自分の歩幅で、歩いていく
還暦のお祝いに、家族から「好きなものを買って」と
全国の百貨店で使える商品券をもらっていて、
何を選ぼうか、しばらくの間ずっとあれこれ考えていた。
せっかくなら、一時の気分で終わるものではなく、
これから先も、長く付き合っていけるものがいい。
そう思ったとき、自然と浮かんだのが靴、
そして、どうせなら老舗の百貨店でと、日本橋三越に出かけた。
購入の際には、専用の測定器で足のサイズを測ってくれた。
サイズは、25cm。
僕の “あれ?” という表情を察して
「スニーカーは26cmを履かれますよね」
「実は、私も同じサイズなんです」と、
対応してくれたダンディな風貌の店員さんがすかさずフォロー。
その一言で肩の力が抜けた。
さすが老舗の対応、と言ったところか。
選んだのは、スコッチグレインのプレーントゥ。
メイド・イン・ジャパン。
東京・墨田区の自社工場で、
職人の手によって作られるベンチメイド。
皮の裁断、縫製、吊り込み、仕上げ。
それら全ての工程を、
一人の職人が作業台(ベンチ)に向かい、
責任を持って作り上げる。
実は、付属していたシューキーパーに刻まれた
「BENCH MADE」の文字を見て、
その言葉の意味を僕は初めて知った。
スコッチグレインは1964年創業。
東京オリンピックの年、
日本が前を向いて進み始めた時代に生まれたブランドだった。
僕が生まれる少し前から、
この靴は、変わらず作り続けられてきた。
そう思うと、還暦という節目にこの靴を選んだことが、
どこか不思議な縁のようにも感じられた。
そこには「早く」「大量に」ではなく、
「長く」「きちんと」という時間が流れている。
派手さはない。
でも、手入れをしながら、
時間と一緒に育っていく靴だと思った。
いただいた気持ち、日本の職人の手仕事、
そして、これまで歩いてきた時間を足元にのせて。
ここから先の人生は——
急がず、
立ち止まることも引き受けながら、
自分の歩幅で、歩いていこうと思う。


