った」のだ。本人としては負けるつもりは微塵もないだろうが、間野山へ逃げ帰ってからこっち、ろくに発声練習もダンスもやっていない。負けるべくして負けたのだ。

真希にはとても残酷な仕打ちだと思ったが、真綿で首を絞めるより刀でばっさり斬られる痛みを味わう必要がある。屈辱と自分への甘さを思い知ることで、ようやく「ちゃんと終わる」ことが出来るのだ。

ちなみにこれには元ネタがある。映画『コーラスライン』だ。

ああいう落とし方をするのにもちゃんと理由があるように作られている。

主催したマーヴィン・プロダクションの名は音楽担当のマーヴィン・ハムリッシュから採った。

気付いた人はちらほらいたようだが。

 

いずれにせよ、真希にとっての本当のドラマはここからだ。

あまり時間を掛けてもいられない。

 

そんな頃、由乃らの企画した給食会は惨敗。

そこそこ住民から信頼されつつあったのにこの結果である。

「みんな、この学校に関心がないのかな?何でだろ?」

その理由が、真希の呟いた一言に秘められていた。

「ちゃんと終わってないからじゃないかな」

自分自身が最後の卒業生だったこと、曖昧なまま閉校式もせずに終わったこと。

本人としては意識していないかも知れないが、先ほどの痛みを味わった後でなければ出てこない言葉であったことは確かだろう。

「じゃなきゃ、次に進めないから」

プロット解説でも述べたが、この視点に気付いた瞬間、ラストまでの道筋が一気に開けた感覚があった。状況とドラマとが同じ要素で融合したのである。

 

こうして閉校式をやろうと思い付いた由乃ら。

初めは懐疑的だったが、由乃らの真意を知り「どんどんやれい」と一任する丑松。ここのあんたはホントにカッコいいよ!

 

アンジェリカの店にて。

冬に入り、みんなでため息をつくシーンは書いていて楽しかった。

また、竜の唄だけでは意味が伝わりにくいかもという状況も見せておく。

後の体育館での由乃の「娯楽がないなら自分たちで作っちゃえばいいんだよ」も含め、真希に少しずつ気付くきっかけを与えているのだ。

地元に残ると明言する浩介にショックを受けるエリカも、次の話数への伏線だ。

 

巌に申請書についてアドバイスを求めに行く由乃ら。

出し物について突っ込まれ、目が泳ぐ由乃。明らかにノープラン(笑)。

しかし由乃は成長した!ここでとっさに「血まみれサンタ」を持ち出すとは。

しかも真希を制作総指揮に据えるという丸投げドン!

計算しない由乃の言動が、真希という山を動かすきっかけとなるのだ。

 

いよいよ肚を決めた真希。

これまで何事にも醒めた態度だった彼女が、ついに本気を出す。

 

Bパート。

劇団メンバーを掻き集めるシーンだけでも面白くなりそうだが、そこはもうすっ飛ばす。

ちなみに演劇部OGの石川、岡田、三好は先述した美勇伝ネタであるが、エンドクレジットにしか表記がないので誰も気付かないだろう(笑)。

 

一般的に点描で物事を進めるのは昔の刑事ドラマの聞き込みシーン同様、あまり得策ではないと言われている。監督も出来れば避けたいと常々言っているが、ここはちゃんと必然性があると認めてくれた。丁寧に段取りを追う余裕はないし、画としても十分面白いからだ。

屈伸からのウサギ跳びというPAワークスの謎ノルマも達成。

 

ログハウスでの由乃と真希のシーンも力が入った。

「私たちが見てた真希ちゃんって、ほんの一面だったんだな、って思うよ」

「そりゃ挫折して戻ってきたわけだし。一番落ちてる時期だったからね」

 

私にもそんな時期があった。それを思い出しながら真希に重ねて書いていった。

 

「でもやっと肚は決まったよ。どんな仕事してても私は自分の『好き』を貫こう、って。好きなことと関係ないから嫌だ、じゃなくて、仕事でも何でも自分の方から『好き』に寄せていく、っていうか」

 

「根を下ろすとはどういうことか」を鈴原教授から教わった早苗。

真希もここへ来てようやく自分の生き方が定まったようだ。

まだ自分には何もない、と焦る由乃。いや、君だってもう見つけてるんだよ。

 

さて、いよいよ閉校式当日。

ターゲットの漠然としたイベントより、今回は卒業生と関係者という明確な相手がいる。

自分が通った学校が閉じられると聞けば、そりゃ行くよな。

そこから各年度の同窓会に流れ込む動きもあるし。

 

真希の作・演出による『血まみれサンタ』が始まる。

劇中劇はやらないと頑なに決めていた私がやると決めたのだ。それ単体で面白くなければ意味がない。脚本上で出来るベストは尽くしたつもりだ。

わずか3分に満たない劇中劇だが、素晴らしいシーンに仕上がっていた。

コンテも演出もキャストも、照明も音楽も全てが想像以上だった。

カーテンコールでの真希の笑顔。全てを出し切った、活き活きした表情。これこそ、巌がずっと応援してきた娘のあるべき姿なのである。私自身、娘を見ているような感覚で涙した。

 

その後の由乃の演説も堂に入っており、成長の跡が窺える。

ドクのあのギミックは、「閉校」と「開放」の字面が似ているなあと思って閃いたアイディアだ。

 

終わり方もしみじみ余韻があって、限界集落編と並ぶお気に入り回となった。

ニコ生での満足度においても過去最高得点を記録、あの果てしない苦労も報われたというものである。