「最近フィルムカメラにハマってて全然使ってないから、もしよかったらいかがですか?」

先日、仕事で付き合いのある若い子から思いもかけずライカDを超破格で手に入れた。

しかも、いざ譲ってもらってみれば、ライカカメラ100周年を記念してライカSに続いて発売されたばかりの全世界5000台限定メモリアルの未使用フルキット。ライカと言えばM型が有名だが、まだまだ大した腕もないアラフォーおやじのライカデビューとしては身に余る一機だ。漆黒のボディに浮かぶ真紅に白抜きのロゴと、レンズに刻まれた”SUMMILUX”の文字。仕事では、年齢性別関係なく常に太鼓持ち対応するスタイルが意外な幸運を運んで来た。


そんな特別な一品を手に入れると、ついその筆おろしもメモリアルにキメたくなるのが庶民の性。

というわけで、カメラにもクルマにも造詣の深い知人のT氏にライカデビューを飾るロングツーリング企画を持ちかけ、妻と3人、梅雨明けと同時にFIAT500で大人の(?)旅に出た。


DAY-1 JULY 25

厚い雲の向こうで出番を待ちわびていた盛夏の朝日を真正面に受け、ボサノバホワイトの小さな体を輝かせたイタリアンコンパクトが走り出したのはAM8:00。ステアリングを握るのは1stドライバー(大奥様)。

五日市ICから山陽道に乗り東に向かうルートは我が家にとってはもはやお馴染みのホームロードで、ナビシートのT氏(物理的な理由によりリアシートには座れない)とのトークも軽快に弾む。


途中、小谷SAで朝食を取り、280キロ先の三木SAまでが第1レグ。「大阪なんて、恐くて私絶対運転できない!」 と訴える大奥様からステアリングを引き継ぎ選手交代。今や、クルマ経験値は不肖の旦那を遥かに凌ぐ彼女がドライブできないステージなどパリ ~ ダ・カール間くらいしか思いつかないが、後部座席の怠惰なゆりかごタイムから解放されホッと一息。やはりクルマは運転してナンボだ。


宝塚ICから県道42号を南下し、尼崎で阪神高速5号湾岸線に合流して天保山出口へ。

今回のサマードライブ最初の目的地は、個人的にどうしても行きたかった大阪・港区海岸通にある「GLIONE MUSEUM」。関西圏を中心に輸入車販売などを手掛けるG LIONグループが100年近い歴史をもつ築港の赤レンガ倉庫群をリノベーション。クラシック&ビンテージカーミュージアムに本格的な高級ステーキハウスやカフェを併設して今夏OPENしたばかりの大人の愉悦場だ


交通量の少ない港湾道路から敷地内に乗り入れると、灼熱の陽射しの下でもビシッと黒服で決めたスタッフがお出迎え。ここが俗世間との境界線で、案内されるままクルマを進めるとそこには往時のニューヨークの裏路地もかくやと言うほどのタイムスリップ空間が広がる。 (往時も現在もNYなんて近寄ったこともないのだが)




赤レンガ作りの倉庫群に挟まれたレンガ敷きのストリートの両サイドに戦前・戦中のロールスロイスやキャディラック、ハドソンなどが並び、白銀に輝くフライング・ゴッデス。残念ながら撮影はNGだったが、倉庫内のミュージアムにはジャガーEタイプ、ロータス・ヨーロッパS2、シトロエンSM、オースチン・ヒーレー・スプライトMkⅡから歴代のシボレーコルベット、T型フォード、ハドソン・ホーネット、果てにはコスモスポーツ、べレット1600GTR、ギャランGTO-GSR、ダットサン・フェアレディ、コンパーノ・ベルリーナ、コンテッサ1300Sまで欧・米・日の往年の名車がズラリと揃い、そのどれもが動態保存(!)の販売車両というから2重に驚かされる。



個人的に一番欲しかったのは、シルバーのトヨタ・スポーツ800。レストア済で400万近いプライスタグが付いていたため当然手は出なかったが、もしカラーが赤だったらダメ元で見積りだけお願いしてたかも・・・。実は、最近秘かに"ヨタハチ"がアツい。ただ、ここ数年は総じてビンテージカーの相場が上昇しており、実はこの直後、自宅近くのショップにフルレストアの極上物件が入荷されたと連絡があり 「これはもう運命だ!」と小躍りしたのだが、レクサスのミドルクラスが新車で買えるレベル価格の前に轟沈。当然のことながら、その1台はあっという間に経済的余力のある誰かの手に渡った。ああ無念、“縁”はあっても“円”がない・・・おあとがよろしいようで。(ちなみにお目当ての女暴小町レッド(メカドッグ世代にとって800といえばこのイメージ)は1/43スケールでさえも絶版の超入手困難品となっており、方々当たるも在庫なし。齢40、ついにミニカーとの距離も開いて来た。)


