東証マザーズ、業績不振企業はクビ? | IR担当者のつぶやき

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上場企業に勤務する公認会計士の、IR担当者として、また、一個人投資家としての私的な「つぶやき」です。

ときどきIR担当者的株式投資の視点も。

5/3付 日本経済新聞に「マザーズ改革へ、業績不振企業は退出――東証検討、1・2部への登竜門に」という記事が掲載されています。


東証が以前から議論を委ねていた「上場制度整備懇談会」からの中間報告の提言内容を踏まえて、東証が今後の上場制度の整備に向けた基本的な実行方針として「上場制度総合整備プログラム2007」を作成・公表した一部についての記事になります。


■東京証券取引所 「上場制度総合整備プログラム」
 http://www.tse.or.jp/rules/seibi/index.html
■ 同 「上場制度総合整備プログラム2007」
 http://www.tse.or.jp/rules/seibi/2007program.pdf
■ 同 「上場制度総合整備プログラムに基づく対応状況」
 http://www.tse.or.jp/rules/seibi/2007programjokyo.pdf
■ 同 「上場制度整備懇談会」
 http://www.tse.or.jp/rules/seibi/discussion.html
■ 同 「上場制度整備懇談会」中間報告(全文)
 http://www.tse.or.jp/rules/seibi/houkoku.pdf


当ブログでのトピック
■東証「上場制度整備懇談会」、マザーズ企業に風当たり厳しく
 http://ameblo.jp/ir-man/entry-10028440452.html
■上場制度整備懇談会 中間報告を読む(その1)
 http://ameblo.jp/ir-man/entry-10029183199.html
■上場制度整備懇談会 中間報告を読む(その2)
 http://ameblo.jp/ir-man/entry-10029534981.html
■上場制度整備懇談会 中間報告を読む(その3)
 http://ameblo.jp/ir-man/entry-10029535557.html


日経記事では、東証が「新興企業向け市場マザーズから業績不振企業を退出させるためのルール作りに乗り出す。新規上場を一・二部市場に早期移行できる企業に限定。2008年度以降上場後一定期間が経過しても定める水準まで業績が伸びない企業は上場廃止にするか、新たに設ける市場区分に移す検討を始めた。」と伝えています。


背景には、ライブドア事件や相次ぐ新興上場企業の不祥事・情報開示のうえでの混乱などがあり、上場会社に対する監査の厳格化もその流れに一役買っていると考えられます。


新興市場の株価が下げ止まらないなか、東証は自ら運営する東証マザーズを一部市場への登竜門という位置付けを明確にし、質の高い新興企業を増やしていこうという目論みのようです。


東証が考えたマザーズ改革の柱は2つあります。


(1) マザーズを成長企業だけの市場に衣替えすること
(2) 経営の健全性や情報開示体制について東証によるチェック機会を増やすこと


(1)については、日経の記事では、1999~2000年のマザーズ開設直後に上場し、業績が比較できる22社のうち直近決算期の経常利益(推定含む)が上場直前期を上回った企業は11社にとどまるとしています。


ちょうど50%ですねぇ。

少ない、ともいえるし、成長企業と銘打って上場したけれど、ビジネスモデルをマネされたり競争激化により想定どおりの成長ラインが描けなくなってしまったり、ということを考えれば、上出来のような気もしますが・・・。

先日も、週刊ダイヤモンドで新興企業の特集をやっていましたしね。


一定間の制限をつけて「経営者に利益成長への緊張感を与える」ことを狙っているようです。


(2)については、上場から5年程度経過した企業を対象に一・二部市場(本則市場)の上場時と同レベルの審査を実施することを考えているようです。


「上場後何年を基準とするか」「売上高・利益の基準をいくらにするか」「経過措置を設けるか」など検討課題は多いとされますが、東証としては新興市場の信頼性を取り戻すために、議論を進めながら断行する腹づもりのようですね。


上場企業経営者を対象に経営倫理に関するセミナーも始めるとのこと。

これはいいですね。


当ブログでも、マスコミの言う「会計不信」は「経営者不信」であると主張してきておりまして、新興企業経営者の方に対して、経営倫理、情報開示に対する姿勢等について、理解を深めていただくことは良いことだと考えます(もちろん、そんなお説教を聞く必要のないまともな経営者のほうが多いとは思いますが・・・)。


そうはいっても、新興の有力企業が業績下方修正を発表することでネガティブ・サプライズとなり売買が手控えられるという負のスパイラルのような動きがとまらないので、経営者の方々に情報開示、IRに対する姿勢を正していただくことが必須であると思います。


こうした動向のなかで、われわれIR担当者の企業内での重要性が向上していくのであれば、頑張りがいがあるというものです。
また、新興企業のIR担当者になりたい!という方が増えていくのであれば、私も頑張ってブログを書き続けている意義があります


しかし、東証マザーズは、一部・二部の本則市場において四半期決算の発表を導入していないときから、四半期での財務・業績の概況の公表を義務付けていたのに、ちっとも情報開示の姿勢が全般として向上しませんねぇ。


いや、そうともいえないか・・・。

かえって、情報開示について気を使って厳格に運用しているからこそ、下方修正の発表が市場に対してサプライズになっているのでしょうね(善意に解釈すれば)。

うまくやる企業だったら、下方修正になりそうな変調をきたし始めた時点で、マスコミ、証券アナリスト、機関投資家との面談の過程で、あんまり調子よくないんだということを伝えられると思うんですよね。
決してインサイダー情報のリークじゃなく。


例えば、会った時点で渋い顔をしている、とか(笑)、計画の進捗状況を聞かれたら、あえて口ごもってみるとか(爆)


IR担当者としては、きたるべき下方修正発表のときに、軟着陸させる手腕というのも大切です!!

意味ねーと言わず、軟着陸させるためだけに、マスコミとの面談やワン・オン・ワンミーティングを増やして、渋面を見せて廻っておくことをお奨めします。


個人投資家説明会など、限られた人数の場所で最近調子悪いとかという説明をすることは、なかなか難しいし、わざわざ個人が出向いてくれているんだから、と無理していいところばかりを取り上げてしまうIR手法をとってしまうケースもあるでしょう。

個人投資家に情報を行き渡らせるには、やっぱりマスコミをうまく使うことが必要かと思われます。


それから、もう1つ、これは私の提言ですが・・・。


東証は、年2回の会社説明会を3年間の義務としていますが、これを「継続的に」義務化する方向で考えています。まぁこれもいいんですけど、それよりは、四半期ごとの決算発表の間の業績変調が適時に伝わっていないことが問題なわけですから、指標は何でもよいから、必ず月次の売上高なり、受注残なり、

会社が重要だと思っていて、

かつ、

上場審査のときにもその指標の推移で業績の状態を見ていたような数値について、

「月次ベースでの公表を義務化」すりゃいいんです。


そうすれば、いきなり下方修正で市場がビックリ!とはならないと思います。
月次でジワジワ情報が行き渡っていくのですから。


新興企業への上場を目指すなら、月次指標の開示は義務ですからと、ライバルとの競争があるのでイヤです、とはいえない条件を整備しておく。


これ、お奨めだと思います。


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