(日本IR協議会「個人投資家の投資意識とIRニーズに関するアンケート」を読む(その2) からの続きです)
(2) 株式売買・保有について
① 株式売買経験
平均値は11.8年(中央値は6~9年)。
年代別では、20代:4.0年、30代:6.9年と日が浅いが、60代以上:17.3年が平均なので、それほど差はないように思われます。ただし、60代以上には、
20年以上:16.1%
30年以上:22.3%
という猛者も。
保有株式時価総額別では、時価総額が大きくなるほど、経験が長い人の割合が増えています。例えば、
500万円未満: 20年以上=8.1%、30年以上=2.6%
500万~1,000万円: 20年以上=17.6%、30年以上=9.0%
1,000万円以上: 20年以上=22.9%、30年以上=18.5%
やはり、超長期で景気変動やビジネスサイクルを超えて躍進できる企業の株式を保有することができると、こんな感じになるのでしょうか・・・。
クラスター別では、平均値は11.5~12.6年と大差ありませんが、やや成長重視派に長めの経験の方の割合が多いということがいえます。
② 保有銘柄数
全体の平均値は5.8社。
年代別:年令が上がるにつれて、平均保有銘柄数が上昇します。
例えば、20代:4.2社、30代:5.7社・・・60代:6.7社など。
平均値で見ると極端ではないですが、60代以上では11社以上保有する人の割合は約25%にのぼります。
売買頻度別では、頻繁に売買する層ほど、保有銘柄数が多い傾向があります。
年1回未満では平均3銘柄(1社:37.4%、3~5社:30.8%)と少ないですが、月2回以上売買する層だと平均7.4銘柄(11社以上:29.3%)となっています。
クラスター別では、成長重視派がダントツに保有銘柄数が多いです。11社以上保有が30.6%(他のクラスターでは12~18%)を占めています。
③ 保有株式の種類
けっこう気になる、どんな業種の株を保有しているか、です。残念なのは、個別銘柄名ではなくて、「業種」にとどまること。それでも、参考にはなります。
全体・・・金融・保険:28.8%、小売業:27.8%、食品・飲料:26.3%などが人気です。
年代別・・・60代以上は、経験の差からか、非常に幅広い業種を保有しています。これに対して、30代・40代は、外食やアミューズメント業界の保有が、他の年代に比べて多くなっています。逆に、60代以上は、外食・アミューズメント業界の保有比率を落としています。
アミューズメント業界というと、株主総会でコンサートをやったりする会社(エイベックスなど)や、オリエンタルランドなどが人気なのかな、と思われます。
売買頻度別や時価総額別では、頻度が高いほど、または、時価総額が大きいほど、多様な銘柄を保有しています。
クラスター別では、やはり成長重視派が幅広い業種を保有していますが、参考までに、気がついた点を挙げると・・・。
・短期投資家は、情報システム・ソフトウェアの比率が30%前後の割合で保有されているのに対して、成長性重視派は比較的保有割合は高くない。
・成長性重視派は、通信、電子部品・半導体、石油・化学、医薬品などの保有割合が高い。
特に、医薬品は、他のクラスターが10~11%程度の保有なのに対して、19%弱とダントツに高い保有割合です。
うーむ。何かあるんでしょうねぇ。化学系は苦手なんですが、医薬品会社の成長性など、研究してみたほうがよいのかもしれません。
④ 保有株式の時価総額
全体・・・663.6万円。
年代別・・・年令が上がるほど、時価総額が上昇します。
20代は平均219.9万円、30代448.4万円、40代543.2万円、50代787.4万円、60代以上1,017.0万円となってます。
売買頻度別・・・頻度が多いほど、時価総額が上昇します。
年1回未満:468.6万円→月2回以上:819.8万円となっています。
クラスター別・・・短期派、長期派で異なりますが、
短期派 場当たり的:600.8万円 < セミプロ:662.3万円、
長期派 配当重視:525.5万円 < 成長重視:894.3万円
