『犬神家の一族』は、横溝正史先生作の小説です。有名な、金田一シリーズです。一番多く映像化された小説ではないか、というくらい映像化されていて、私も何作か観ました。最近になって原作を読みましたが、原作が一番面白かったです。しかも、映像作品では、重要な所が抜けています。
 以下、ネタバレになります。また、作者は意図していないであろう、私の妄想を加えます。

 映像作品では犬神佐兵衛が死んだ後から始まりますが、物語の要は、佐兵衛が子供の頃にあります。何処ぞの者か分からない美少年、佐兵衛(本名かも疑わしい)は、境内で野垂れている所を神官に発見され、その家に保護されます。神官は歳の離れた若い妻を貰っているのですが、この美少年に手を出します。物語では佐兵衛とこの神官は付き合っていて、佐兵衛が神官を利用した様になっています。しかし私には、諦めの様に思えました。美少年だった佐兵衛は、小さい時から嫌な事をされてきたと思います。それからずっと逃げてきて、野垂れ死にそうになっていたのではないかと。そして、神官が手を出してきた時「もういい」と疲れ諦めたのではないかと。そこから、あのおぞましい事件にまで繋がっていくのではないでしょうか。
 また、佐兵衛の子である三姉妹が、佐兵衛の恋人にした事も、映像化されていません。そして、それを長女が語る所も。
 これらは、とても重要な部分だと思いました。
 
 私は、登場人物の容姿や仕草が、あまり説明されていない小説が好きです。理由は、自分で想像したいのと、説明が多いと、作家さんが執筆している風景が頭の中に浮かんでしまうからです。すると、物語に没入できなくなります。私が小説を読む目的は、現実逃避です。だから小説を読む時は、とにかく妄想しています。

 横溝先生の作品は面白くて、同じ金田一シリーズの『悪魔の手毬唄』も、映像化されていいのではないかと思いました(されているかもしれません)。
 この小説の妄想で、いつも仲の良かった幼なじみ同士が言い争うシーンと、犯人の姿が皆に見えてきて(ある人物に目視できるようになってきて)、その時の、ある人物達の表情や反応が伺えるシーンは、圧巻でした!
 
 横溝先生の作品は、妄想をとても掻き立てるものだなと思いました。