モリテックス、総会決議取り消し | IR担当者のつぶやき

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上場企業に勤務する公認会計士の、IR担当者として、また、一個人投資家としての私的な「つぶやき」です。

ときどきIR担当者的株式投資の視点も。

昨日はプロネクサスの「2007年会社法関連セミナー」に出席しました。


講師は、有名な中村直人弁護士音譜


演題は「時期株主総会の実務と留意点」ということでしたが、ちょうどモリテックスの株主総会決議取り消しの東京地裁判決が出たこともあり、最後の30分くらい、この事件についてのお話を聞くことができました。


論点は2つあるとのことで、


① 出席議決権数の数え方

② 議決権行使者に500円のクオカードを配布したことが利益供与に当たるか


という点です。


まず、出席議決権数の数え方について。


12/7付 日経金融新聞などでは、当時モリテックスとプロクシーファイトで争っていたIDECの委任状には、会社提案の賛否の欄がないして集計対象から除外した点が問題だと言われていましたが、ちょっと分かりづらいですよね。


さすが中村直人弁護士、私もすっかりどんな事情だったか忘れていましたが、非常にクリアに説明なさっていました。


プロクシーファイトに発展するような会社と株主との争いの場合、会社が招集通知を発送してから株主側が提案内容を一般株主に送付していたのでは間に合わないわけです。

したがって、会社に何か提案したいと考える株主側は、会社が招集通知に何を議案として記載するか見ないうちに、自分たちの提案内容を一般株主に送付することになります。

当然、記載内容は「株主提案」のみであって、「会社提案」については記載されておらず、後から招集通知が別途届くわけですね。


そうすると、議案が株主提案と会社提案と並存することになるので、一般株主がどのように議決権を使うかの解釈の余地があったようです。


例えば、増配提案なら、


会社提案:10円配当

株主提案:100円配当


のとき、一般株主としては株主提案に賛成したら会社提案は反対なのか(100円)、株主提案にも会社提案にも賛成できる(110円)のか?


これについては、中村弁護士によると、以前は株主提案に賛成したとしても取締役会が決めた方針で取り扱うこととされていたのだそうで、会社提案には欠席扱いとしていたという実務だったのだそうです。

しかし、今回の東京地裁判決は、株主提案と会社提案の議案は1つだと考える、というように判示したということだそうで、そうなると、株主提案に賛成したら必然的に会社提案には反対、ということになるわけです。


ただ、難しいのは、今回のモリテックスの役員選任議案が、定款で上限8名のところ、8名全員改選で、8名全員の提案があったということで、定員に余裕がないために、株主提案と会社提案とで排他的に考えることができるのだろうということでした。


これが例えば、上限8名のときに会社が6名選任を上程していて、株主側があと2名追加で選任する議案などを出した場合は、株主提案に賛成したからといって、会社提案に反対したことにはならなくなるのでしょう。


そういうところから、今回のモリテックス判決の及ぶ射程距離は、以外に短いのかもしれません、と中村弁護士は解説されていました。



次に、クオカードの件


結果的に、会社側が(自分たちに有利なように)議決権行使を促進するために、会社のカネを使って株主にクオカードを配布したことが利益供与に当たるとされたわけです。


確かに、議決権行使してくれたらクオカードをプレゼントとしているのであって、会社提案に賛成してくれたらあげます、といっていた訳ではないのかもしれません。

しかし、その記述とともに、ぜひ会社提案に賛成してもらいたい旨の記述があったのだそうで、それを、クオカードをあげるから会社提案に賛成してねラブラブと読めるよね、と判示されてもやむを得なかったのでしょう。


ただ、これも、株主に対してあげる、総会出席のお土産定足数を満たすためのクオカード配布懇親会株主優待なども、いっさいダメかというと、そういうものでもないようです。


中村弁護士が紹介してくれた、株主に対する利益供与に当たらない例外的要件が次の3つです。


(1) 1人当たりの額が社会通念上許される額である

(2) 株主に対して提供した額が総額としていくらか(会社の財産的基礎を揺るがさなければOK・・・今回は452万円)

(3) 株主の権利の行使に影響を及ぼす可能性のない正当な目的である


モリテックスのケースでは、上記の3つめの要件でアウトとされたようです。


中村弁護士によると、これまでは議決権行使促進のためにクオカードを配布するのはOKだという学説があったようですが、最近の裁判所は、株主と会社がフェアな立場で競争しているかどうかに重点を置いて判断する傾向が強いということです。


今回のように、会社側が自分たちに有利な議決を引き出す目的で、クオカードを配布するというような場合は、フェアな競争ではない、と。


非常にわかりやすく直近の判例を解説してくれた中村弁護士、さすがです。




プロクシーファイトに発展するような場合のIRは、平素からの機関投資家とのコミュニケーションも重要ですが、モリテックスに限らず、最近の議決権行使のカギは個人投資家の票が握っているケースが多いと思われます。


中村弁護士も指摘していましたが、例年10円くらいの配当を、急に現れた外国人投資家が500円出せとかいうから反感を買うのであって、50円くらい出してもいいのでは?という株主提案だったら、個人投資家の支持を得て通ってしまうかもしれません。


そういう意味では、常に機関・個人に関わらず、投資家の意見に耳を澄ませておくべきだなぁと思いました。

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