三菱UFJ信託銀行さんのセミナーで、東京証券取引所の方から、いわゆるプロ向け市場とか、東京版AIMとかといわれている新市場創設についてのお話を聞く機会がありました。
プロ向け市場というのは、金融商品取引法の改正(6月に成立、12/12に施行)により開設が認められることになった、世界でもほとんど例のない市場なのだそうです。
ここでいうプロというのは、「特定投資家」といいまして、次の方々を指します。
・(適格)機関投資家
・上場会社
・資本金5億円以上の株式会社
・それ以外の法人・・・小規模な法人であっても、証券会社に申し出て承諾を受ければ、プロとしての特定投資家になれる
・個人・・・純資産額および金融資産3億円以上かつ取引経験1年以上の、いわゆる富裕層
へぇ~、結局、どんなに小規模でも(証券会社さえOKしてくれれば)特定投資家=プロになれるんだ
私たち会計士のような職業専門家だと、組織、例えば監査法人勤務であっても、個人で仕事受けるときなどのために個人事務所を設立していたり、形だけでも株式会社を設立していたりしています。
ですので、もし希望があれば、おそらく特定投資家になれる可能性は高いような気がします。
(ただし、監査法人勤務の方は、株式取引が厳しく規制されていると思うので、事業会社勤務か、独立されている方くらいかもしれませんね。)
もちろん、独立開業されている方は個人としての資格で申請されてもいいのでしょうけれど、私は、金融資産3億円なんてございませーん
現状、こうしたプロ投資家に対しては、金商法で義務付けられている説明義務が緩和されるだけなので、あまりメリットはないのだそうです。
しかし、今般、東証が創設しようとしている東京版AIMと組み合わせて考えてみると、プロ向け市場としての魅力が俄然、際立ってきます。
で、東京版AIMですが・・・。
AIMというのは、Alternative Investment Marketの略なのだそうで、日本風にいうと「代替/新型投資市場」とでも略すのかもしれませんが、金融業界ではそのままAIMで通っているようです。
AIMはロンドン証券取引所(LSE:London Stock Exchange)が運営している、いわば未公開銘柄市場とでもいうべき特色ある市場で、1995年の創設以来、最初はあまり飛躍しなかったようなのですが、2000年頃以降、欧州経済が上向き、資源銘柄の企業の業績が堅調なことなどから、徐々に銘柄数が増え、それが多くの企業をひきつけ・・・と良い循環になっていったとされています。
もちろん、一部の日本企業に知られているように、上場に際して、米国のようなSOX法、日本でいうJ-SOXなど、いわゆる内部統制報告制度がなく、上場のコスト・スピードなどにおいて企業にとってメリットが感じられるということも、銘柄を増やした理由だと言われているようです。
このAIM市場、特徴としては、Nomad制度というのを採用しています。
Nomad(ノーマッド:Nominated Adviser)というのは、日本語訳では「指定アドバイザー」とされていまして、日本でいう主幹事証券のようなものですが、その責任はもっと重く、Nomadが降りてしまうとその銘柄は上場廃止になってしまうのだそうです(もちろん他のNomadにくら替えすることも可能)。
Nomadは、市場から厳しく厳選された証券会社などからなり、上場企業の実質的な上場審査を行ったり、継続的に情報開示を行える体制を確保するために、あれこれアドバイスすることが仕事になります。
何だか、昔の(今もそうかな?)JASDAQ市場に上場する際の主幹事証券会社のようなイメージを持ちました。
日本の場合の主幹事というのは、まぁそれに縛られるわけではなく、働きが悪ければ主幹事証券を変えます、というのはそう珍しいことではなく、しかも、いったん上場してしまえば、対市場や対投資家の局面で、主幹事を変えたからどうこう、ということはほとんどないと思います。
(上場審査の過程で、主幹事や監査法人を変えたりすると、さんざん突っ込まれますけどね。)
そんなわけで、AIM市場では、市場参加者が、AIMを中心として、Nomad、上場企業、監査法人など、一体となったコミュニティのような状況を作り出しているといいます。
また、もう1つの特徴としては、AIM市場では、上場時(プライマリー)の資金調達もさることながら、セカンダリー以降の資金調達が活発なのだそうです。
■東証 東証とロンドン証取の成長企業向け新市場の制度概要試案とりまとめ(2008/07/29)
http://www.tse.or.jp/news/200807/080729_b.html
これは、プロの厳しい目で見て最初の資金調達は少なくても、Buy & Hold で長い目で見て、企業の成長に対して投資している結果、上場後に知名度が上がったり、業績の裏付けが確認できたりして、セカンダリーの資金調達が円滑に進んでいるということが理由のようです。
そんなことから、東証とLSEが日本においてAIMを参考にした新市場創設に取り組むこととなり、以前にも新聞等で紹介されていたと思います。
今日、東証の方のお話を聞くと、東証51%、LSE49%で合弁の新会社を作って市場運営にあたるようで、2009年1月にも新市場の規則を作ってパブリックコメントに付し、固まるのをまって金融庁に免許申請、承認を経て3月末か4月にはスタートさせたいとの意気込みでした。
さて、この東京版AIM、何がすごいかというと・・・。
・上場審査がない(というと誤解を招くかもしれませんが、利益基準や最低時価総額などの基準は定めず、J-Nomadが判断する→実質的な上場審査はJ-Nomadが担当する)
・開示言語・・・英語または日本語
・会計基準・・・日本基準、米国基準、国際会計基準どれでもよい
・監査報告書・・・1期以上あれば可
・内部統制報告書・・・任意 (なくてもOK)
・四半期開示・・・任意 (なくてもOK)
