それから1週間―。
Xデーは織姫の彦星の逢引きから一夜明けた7月8日。
この7年、常に戻るべき場所だったガレージから最後のリバース・アウト
もうこのクルマでこのガレージに戻ることはないのかと思うと、いつものデュアロジの神経質さや、やや固着気味のブレーキがチンクの無言の抵抗に感じる。
向かう先は、集中豪雨災害で大きな被害を出したばかりの福岡。
幸い実家に大きな実害はなかったが、この日も午後から雨予報ということで、束の間小康状態の間隙を突き、まずは自分がハンドルを握って移動開始
これが最後ということで、今回は珍しく息子も同行し、チンクエチェントの助手席でふんぞり返って二刀流。ちょっとしんみりした気持ちでアクセルを踏む父の隣で、モンスター(ラディアクルスとかいうデカい奴)と激闘を繰り広げる音が派手に鳴り響く。うるせーよ、この野郎・・・
これまで九州に行くたび何度も立ち寄った美東SAもこれが最後。
帰りの足・・・いや、おくりびとの偽ハスラーとの2ショットを記念に1枚パシャ!
・・・・と見せかけ、アングル替えてもう1枚パシャ!
降りて来るなりいきなり自分のクルマの撮影を始めるなんかブロッコリーみたいな頭したオッサンに、近くに止まってた観光バスの車内からシルバニアファミリー(ピレパラアースな老人軍団もそう呼ぶとなんだかカッコいい)から好奇の視線がバシバシ降り注ぐが、そんなことはお構いなし 見ず知らずのじじいが怖くてイタ車なんか乗れはしない(←別にじじいとイタ車は関係ない)
俺のチンクエチェント時間はここでつつがなく終了し、あとはオーナーである奥さんにバトンタッチ。 チンクの哀愁漂う後ろ姿を見ながら走るのは最後の最後でなかなかレアな体験だが、こっちに乗り換えた瞬間あまりのフィーリングのチープさにげんなり・・・・なんだこりゃ・・・ 段差乗り越えるたびに膝カックン状態の足回りにサスが壊れてるのかと思った やっぱチンクは楽しいな・・・今さらやけど
いつもの帰省では遠く感じる九州の入り口も、この日はあっという間。
なんかチンクの中で2つの人影が桃色サンゴのように右へ左へと揺れている・・・と思ったら、母子して「おら東京さ行くだ」を熱唱していたらしい。別れの旅路のBGMが吉幾三とは・・・ 息子が死んだひい爺さんの生まれ変わりだという説はどうも真実くさい
九州道に入るともうカウントダウンこんな機会はもうないのでチンクの走る雄姿をいろんな角度から目に焼き付ける。 トイレ我慢中のおっさんが1人モジモジしてるこちらと違い母子で楽しそうなあちらさん。ちょうど車の流れがなくなったタイミングで安全には十分気を付けていたつもりだったが、思わず羨ましげに見入ってしまいややスピードが落ちていたのか、6時の方向からワイルドスピードで一気に肉薄して来たゴルフの運ちゃんに追い抜きざまめっちゃ睨まれたやめれー!ガチャピンみたいな顔してコッチ見んなやー!