先述の通り、メインストリートの一角にはカフェとステーキハウスが軒を連ねるが、あいにくとステーキハウスはまだ開店前の時間帯だったため、お向かいの「G LION CAFE 1923」でブレンド一服。ただ、ステーキハウスはハワイの名門「HY's STEAK HOUSE」の姉妹店というから、庶民が牛角気分で入っていい店ではなさそうだ。実際のメニューや店の雰囲気、気になる価格帯は
HP をご覧になって頂きたいが、大阪・天保山方面に奥様や愛人と出かけた際に、覚悟を決めてちょっとカッコつけたい時には、これほどうってつけのスポットはないだろう。




これだけのロケーションだけに、この倉庫群ではクラシックカーイベントやスーパーカー・ミーティングなども盛んに催されているようで、その際には日頃静かな港湾地区の一般道が夢の国に一変するとか。例えその野次馬でも、クルマ好きにとっては某ねずみの国の電飾パレードなんかより遥かに魅力的な時間を過ごせるに違いない。 いつかは、自慢の愛車でこのストリートに乗り付け、豪華なステーキディナーに舌鼓を打ちながらドンペリ片手にいろんなオーナーさんとクルマ談議に花を咲かせてみたいものだが・・・大丈夫。自分には国産大衆車といろはすスパークリングくらいがお似合いなことは、誰よりもよく分かっている。




しばし夢の国でアル・カポネ気分を味わったあとは、再び大人旅再開。
メリケンパークから神戸ハーバーランド界隈の懐かしい景色を左に見ながら、天頂を越えて加速度的に西の稜線を目ざすお日様と競うように阪神高速3号神戸線、神戸淡路鳴門自動車道へと舵を切る。
(途中、バッテリー膨張により破裂寸前となった奥様のスマホを、見知らぬ街で慌てて機種変するという予想外のアクシデントもあったが)

目指すは四国・香川県高松市。
学生時代から何度か四国を訪れる機会はあったが、基本北側からのアクセスが多く実は鳴門海峡大橋はこれが初体験。「ああっ!トラス、素敵っ!」 後部座席でトラスガールが喜声を上げる。日頃からことあるごとに、自分は平均的な女子とアピールする奥様だが、俺の知る限り普通の女の子はトラス構造体など知らないし、萌えない。


ちょっとした心境の変化から、購入以来ずっとそんな奥様御料車となっていたFIAT500を 「じっくり味わってみよう」 と勝手に乗り始めたのはつい最近のこと。まだまだクルマとの人馬一体感を深めるのはこれからだが、納車時のインプレで感じた腰高な感触はここ数年の奥さんのチューニングにより大幅に改善され、インチアップしワイドトレッド&ローダウン化された硬質の足はこちらの操舵にクイックに反応し思いの外ドライブしていて楽しい。


レムスマフラーが響かせる狼の咆哮も決して品格を失わない演出でドライバーをその気にさせるには必要十分。最初で最後(?)の愛車となったNBロードスターとはまた一味も二味も違った乗り味ながら、尾てい骨から伝わる“機械が機械として作動している”アナログな入力(シフトこそ電子化されているが)が乗り手に確かな安心感を与えてくれる。なるほど、うちの奥様が再三 「楽しい!」と称賛していた走りがこれか!と思わず納得。先日、仕事で日欧のコンパクトSUVを乗り比べる企画があったのだが、某ホンダの某ハイブリッドSUVのドライビングフィールの違和感には正直心底辟易した。この業界に身を置くものとしては大きな声では言えないが、昨今流行りのハイブリッドやEVでは到底このクルマに”乗せられる”のではく”乗りこなす”前楽しさは味わえない。まあ、自動運転なんて技術を諸手を挙げて嬉々として受け入れる人々とって、そんな前時代的喜びなど理解不能な御託に過ぎないのだろうが。人は進化の陰で退化する生き物だ。


DAY-2 JULY 26




高松市内中心部の安宿で一泊して、復路のスタートは栗林公園から。
駐車場脇の物産店で職場や親類への土産を買い込み、朝一から容赦ないパワーで照りつける日射を避けて
木陰で御当地アイスを一服。時間の都合で噂に名高い公園内まで散策する時間はなかったが、それは次回の楽しみにとっておくことにする。別に、100m歩いただけで熱中症になりかけうんざりしたわけではない。




そして、約10年ぶりに訪れる 「北浜アリー」。
前日のGライオンミュージアム同様、古き良き港湾倉庫施設をリノベーションした一角には飲食店や雑貨店を中心に様々なショップが軒を連ね、瀬戸内を望む路地裏に一種矛盾したネオ・アンティークな空間を創り出す。”アリー” とは、まさに”路地裏”の意。郷愁の中に新たな何かを発見できる、そんなスポットだ。



