ソフトバンクモバイルが米グーグルの携帯電話向けOS(基本ソフト)「Android(アンドロイド)」を搭載したスマートフォンの第1弾として4月27日に発売した「HTC Desire」。数日間使ってみて、その使い勝手のよさには正直のところ驚いた。台湾HTC製のスマートフォンはこれまで、話題性はあるものの操作性では見劣りすることが多かった。HTC Desireにもあまり期待していなかったのだが、いまはサクサクと動く操作性がとても気に入っている。

グーグル「Nexus One」とほぼ同じ仕様

 HTC DesireはOSがAndroidの最新版「バージョン2.1」、チップセットが米クアルコム製の「Snapdragon(スナップドラゴン)」(駆動周波数1GHz)など、現状では最強の基本性能を誇る。この仕様は、今年1月にグーグルが発売した自社ブランド端末「Nexus One(ネクサスワン)」と酷似している。OSのバージョンやチップセットだけでなく、ディスプレーが3.7インチの有機EL、内蔵カメラが500万画素であるのも全く共通だ。
 
数少ない違いといえば、Nexus Oneがトラックボール式のポインターを採用しているのに対し、HTC Desireは光学ジョイスティックであること。あとはHTC DesireがFMラジオを搭載しているぐらいの違いしかない。

 そもそもNexus Oneの製造を担当しているのもHTCであり、両者の使い勝手は似通っているだろうと予測していた。しかし、HTC Desireをしばらく使い続けようと感じるほどになったのは、メーカー独自のユーザーインターフェース「HTC Sense」の仕上がりが予想以上によかったためだ。

アプリ配信サービスも顔負けのソフトを標準搭載

 特に便利なのがソーシャルメディア系サービスとの連携だ。あらかじめ内蔵したミニブログ「Twitter(ツイッター」用のウィジェットではいつでも友人のつぶやきを確認でき、そこから専用のアプリケーションに簡単に移行する。このアプリは、引用や写真のアップロード、自分の発言が引用されたつぶやきを抽出して見せる機能などを豊富に備える。グーグルが運営するアプリ配信サービス「Android Market」から提供されている専用アプリも顔負けとなっている。

 住所録はグーグルのサーバー上にあるアドレス帳や米ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の「Facebook(フェースブック)」などにあるユーザー情報とひもづけて管理できる。例えば、仕事で会う相手は電話番号を知っていても誕生日は知らないことが多い。フェースブックと連携することで、これらの情報をHTC Desire上の住所録にまとめて記録できる。

ツイッターやフェースブックなどで使っている自分のアカウントを登録すると、友人とのつながりを自動的に判別して、連携させるべきかを確認する。確認したあとリンクをつなげると、友人のデータが取り込まれる。フェースブックに友人が登録した顔写真が住所録の写真欄に自動的に入るといった機能もある。
 HTCのスマートフォンは従来からウィジェットの豊富さを売りにしていたが、HTC Desireではさらにウィジェットの種類が増えた。時計やスケジュール管理、天気予報といった一般的なウィジェットも選択肢が多く、これだけで大半の用途を満たすことができるだろう。

iPhoneにも負けない操作性

 ウィジェットやアプリの操作性もいい。WVGA(480×800ドット)サイズの高精細な大画面ディスプレーとスナップドラゴンの組み合わせは快適だ。英ソニー・エリクソンのスマートフォン「Xperia」も同じチップを採用しているが、バージョン1.6のAndroidに独自ユーザーインターフェースをかぶせたせいか、反応がモッサリとした印象が残る。2機種を直接比べるとその差はなおさらはっきりする。
 Androidのバージョン2.1では、複数の指でタッチ操作するマルチタッチ機能が追加されたが、これも便利だ。2本の指を使って画面を拡大したり縮小したりできる。ウェブサイトを見ながら画面をダブルタップすると、ページを自動的に拡大・縮小表示するだけでなく、画面幅に合わせて文字送りの幅を調整する機能もある。このあたりの操作性は米アップルのスマートフォン「iPhone」にも負けていない。


使いやすいスマートフォンの1つのかたち

 マイクロソフトの「Windows Mobile」搭載機をはじめ、スマートフォンはこれまで何種類も登場してきたが、どれも初期状態では使いやすいとはいえず、ユーザーが独自にアプリを入れるなどカスタマイズをして、ようやく使いやすくなる機種がほとんどだった。その「最初は使いにくい」というスマートフォンの常識を覆したのがアップルのiPhoneであり、いまでは女性ユーザーにも広がりを見せつつある。

 Android搭載機でも、例えばグーグルのNexus Oneは最初は「素」の状態に近く、快適に使うにはそれなりのカスタマイズが必要となる。これに対し、HTC Desireは、HTCの独自ユーザーインターフェースとAndroidというOS環境、さらにハード性能をうまく融合させて、だれにでも使いやすいスマートフォンの1つのかたちを実現した。

 Androidは世界的に採用が広がる汎用性の高いプラットフォームであるがゆえに、メーカーはハードで他社と違いを出すか、ユーザーインターフェースを工夫するかで頭を悩ませる。それはWindowsパソコンを手掛けるパソコンメーカーの悩みと同じようなもので、Androidに参入しようとする日本の携帯端末メーカーも苦心しているところだ。その点でもHTCは、他社を一歩リードしたといえるだろう。


もったいない発売直後の在庫切れ

 ソフトバンクモバイルが販売するHTC Desireの本体価格は、実質9120円とかなり安い。世界市場に向けて大量生産が可能なHTCの強みがここでも発揮されている。日本メーカーにとって大きな脅威であると同時に参考にもなるだろうが、一般ユーザーにブランドをどのように浸透させるかはHTCの今後の大きな課題だ。

 27日に発売されたHTC Desireの初回出荷分はすでに完売となっており、次に入荷するのは5月末ともいわれている。6月ともなれば、iPhoneの新機種が発表されている可能性もあり、携帯電話各社の夏モデルもそろそろお目見えする。そうなるとソフトバンクモバイルもHTC DesireよりiPhone販売に力を入れたくなるというのが本音で、この時期の在庫切れはなんとももったいない話だ。

 HTC Desireは今回の日本発売を急いだためか、ソフトバンクモバイルのMMS(マルチメディア・メッセージング・サービス)などに対応しておらず、日本で人気のSNS「mixi(ミクシィ)」との連携機能も標準では持っていない。日本語入力環境も決して不便とはいえないが、まだ改善の余地はある。

 端末の出来がいいだけに、この先サービスや日本向け機能の拡充をどれだけ早く進められるかが、日本市場でのHTCの実力を占う1つのポイントとなるだろう。

ジャーナリスト 石川 温

日経2010/4/29 9:00