もうこうなったら完全にチンク思い出アルバム。手前味噌だが、やはり嫁さんのカスタムは俺好み これ見よがしなアバルトも迫力あるが、敢えてFIATを程よくイジるところに羊の皮を被った的な良さがあ……やばい、今度は〝おベンツ〝来た… これは避けな撃たれる…福岡やし…
最後のピットストップは基山SA。雨予報はどこへやら…上空には久しぶりの青空も覗き車外は蒸し風呂状態だが、ここでも当然アラーキーIRAS クルマは斜め視点が一番カッコいいと言うが、↑のサイドビューはまたプロにお願いしてイラストで残したいくらいお気に入りの一枚 でも、そんな金はな…… まてよ…そういや、親類縁者に恵まれ過ぎてお年玉の使い道がない奴がどっかにいたような…
基山をリスタートして、そんな悪だくみをしてる間に、気がつけばついに目的地カーショップトリミさんに到着 愛着ある家族とも言えるクルマだけに、一般の買取会社ではなくずっとお世話になって来たトリミさんにお願いして大事に乗って頂ける方を探して頂くことに。(CMに踊らされて某B◯Gモーターに査定依頼したけど、「輸入車は売りにくい」と言われクルマへの愛情や大切な思い出を軽く扱われたので、心の中でバイキンマンの如く星になるほど遠くまでぶっ飛ばしたのはここだけの話…)
初来店以来7年間で初めて、いつものテーブルで社長と委託販売契約など真面目なお話をする。売却の金額もさることながら、やはりチンクエチェントというクルマを好きで乗ってもらえる人にバトンタッチしたいので、あとは信頼する社長にお任せするのみ…
「買い手なくてまた自分で買ってたりしてね」(←冗談)
「うん、そのつもりよ?もしずっと売れなかったら金貯めて買い戻す」(by いたって真剣な嫁)
そうなんですか!?
いや、ダメ元で言ってみるもんである。
…え?そもそもなんで手放すのかって?
そんなん決まってるじゃないですか 今後いろいろと要り用になって経済的に維持出来ないからですよ 通勤用アテンザも次の車検は通さず廃車予定で……へ?それなのになんで買い戻せるんだって? そんなん俺に訊かれたって知りませんよ!たぶん死んだ爺ちゃんが3億円事件の犯人だったんじゃないすかね…
金は天下の回りもの。
いつ何が起こるか分からないこの世の中、町内草刈りのお知らせ回覧板の次にウチに回って来るのが帯封付きの聖徳太子である可能性も…まあ確かにゼロではない。
そんなしょーもない妄想はともかく、長居すると益々名残惜しくなるばかりなので、意を決して重い腰を上げ、家族4人で最後のスナップ。
これでホントにさよなら。
我が家の過去と現在を繋ぐトリコロールラインはまた新しい未来へ。
ありがとう、チンクエチェント。
俺たちはまたきっと会え……
「ねー最後の1枚がこがん背景でよかと?」
(ちょうど来店されていたジュリアスーパー乗りのKさん)
いや、まあ……はい、大丈夫です
これもまたウチらしくていい思い出だ。
チンクと我が家がともに走り抜けた距離は68784キロ。一目惚れでディーラーに駆け込み拇印で即決購入したあの日から、九州から近畿、東海、北陸、中部まで、小さなボディに我が家を乗せてホントにいろんなところに運んでくれた。
このクルマが我が家に、そして俺の人生に与えてくれた輝きは計り知れず、駆け抜けた距離と時間はこの先も決して色褪せる事のない宝物
改めて思う。
世界には、こんなクルマが存在するんだな
結局この日、梅雨前線が停滞する最中にもかかわらず涙雨はなく、実家の両親が豪雨災害どころか元気一杯(父は息子の嫁の前をパンツ一丁で行ったり来たり母は松居一代ばりのテンションでそんな父に対する愚痴を吐き倒し)なのを確認して、そのまま広島にトンボ帰り
無事に、運命のXデーを走り終えたのだが…
やっぱり主のいない部屋は寂しいね…
またいつか、我が家にチンクエチェントの想いを継ぐ新たな家族を迎える時が来ることを信じ、その時までこの部屋はこのまま…
THANK YOU 500
GOOD BYE CINQUECENT
君に出逢えて本当によかった。
それから5日後…
整備・清掃を終えて、我が家を巣立ったチンクがトリミさんの店頭に並び、家族を手放す原因を作ってしまった俺が人生初の手術のため病院に入院したその日…
偶然お店の前を通りかかったと言う方が、一目惚れして即決で購入することで話がまとまったと社長から連絡早っ!
買い戻すどころか、まさかの即売
あのクルマを偶然見かけ一目惚れで手に入れたのが運命なら、今また別の誰かに一目で見初められたのもまた新たなる運命の始まりなのかもしれない。
これからも、いい旅を。
新たなオーナーさんと歩む日々が、楽しく幸せな時間でありますように…
そしてきっと…
いつの日か、また会おう。