古びた倉庫の2F、狭い階段を昇った先にあるカフェ「Umie」 で一休み。01年のオープン以来、多くのアーティストのライブステージとしても親しまれている店内は、アンティークなテーブル&チェアが贅沢にレイアウトされた男前かつハイセンスなスペース。ストレスフルな毎日も、週末のひとときホッと一息つけるこんな場所は最高のオアシス。社会に出て14,5年経ち、仕事にやりがいも見出せず、プライベートでも夢と現実のGAPに人生の行く末が見えた気になってるもうすぐ40歳に手が届きそうな会社員・・・もしそんな奴がいたら、「いつかはこんな店をやりたい」 と思わずにはいられないだろう。




書棚に収められた年代モノの洋書を眺めながら味わうUmieブレンドの芳醇な香りが、流れる時間を一層価値あるものに高め、そっと目を閉じればボサノバのリズムの向こうに穏やかな瀬戸内の潮騒、そしてふと目を開ければ軋むソファに横たわるテッド!?・・・いや、レモンスカッシュの撮影アングルに命をかけるT氏。初来店のエリート企業戦士がこれだけリラックスできる店は、そうはない。(これだけリラックスできる奴もそうはいないが)


今回、四国のアンティーク店を開拓するのも旅の目的のひとつだったが、あいにくこの日、近場のショップはどこも店休日でタイムアップ。それでも、これだけは絶対外せない香川の県民食。四国を離れる直前、坂出ICすぐ近くの港湾地区内にある 「讃岐うどん よいち」 の暖簾をくぐる。


この店のウリは、ご当地小麦粉”さぬきの夢2000”の風味豊かな黒うどん。迷わず冷やしぶっかけうどんをオーダーする俺の前で、「かけうどんと、出汁巻き玉子天3つと、とんかつと、天ぷら盛り合わせと、おにぎり」 と般若心経の如く朗読するのはT氏。普通に考えれば、もはやうどん屋の注文風景とは思えないが、氏のガソリンタンク容量はFIAT500と違いアメ車級。その全ては見事にT氏の胃に収まった。まあ、目の前で繰り広げられる衝撃映像LIVEのおかげで、こちらは黒うどんの風味の味わう余裕など全くなかったが。



PM2時20分

四国に別れを告げ、瀬戸裕王自動車道を北へ。一般に呼ばれる瀬戸大橋との呼称は、実は香川と岡山を結ぶ10本の橋の総称であり本州四国連絡橋のひとつらしいが、そんなウンチクも吹っ飛ぶほど、相変わらずこの橋のスケールは桁違い。この道を走る度に、日本の建設技術のレベルの高さを実感せずにはいられない。こんなもん、一体どうやって作るんだ?



うどん屋を出発してわずか15分。当然腹は満腹、疲労感もなければトイレに行きたくもないが、与島SAでの休憩はもはやお約束で、広大な駐車スペースの片隅にクルマを停めて、旅の最後に記念写真。( ただ、来るたびに同じような位置で同じようなアングルで同じような写真を撮るが、夜間照明の柱が立つこの位置だけは頂けない。) 土曜朝に広島を出て740km、1泊2日の気ままなクルージングドライブ。高速でも一般道でも、FIAT500 1.4 SPORT のフィーリングは上々で、大の大人3人を乗せても十分なトルク感と自分好みのやや重めのハンドリングは今更ながらの再発見。オーナーが多忙で乗る時間もないことから一時は売却の話もチラホラ出ていたが、我が家に新たな世界を見せてくれたこのクルマとの時間は、まだしばらくの間続きそうだ。このクルマは面白い。




そして、もう一つの主役、LEICA D LUX-6 Edition100。

今回は初撮りということで、絞りもシャッタースピードもアスペクト比も全ておまかせのデフォルトモード。しかも全てモノクロでの撮影だったが、どんな光のシチュエーションでも実に良い色合いで表現してくれる。ピントの甘さや濃淡のバランスの悪さはオーナーの腕の悪さで、まだ改善の余地あり。(と思いたい)


コンパクトながら開放F1.4という大口径レンズを持つD-LUX6。今はまだ宝の持ち腐れだが、これを機にひとつひとつ勉強を重ねてマニュアル操作で自在に好みの描写ができるようになることが目下のゴール。ライカひとつを胸にぶら下げ、ちょいとスパルタンなイタ車で被写体を探す旅に出る ― なんともカッコいい大人の休日じゃないか!


そんなイメージを脳裏に描きながら、今回最後の1枚は、G LION MUSEUMで手に入れたキュートなイタリア産のタイと、Porsche 356A Speedster のデュエットで。

とっても価値のある、いい2日間だった。



Special Thanks to TSUKAJI.




(上2枚:撮影 IRAS YOME BY OLYMPUS PEN DIGITAL)