しばらく忘れていましたケーススタディ「経営統合」シリーズ、久々のトピック追加です。
先日来、新聞報道などで明らかになっている三越(2779)と伊勢丹(8238)の経営統合ですが、本日8/23 15:30に、東証の適時開示にて正式発表されています。
■株式会社伊勢丹と株式会社三越との共同持株会社設立による経営統合に関するお知らせ
http://www.isetan.co.jp/icm2/jsp/isetan/financial/news_pdf/070823_news_japanese.pdf
共同持株会社の正式社名は、株式会社三越伊勢丹ホールディングス。
統合比率(株式移転比率)は、下馬評どおり、伊勢丹:三越=1:0.34です。
フィナンシャル・アドバイザーは、
伊勢丹 : 三菱UFJ証券
三 越 : 大和SMBC
となっています。
上記から察せられるように、メインバンクは、
伊勢丹 : 三菱東京UFJ銀行
三 越 : 三井住友銀行
となっています。
取引銀行に両社ともみずほコーポレート銀行が入っていまして、顧客減少の割を食うのはみずほといったところでしょうか。
経営統合というと、いつぞやのアクティビスト・ファンドのように、統合比率に不満あり、といった声が出てこないとも限りません。
上記のリリース中、P.7に両社の株主上位が記載されていますが、特に怪しげなファンド等は見当たりません。
EDINETで大量保有報告書を確認してみましょう。
まず伊勢丹(EDINETコード:431008)。
オンワード樫山などが大量保有報告書を提出してますが、機関投資家ではバークレイズグループが、信託銀行やら証券会社やらファンドやら、全部あわせて5.10%ほど買っている大量保有報告書を提出済みです(2006.9.21付)。
次に、三越(EDINETコード:431001)。
いっときモルガン・スタンレーが10.60%も保有していましたが、直近ですと、グループあわせて4.16%保有しているようです(2006.7.10付)。
いずれにせよ、露骨な要求を突きつけるようなアクティビスト・ファンドとも思えませんので、ひとまず安心というところでしょうか。
(もちろん、まだ名義変更してないファンドが浮上する可能性もありますが・・・)
経営体制としては、
会長兼最高経営責任者(CEO)には武藤信一・伊勢丹社長、
社長兼最高執行責任者(COO)には石塚邦雄・三越社長
が就任の予定。
マスコミ的に言うと、伊勢丹と三越の売上高合計は1兆5800億円となり、現在最大手の高島屋や、大丸と松坂屋ホールディングスが9月に経営統合する「J・フロントリテイリング」を抜いて、業界首位になるとのこと。
どれどれ。
■伊勢丹 IR情報のHP
http://www.isetan.co.jp/icm2/jsp/isetan/financial/index.jsp #
■伊勢丹 2007年3月期 決算説明会資料
http://www.isetan.co.jp/icm2/jsp/isetan/financial/zaimu2007_pdf/fy06_full_briefing.pdf
上記資料によれば、2008/3月期(連結)の業績予想は以下のとおりです。
売上高 7,820億円
売上総利益 2,252(28.8%)
営業利益 300 (3.8%)
当期純利益 140
有利子負債 730億円
土地保有額(簿価) 511億円(2007/3月期)
■三越 企業情報のHP
http://www.mitsukoshi.co.jp/shop?EcLogicName=newsrelease.latest
■三越 2007年2月期決算短信
http://www.mitsukoshi.co.jp/pc/corp/pdf/kessan6.pdf
■三越 決算説明会資料
http://www.mitsukoshi.co.jp/pc/corp/pdf/kessan4.pdf
一方、三越の2008年2月期(連結)の業績予想は、以下のとおりです。
売上高 8,013億円
売上総利益 2,164(27.0%)
営業利益 154 (1.9%)
当期純利益 106
有利子負債 1,820億円
土地保有額(簿価) 1,927億円(2007/3月期)
単純合算の営業利益率は約2.9%程度ですが、両社は経営統合によって、情報システムや商品仕入、カード事業などから経費削減等により、2013年までに営業利益率を業界最高水準の5%程度に高める計画。
伊勢丹の武藤社長は記者会見で、その後、5年程度で営業利益1,000億円を目指す考えを示しました。
伊勢丹の時価総額は、23日終値(1,687円)によると約3,750億円。三越の時価総額は、23日終値(557円)によると約2,870億円。
時価総額の単純合算では約6,600億円あまりとなりますが、さて、これを経営統合によって大きく増やすことができるかどうかです。
伊勢丹の新宿本店は年商約2,500億円超ともいわれ、ファッション性の高い衣料品に強く、20~40歳代の若い層が顧客基盤。
三越は、老舗ブランドに定評があり、銀座店など富裕層の優良顧客を抱えるといわれます。
それぞれに顧客基盤が異なるので、補完的ではあっても経営統合によってコスト削減を生み出すことができるほど重複しているのか疑問であるといった意見も聞こえてきます。
意地悪い見方ですが、それよりは、銀座店の土地含み益などを狙った投資ファンドなどから防衛するために、企業価値を合算してハードルを上げ、経営権を取得しづらくしたのではないか、という勘繰りもあるようです。
日常生活者からすると、大きいことはいいことだ、こんなに大きな企業なんだから間違いはない、といった観点が自然と働いてしまいますが、資本市場には「コングロマリット・ディスカウント」というものもあって、あまり大きくなりすぎると、うまく企業価値が反映されなくなってくる現象も起きてきます。
(欧米では投資ファンドが、事業の切り分けをすることによって、各事業の企業価値が適切に反映されるようにしてトータルの企業価値を上げましょうという提案をしたりするわけですが、日本では、そのことを、何でもかんでも、事業を売り飛ばすというふうに理解するケースが多いように思われます。)
いずれにせよ、百貨店業界も売上高1兆円超企業のガチンコファイトが今後始まるわけで、その結果次第ですが、さらなる再編の序章に過ぎないのかもしれません。
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