・株主数基準・・・なし
ね、ね、すごいでしょ
私たち、会計畑の人間からすると、国際会計基準とのコンバージェンスだかアダプションだかの話は2011年かぁ・・・と思っていましたが、と、とんでもない
ヘタすりゃ、もう来年、2009年から という話になってます。こりゃビックリ。
実際、日本よりも欧州でのビジネス上のシェアなりレピュテーションが高く、ロンドンAIMへの上場を真剣に考えている日本企業も多いとのことで、そうした企業が、日本にいながらAIMのメリットが受けられるなら、と魅力的に考えてくれるケースもあるのだそう。
ただ、私たち日本の会計人にとっては、たいへんなことになるかもしれません。
というのも、(窓口は日本の大手監査法人になるかもしれませんが)欧州の監査法人に頼んだほうが、コストも安いし、国際会計基準での監査手続に慣れているのでスピードも早い?ということで、日本の監査法人をスキップされる可能性も大いにあります。
そんなことになったら、日本の会計士としては、面白そうな企業と面白そうな仕事が、グローバルな監査法人に持って行かれてしまい、ガチガチ日本基準な会社の監査だけが残ってしまうかも・・・
こりゃぁ、国際会計基準の勉強のスピードを早めなくちゃ・・・
しかも、企業にとって、内部統制報告や四半期開示がなくてもOKってのは、非常にディスクロージャーの負担が軽くて済みます。
(もちろん、企業内の何らかの形での内部統制がまったくなくて良いわけではありませんし、株価形成やIRの面から考えたら、取引所の方も言っていましたが、四半期開示はやったほうがよいのはいうまでもありません。)
ただし、現在、財務局に有価証券届出書を出して、四半期報告書を出して、有価証券報告書を出して・・・とやっている発行市場開示~流通市場開示の手続が、かなりざっくり省略されるイメージです。
東京版AIM市場には、(多少簡略化される見通しの)有報と半報を(TDNet経由で)提出すれば最低限OKという形にしたいという構想だそうです。
もちろん、規制が緩いからって、スネにキズがありそうな、あるいは、不祥事を起こしそうな企業ばかり集まってきてしまっては困ります。
そこで、新市場では、財務局へのディスクロはなくても、虚偽記載やインサイダー取引規制、大量保有報告制度やTOB制度などについての規制は、従来市場と同様に適用されるとのことです。
これにより、市場の公正性の確保を目指しているようです。
それから、株主数基準について。
株主数基準がないということは、極端な話、株主1人でもよい(という例を東証の方が出してました)。
まぁそれは行き過ぎとしても、非常に少ない株主数で、J-Nomadになる証券会社がプライマリーで商売にならなくても、市場になじませて知名度を上げ、将来セカンダリーで大きく資金調達するときに引受手数料を稼がしてもらえばよい、と考えればそれもOK。
あるいは、VCが入っていて追加出資を仰ぎたいが、ちょっと厳しそう・・・というときに、東京版AIMに上場して、他の機関投資家等から資金調達をすることもできるかも。
これは私の夢想ですが、VCが入っているときに東京版AIMに出て行ってしまうと、(既存市場への)本格的な上場とは行かないまでも、一応、市場で値がつくわけですから、IPOプロセスの途中で株価に時価がついてしまうイメージので、VCさんにとっては、本来狙っていた額より低いが、このあたりでExitしてしまおうか、ということも考えられるのかな とも思われました。
とーってもお寒い状況の2008年のIPOマーケット(確か、49社でしたっけ)。
2009年は、この東京版AIMが無事にテイクオフして、IPOマーケットの起爆剤になるのでしょうか
東証の方が言っていましたが、プロ向け市場なので(富裕層個人の方が入れるとはいっても)、バリュエーションは厳しくスタートするでしょう、ということでしたので、以前にもあった公募価格の何十倍もの値段がつく、というお祭り騒ぎのようなことはないと思ったほうがよいようです。
その分、流動性のない市場ですから、機関投資家がこれと見込んで大量に仕込むと必然、売れなくなりますから(売ると自分で値をこわすことになります)、基本はBuy & Hold
なかば、荒らしのような個人投資家さんは入って来れないパラダイスが実現するかもしれません(笑)
あるいは、企業のIR担当者にとっては、とーっても友好的な株主さんに囲まれて、非常にやりやすい市場になるかもしれません
あとは、年金基金などがポートフォリオを組む際に、アセットアロケーションとして認めてくれるかどうかかな。
一応、日本株の中に入るものとして認めてくれれば、そこそこの資金が入ってくるような気もするんですが・・・。
いずれにしても、東京版AIM、これからの注目度は非常に高いと思いますよ~。
本日の資料ではありませんが、東証のHPにこういう資料があります。
■新市場制度概要試案
http://www.tse.or.jp/rules/newmarket/marketframework.pdf
まだ今後もセミナーがあるようですので、足を運んで、じかにお話を聞いてみることをぜひお勧めします。
私がブログで勝手にレポートしたからって、聞いたことの半分も書けていないと思いますし、たっぷり30分あった質疑応答の時間は、上場を考えている企業さん、おそらくIPOのプレイヤー側の方など、熱気ムンムンのQ&Aでしたし。
■三菱UFJ信託銀行 IPO倶楽部
http://www.tr.mufg.jp/houjin/daikou/koukai.html
■IPO実務検定協会 セミナー案内
http://www.ipo-kentei.or.jp/seminar090129.pdf
けっこう、ワクワクできますよ
一見の価値ありのセミナーです。
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