二宮正治小説:魔性のもの:広島の物語:新連載:第4回 | 二宮正治文芸コーナー

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由紀子はボーイフレンドの健太とボロボロの戦争中の服を来た女の子との会話を聞いている。
「健ちゃん、お国のために一緒に頑張ろう」
 女の子の言葉に健太は黙ってうなずく。
「うちは今年から女学校の一年生、健ちゃんは中学校の一年生じゃ。広島一中へ行くんじゃろ」
 健太はまた黙ってうなずいた。
片隅で聞いている由紀子は、
「何なのこの女の子、古臭い広島弁をしゃべって。演劇の勉強してるのかなあ」
 由紀子は狐につままれた気分だった。
「健太ちゃん、大人になったら必ずウチをあんたのお嫁さんにしてえね」
 このモンペの女の子の言葉はだんだん熱くなっていく。
「健ちゃん、返事してえや」
 モンペの女の子はますます激しく健太に言い寄ってくる。
由紀子はは怒りに体が震えまくった。