となっており、セミプロ的短期投資家よりも、成長重視長期投資家の平均保有時価総額のほうが、かなり多いということがいえます。
⑤ 1社あたりの平均投資額
全体・・106.8万円
年代別・・・20代は平均53.5万円に対して、60代以上は143.1万円と、かなり差が開きます。各年代ごとに20万円程度ずつ、投資額が増えているイメージです。
売買頻度別・・・意外なことに、月2回以上売買の層は平均102.8万円であるのに対して、年1回未満の層は136.7万円と、こちらのほうが大きくなっています。
時価総額別・・・これは当然ながら、1,000万円以上の層は199.3万円と、かなり多め。500万円未満の層が65.9万円です。
クラスター別・・・比較的差は開いていないです。場当たり、または、配当重視派が98~100万円前後、セミプロ、または、成長重視派が110~116万円という感じです。
⑥ 株式売買方法
全体・・・インターネット経由:75.6%、証券会社と電話で:12.8%、証券会社の店頭で6.4%、ケータイ経由1.9%といった具合です。
年代別・・・20代、30代は、インターネット経由が84~88%と、ほとんどを占めています。しかし、60代以上は、ネット経由が65%と2/3を占めているものの、証券会社の担当者と電話でというのも22%、証券会社の店頭でも9.5%を占めています。
けっこう人的なつながりとか、証券マンから情報仕入れたり、という手法もつかっているのでしょう。
60代以上がおそらく保有時価総額でいっても上位にくるでしょうから、IRの力の入れ具合としては、証券会社のセールス担当者向け説明会、というのも有効な手段であろうと思われます。
クラスター別でも、長期投資派は証券会社の担当者経由の注文が11~16%程度、証券会社窓口経由が5~10%程度あります。
⑦ 株式売買頻度
全体・・・週1回以上:10.4%、月2~3回:15.1%、月1回程度:15.1%、2~3ヶ月に1回:17.4%、半年に1回:15.6%、年1回程度:7.8%、年1回未満:18.3%
年代別・・・どの年代も、週1回以上は10%前後、月2~3回が14~18%程度を占めており、大差ありません。これに対して、特徴的なのは、20代では月1回程度が23%と他よりも6~10ポイントほど多くなっていること、40代以上では年1回未満の層が18~22%と、非常に多くなっています。
保有時価総額別・・・500万円未満よりも、1,000万円以上の層で、週1回以上・月2~3回以上というアクティブな層が多いというのが特徴です。
クラスター別では、セミプロ的短期投資家が、週1回以上:16.9%、月2~3回以上19.2%と非常にアクティブに動いていることが分かるのですが、それに負けず劣らず、成長性重視長期投資家も、同11.9%、19.9%とたいへんアクティブです。
⑧ 長期保有したい業種・長期的に注目したい業種/長期保有したくない業種
これも、非常に注目のデータだと思います。
全体・・・現在保有している業種と、今後長期保有したい・長期的に注目したい業種を、いくつかひろってみます。
自動車: 現在22.2% 注目26.9%(新興国での生産や環境技術など、まだまだ元気でしょう)
電力・ガス: 現在16.1% 注目23.5%
金融・保険: 現在28.8% 注目18.9%(現在と将来が逆転してます。国内金利引き上げはまだ先そうだし、サブプライム問題の余波もあるかないか注目でしょうし、パフォーマンスに難あり、というところでしょうか)
医薬品: 現在12.9% 注目17.9%(将来、高齢化などに伴う医薬品、医療技術などはまだまだ需要があるということかな。後発医薬品で利益を上げる会社もありますし。動向チェックしてないと、さっぱり(^^; )
食品・飲料: 現在26.3% 注目15.8%(これも逆転現象)
通信: 現在23.7% 注目12.5%
情報システム・ソフトウェア: 現在23.3% 注目11.9%
小売業: 現在27.8% 注目9.6% など、逆転現象が著しいものが目立ちます。
比較的、両数値が近いのは、鉄鋼・非鉄金属: 現在18.3% 注目17.7%、精密: 現在15.0% 注目12.8%など。
