5/9、ミクシィが2008年3月期決算を発表しました。
■ミクシィ 2008年3月期決算短信(非連結)
http://eir.eol.co.jp/EIR/View.aspx?cat=tdnet&sid=595258
内容的には、4/16に公表済みの業績予想の修正から大きく乖離するものではなく、売上、営業利益など、上方修正値から5,000万円前後上積みしたもので、これについては大きなサプライズはなかったのではないかと思われます。
■2008年3月期 業績予想の修正に関するお知らせ(4/16)
http://eir.eol.co.jp/EIR/View.aspx?cat=tdnet&sid=587766
終わった期での業績は、次のとおり。
売上高: 10,052百万円(前年同期比91.6%増、修正計画差+52百万円)
営業利益: 3,749 〃 (同71.6%増、同+49百万円)
当期純利益: 2,011 〃(同79.9%増、同+11百万円)
ネット企業特有のすばらしい業績の伸びでここまできました。
■ミクシィ IR情報
http://mixi.co.jp/ir/index.html
「財務ハイライト」では、年度ごとの業績がグラフで示されていますが、売上も利益もほれぼれするような美しい伸び方です。四半期ごとに細分化したとしても、猛烈に伸びているのがわかります。
しかし、問題は、今日の日経新聞にも書いてありましたが、来期というか今期(2009年3月期)見通しのほうです。
同決算短信によれば、こうなっています。
売上高: 13,000百万円(21.2%増)
営業利益: 3,800 〃 (1.4%増)
当期純利益: 2,050 〃 (1.9%増)
口の悪いトレーダーさんたちに言わせれば、
「ミクシィは終わった・・・」
と言われかねない見通しです。
この数字を公表するまでには、笠原社長ほか、経営陣の方々は相当に揉まれたのではないでしょうか。
ミクシィの決算短信(P.3) 「次期の見通し」では、こう述べられています。
「インターネットメディア事業は引き続き「mixi」において、各種機能の提供・改良によるメディア力の増大や、広告価値を上げる新たな広告メニューの提供により、収益の増加・サービスの向上を目指して参ります。インターネット求人広告事業も引き続き「Find Job !」のブランド価値を高めること及び「mixi」を活用することによる広告宣伝効果と広告宣伝費の抑制により、利益率を確保しながら収益の拡大を目指して参ります。
投資に関しましては、引き続きサーバー等に関する投資や、事業拡大に伴う人員の増強、また新たな収益源を確保する為の先行的な投資等を行っていく方針であります。」
新聞に書いてあるような、
・モバイル向けニーズの拡大
・中国事業立ち上げ
といった表現は、上記の「見通し」からは読み取れません。
まぁ総合的にミクシィの決算説明会資料やIRサイトを把握しているまっとうな投資家なら、わかっていて当然のことなのかもしれませんが、どれも各種資料で明らかにしているのであれば、本決算の決算短信は1年間の業績と今後の見通しをつなぐ重要な開示情報なのですから、あちこちに散在させておくのではなく、一ヶ所にまとめて、これだけ読めば十分わかる!という情報にしていただきたいものです。
それはともかく、これまでの業績の伸びをかなぐり捨ててでも、先行投資に踏み切るということは、今後の国内でのミクシィの伸びは相当厳しいものだと経営陣が考えていることの裏返しでもあると考えられます。
2008.3.31現在のSNS会員は約1,400万人(前期より500万人増)
ものすごい伸び方といえますが、日本人口の1割よりも多くのユーザーを抱え、どこまでユーザー数を高められるか、ユーザー数が高まらないなら、より深くユーザーの好みを掘っていって、広告収入に結び付けていく取り組みが求められます。
ミクシィの決算短信(P.2)にあるように、広告収入は「インターネットメディア事業」と呼んでいますが、こちらは38億円が87億円と、2.2倍の伸び。ここまではすばらしいです。
一方、「Find Job!」のインターネット求人広告事業は、13.6億円が12.5億円と、5.3%の減収に陥っています。いかなミクシィといえども、求人広告事業は競争激化の影響をぬぐいきれない、といったところでしょうか。
SNSやっている人が、必ずしも求人広告をみるものでもないのか、「Find Job!」は数ある求人広告の1つの選択肢でしかなく、ユーザーに対して本当によい転職・就職をしてもらうためには、「Find Job!」そのもののクライアント企業の数や質を上げていかないといけない、という至極当たり前の課題が横たわっているのでしょう。
ミクシィはセグメント別の損益を開示していないので、「Find Job!」事業の営業利益は定かではありませんが、2008年3月期においてはおそらく減収減益になっていると想像されます。
ネット求人広告事業は、エンジャパン など競合もひしめいており、なかなか大変だとは思いますが、いつまでもSNS(=広告収入)の一本足打法では、ホントにいつか終わりが来てしまいますので、事業の多角化と収益基盤の安定化を目指してもらいたいと思います。
