決算短信の見直し(サマリー自由化等) | IR担当者のつぶやき

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上場企業に勤務する公認会計士の、IR担当者として、また、一個人投資家としての私的な「つぶやき」です。

ときどきIR担当者的株式投資の視点も。

2017年2月10日、東証から決算短信・四半期決算短信の作成要領等の見直しが発表されました。要点は、以下のとおり。

 

■東証 決算短信作成要領・四半期決算短信作成要領

 http://www.jpx.co.jp/equities/listed-co/format/summary/

 

1.決算短信の「サマリー情報」の様式・記載事項の見直し

 ・サマリー情報(決算短信の1~2枚目の表がたくさんついているページです)の使用強制 → 参考様式と位置付けて、使用を「要請」する。

 

2.速報性に着目した記載事項の整理

 ・決算短信等(この「等」は四半期決算短信を指します)で記載を要請する事項は、原則として、速報性が求められる情報のみとする。具体的には、次のとおり。

 決算短信・・・「サマリー情報」、「経営成績等の概況」、「連結財務諸表及び主な注記」

 四半期決算短信・・・「サマリー情報」、「四半期連結財務諸表及び主な注記」

・本表(連結財務諸表や四半期連結財務諸表)及び主な注記の開示時期

 →本表はサマリー情報と同時開示を要請するが、「サマリー情報」、「経営成績等の概況」を先行して開示することも可能(投資判断を誤らせるおそれのない場合に、決算短信等の開示を早期化するため)

 →準備が整い次第直ちに「連結財務諸表及び主な注記」、「四半期連結財務諸表及び主な注記」を開示する(つまり、先行開示には財務諸表本表の添付がない)。

 →この場合、先行開示の「サマリー情報」、「経営成績等の概況」に、『企業の状態を適切に理解するために有用な数値情報など、投資者が必要とする財務情報』について開示することが要請されている。

・現在、記載を要請している「経営方針」や「投資判断に有用な追加情報」など、必ずしも速報性が求められない情報については、記載の要請を取りやめる。

 →これらは、従来言われているように、有価証券報告書に記載されることになると思われます(「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」

 

■金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案の公表について

 http://www.fsa.go.jp/news/28/sonota/20161108-2.html#bessi1-2

 

3.監査及び四半期レビューが不要であることの明確化

 決算情報の開示は、上場規則においては、「決算の内容が定まった場合」に直ちにその内容を開示することを求められているのであって、監査や四半期レビューの手続きの終了は開示の要件になっていません。

 しかし、会社法監査の終了後に決算短信を開示している会社が全上場企業の約4割、四半期レビュー終了後だと約1割あると言われています。そのため、監査の終了を待たずに、「決算の内容が定まった」と判断した時点での早期の開示を行うことが要請されています。

 

4.業績予想について多様かつ柔軟な開示が可能であることの明確化

 従前より、業績予想については多様・柔軟な開示を認めてきたが、2017.1.27の「第4回 未来投資会議」で安倍首相から「過度に短期的、投機的取引に陥ることなく、中長期的な企業価値の向上を後押しする観点から、四半期報告を含め、企業情報開示の在り方を見直し、投資家が真に求める情報が効率的・効果的に開示されるように」する方針が示されたため、多様化が進む実際の記載例をできるだけ多く例示することで、多様かつ柔軟な開示が可能なことを明確にする。

 

5.実施時期

2017年3月末日以後に終了する連結会計年度 又は 四半期連結累計期間の

決算 又は 四半期決算に係る

決算短信 又は 四半期決算短信 から適用(早期適用なし)

→要するに、3月決算企業だと、この2017年3月期決算から適用

 (3月末日決算以外だと2018年3月期決算から適用、としていますので、3/20決算といった会社は来年まで持ち越しとなる模様です。)

 

(決算短信見直しの趣旨)

もともと金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループの報告で、「会社法、金融商品取引法、上場規則に基づく3つの制度開示(事業報告書・有価証券報告書・決算短信)について、開示の自由度を高めて、全体としてより適時に、よりわかりやすく、より効果的・効率的にすることで、建設的な対話を促進する」との提言がなされていたことに対応するものです。