60代以上や時価総額1,000万円以上の層が選ぶ業種をピックアップしてみると・・・。
自動車(他の層より突出して多い)、
鉄鋼・非鉄金属(60代以上に多い)、
電子部品・半導体(60代以上、1,000万円以上)、
精密機械(60代以上)、
商社(60代以上、1,000万円以上)
産業・工作機械((60代以上)
といったところでしょうか。
やはり、日本の高度成長を支えてきた年代層であり、日本の技術力の優位性について詳しい、という点がポジティブな判断を導いているといえそうです。
一方、長期保有したくない業種はというと・・・。
これは年代別・時価総額別・クラスター別でも、あまりバラけておらず、建設、アミューズメント、情報システム・ソフトウェア、不動産・住宅、外食、小売業繊維・アパレルなどに集中していると思われます。
現在と将来での差を拾ってみますと、こんな感じです。
建設: 現在(保有している)12.9% 将来(長期保有したくない)24.5%
アミューズメント: 現在13.7% 将来23.4%
情報システム・ソフトウェア: 現在23.3% 将来22.1%
小売業: 現在27.8% 将来16.0%
繊維・アパレル: 現在9.1% 将来14.6%
金融・保険: 現在28.8% 将来10.9%
通信: 現在23.7% 将来10.1% など。
やはり株価のパフォーマンスと関係があるんでしょうかねぇ。
⑨ 株主総会での議決権行使状況
全体・・・42.5%が行使したことがある
行使しなかった理由は、
行使してもほとんど影響がないように思える: 46.5%
行使することが面倒: 31.6%
議案を検討する時間的余裕がない: 19.5%
議決権行使自体に興味がない: 19.2%
議案に対して意見表明する必要性を感じない: 17.5%
などとなっています。
あぁ・・・、嘆かわしい。行使が面倒が約1/3、興味がない・必要性を感じないで1/3強とは・・・
行使してもほとんど影響がない、と思われているのは、企業側の個人投資家に対する動機づけや経営施策への反映の問題でしょうから、約半数弱のこの意見にはしっかり耳を傾ける必要がありそうです。
年代別では、20代、30代、60代以上が、議決権行使比率44.8%、47.3%、45.6%と比較的良好なのに対して、40代で40.2%、50代で38.1%とやや数値が落ちているのが気になります。
時価総額別では、資産額があがるほど意識が高く、500万円未満:37.3%、500~1,000万:46.2%、1,000万円以上56.3%と、非常に高い行使比率です。
クラスター別でも同様に、成長性重視派が一番行使比率が高く54.5%、配当重視派・セミプロ短期派は40%ちょっと、場当たり派は30%という傾向です。
⑩ 敵対的TOBへの応募状況
なかなか敵対的TOBにあたったことがないのが普通だと思いますが、レアケースといえども、実例が増えてきている昨今、貴重な資料です。
全体としての応募状況は2.6%にとどまります。
応募の理由としては、
買付け価格が妥当: 66.7%
現経営陣では企業価値を高められない: 32.2%
TOBを行う者の主張に説得力がある: 18.9%
などとなっており、現経営陣の株主へのアピールが足りないところに加えて、プレミアム付きの価格を提示されると、敵対的TOBへ応募しやすい状況ができあがるといえます。
年代別では、20代が5.6%の応募と非常に高いほか、時価総額別では500万~1,000万で4.0%、1,000万以上の層で4.8%の応募と高い数値になっています。
クラスター別では、成長性重視派が5.5%と突出していて、他の3類型はほとんど横並びといってよい1%台半ばです。
敵対的TOBを仕掛ける側にとっては、従来、その企業がどのような投資家層に支えられてきたかも、考慮に入れると、行使比率がどの程度になるのか読みやすくなるかもしれませんね。
まだまだ続くよ・・・(その4)へ
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