ちなみに、ミクシィの決算短信を読んで、ちょっと気になったのは、DeNA(2432)やサイバー・エージェント(4751)などのネット企業の業績はどうなっていたかな ということ。
ついでに確認しておきましょう(単位:百万円)。
■DeNA(2008/3期) 決算短信(4/30発表)
http://www.c-direct.ne.jp/public/japanese/uj/pdf/10110213/20080430151809.pdf
売上高: 29,736 (前年同期比109.7%増)
営業利益: 12,662 ( 〃 181.0%増)
当期純利益: 6,776 ( 〃 166.9%増)
つまり、売上は2倍以上、営業利益・当期純利益は2.6~2.8倍に増加という、とてつもない成長を遂げています。
2009/3期見通しはどうでしょうか。
売上高: 42,000 (前年同期比41.2%増)
営業利益: 17,500 ( 〃 38.2%増)
当期純利益: 8,800 ( 〃 29.9%増)
伸びが落ち着いたとはいえ、それでも売上高で100億円以上増加、営業利益で50億円増加、最終利益でも3割も増やせるとは、グロース銘柄としてもたいしたものです。
(こういう爆発的な伸びを見せるしょっぱなに投資して1~2年、一緒に乗っかっているのが、投資の極意なんでしょうねぇ・・・。反省・・・。)
一方、私もブログでお世話になっているサイバーエージェント。
こちらは9月決算です。
■サイバーエージェント(2007/9期) 決算短信
http://ir.cyberagent.co.jp/result/2007/pdf/4q/4q_con.pdf
売上高: 76,007(前年同期比26.4%増)
営業利益: 5,501( 〃 26.7%増)
当期純利益: 2,016( 〃 △53.1%)
売上760億円とは、ずいぶん大きかったのですね。すみません、知りませんでした(爆)。
セグメント別ではこんな感じです。
メディア事業 | |||||
広告 | EC (物販) |
EC (仲介・ 課金) |
その他 | 小計 | |
売上高 | 12,049 | 18,993 | 5,665 | 2,617 | 39,369 |
営業利益 | △ 2,684 | △ 73 | 988 | 82 | △ 1,686 |
投資育成 事業 |
広告 代理業 |
消去・ 全社 |
連結 | ||
売上高 | 7,681 | 34,249 | △ 5,293 | 76,007 | |
営業利益 | 6,983 | 210 | △ 5 | 5,501 |
セグメント間の内部売上高で消去される約53億円のうち、ほとんどがメディア(広告)事業で47億円あり、これを除くと同事業の売上高は72億円となってしまいます。
ブログ事業などはこちらに入っていますが、外部売上高のみで考えてしまうと、営業損益的にはかなり厳しいものがありそうです。
(だからといって、こうしたブログでの情報発信の場がなくなるのは困るので、ぜひ頑張っていただきたいものです。今日から心を入れ替えて、MicroAdを一生懸命クリックしましょう)
稼ぎ頭は、投資育成事業とEC(仲介・課金)事業ですか・・・。
渋谷で働く藤田社長の知名度・人脈などがあれば、さまざまな投資案件が持ち込まれるものと思われます。
ただ、証券市場動向や投資先の事業領域の事業環境にも左右されるだけに、安定的に利益を生み続けるのは、結構たいへんなことだと想像します。
今期(2008/9期)見通しはどうでしょう。
売上高: 80,000(前年同期比5.3%増)
営業利益: 2,000( 〃 △63.6%)
当期純利益: 800( 〃 △60.3%)
※ただし、投資育成事業の業績見通しを除く。
ブレの激しい投資育成事業の予想を外した形で、業績予想を出されています。
計算してみると、上記の増減率(%)は、2007/9期の全体業績(投資育成事業を含む)から、2008/9期の投資育成事業を見込まない業績に対する増減率となっています。
となると、上記の前期業績から投資育成事業を控除してみないと、比較ができないような気がします。
売上高: 76,007-7,681=68,326
営業利益: 5,501-6,983=△1,482
当期純利益: 2,016-6,983×37.7%=△616
(税引前当期純利益に対する税負担率62.3%を使いました)
こうした考え方が正しければ、売上高は17.1%増、営業利益は約35億円改善、当期純利益は約14億円の改善ということになります(営業利益35億円のうち純利益に貢献する分はちょうど40%といった感じですから、まぁ間違っていないのでしょう)。
ミクシィやDeNAよりもサイバーエージェントのほうが社歴が長い分、高成長が続く時期からは外れているとは思いますが、投資育成事業のブレによらない投資判断をくだしたいものですね。
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