 

■2017.10.28 パブリックコメント「決算短信・四半期決算短信の様式に関する自由度の向上について」

 http://www.jpx.co.jp/rules-participants/public-comment/detail/d1/20161028-01.html

 

(私のツッコミ)

・よくわからないのは、「サマリー情報」の使用を強制しないのに、おそらくは従来「サマリー情報」をTDnet上で上場企業担当者に入力させ、XBRL情報を生成するとともにPDFを作成・登録させていた実務を踏襲するのかどうか、という点です。

 上場企業宛に流れた通知文では、TDnetの仕様変更は2/26を予定(新様式は3/31から適用)しており、一部画面や操作性の確認ができる、としていますが、どのような仕様変更であるかは、通知文に添付されていませんでした。もちろん、本記事冒頭で示した東証サイトで一般から見ることのできるところにも置いてありません。

これはヒドイんじゃないの!?

 

上場企業実務担当者に余計な手間をかけさせているんだから、入力仕様がどうなるか位、同時に開示するべきなのでは?(一部の上場企業にはヒアリング等しているでしょうから、若干知っている方もいるかもしれません)

 

・決算短信の要領としては「サマリー情報」と入っていますが、企業がサマリーを付けない場合、どんな情報が冒頭にくるんでしょう?

ヘッダー情報(企業名、証券コード、社長氏名、問合せ先とかの最低限の情報)の次は、業績関係の表がまったくなく、2ページ目の注意事項までジャンプしてしまうのかな(笑)

まぁ、そんな企業はないと思いますが、TDnetの入力仕様上、「サマリー情報」がどこまで省略できるのか見ものです。

ですが、そんな究極まで切り詰めた「サマリー情報」を公表しようとしたら、裏で東証の担当者に「ホントにこれで公表するんですかぁムカムカと止められそうですよね。

 

・最初に本表を付けずに決算発表して、後から本表を開示する場合、どんな仕様で公表することになるのか?

TDnetにそれ用の公開項目(画面上はチェックボックスになっていて、情報ベンダー等にデータが流れる際のフラグみたいなものです)を新規設定しないと、何の情報がTDnetに流れたのか分かりません。

また、財務諸表だけぽつんとPDFになっていても、いつ発表の、どの会社のものか分かりませんから、何かヘッダーを自動生成するとか(EDINETみたいに)、何かの追加的な情報がないと、画面でPDFを見たとしても意味不明です。その辺の仕様はどうなっているのか?また改めて、どうせ企業側に本表につけるヘッダー情報を別途作れとか、言うんでしょうね。

 

・TDnetのサマリー入力で、業績予想の欄はどのように入力するのか?

上記のURLから東証の新しい決算短信作成要領を見てみると、P.28にサマリーの様式例が掲載されていますが、従来の業績予想の欄は「ここには投資者が通期業績を見通す際に有用と思われる情報をご記載ください。」としか書かれておらず、まったくの空欄です。

従前、売上高しか開示していない会社もありますし、業績予想が不可能ということで出していない会社もあるにはありますから、自由でいいのかもしれませんが、基本スタンスは投資家やアナリストからの一部要望があるように、従来通りの業績予想ボックスを求める、というのが原則でよかったのではないかと個人的には思います。

だいたい、こういうのを自由化すると、IR担当者は投資家やアナリストから聞かれるのでないと答えづらいのですが、経営者は公表しなくていいなら(コミットと取られるとイヤなので)公表しないほうを採りたいと思うことが多いと思います。

フェア・ディスクロージャーなど最近うるさいですから、短信で通期予想を公表していないものを、IR担当者が手元の予算を見ながら答えてしまうわけにはいかないし、なんとなく想像できるようなガイダンスを示すわけにもいかない。

投資家・アナリストのほうも、聞けないけど勝手に予想するから、予想がばらけて、カバレッジの少ない中小型株ほど予想に幅が生じ、株価のボラティリティが大きくなるのでは?

つまり、そのような形での不利益は、業績予想を進んで開示しない自らに跳ね返ってくるということですから、企業のIR担当者のみなさんは、ぜひ業績予想を開示しましょう!と経営陣と戦ってほしいものです。