街は蜂の巣をつついたような異常な興奮状態になっていた。
ビルの爆発事件の野次馬たちに女子高生切り付けの話も
加わり、現場を立ち去ることなく辻々で噂がとびかっていた。
ガス爆発現場はガラスの破片を浴びた
数十人の怪我人を病院へ搬送し、手当てを終えた
ところだった。
消防は野次馬たちに爆発の瞬間を見ていた者に様子を聞き取り
警官たちは関係のない見物人をようやく整理できた頃に
切り付け魔の噂が飛び込んできた。
いち早く切り付け魔の事件を知ったのはマスコミ関係者だった。
爆発事件よりショッキングである。
女子高生がらみの通り魔事件はネタとして充分に価値がある。
マスコミ関係者の会話や警察無線を聞きつけた
普段おとなしい街の生活に退屈している住民にとっては
大きなイベントかお祭りのような興奮を与えた。
なかなか家に戻ろうとはせず、爆発現場や公園周りを
歩き回りながら事件の推理をしたり、噂を大きくしたりした。
職質で何人かの重要参考人引っかかり
その者たちは交番に連れてこられた。
犯人の特徴はスポーツジャージーを来た
身長170から180、年齢30から40前半・・という
かなりあいまいな情報である。
交番警官は交代時間をとっくに越えていたが
そんな状態で現場を引き継ぎ帰宅するわけには行かない。
二人の警官は普段は自分たちの居場所を
本署の上司や同僚に奪われ、次々に指示される雑務に
目の下に隈を作って疲労の極みに陥っていた。
「あのう、私はまだ・・・?」
「ああ、あんたまだ居たのか・・そうか、事情聴取の途中だったか・・」
私は次々起こる事件で決して退屈はしていない。
気持ちは居場所の無い狭い交番の端でもまだ帰りたくなかった
というのが本音であったが・・・
「すまんがもう少し付き合ってくれ。爆発現場の職人の
死亡に立ち会ったのはあんたなんだから・・」
「立ち会ったって・・たまたま側に居ただけでしょ!」
「あんたの証言で最期に遺言を聞き取ったなどの話をききたいんだ」
「それはまた日を改めて・・・」
老警官は興奮して叫んだ。
「こんな重大な事件が起こってるんだ。善良な市民なら協力するというのが
常識じゃないのかね!」
それを本署の上司が抑えた
「そう興奮するな。すまん、彼も疲れているんだ。おい、君。
先に彼に話を聞いておいてくれ」
若い刑事に指示をした。
若い刑事と私は火傷遺体の寝かしてある場所を
避けて奥のちゃぶ台のほうへ移動した。
「すみませんね。あなたがこの方の最期を看取ったらしいですね」
「いえ、あのお巡りさんが救命処置をしてたのを側で見ていた・・・」
「でも警官が処置を始めたときには既に気を失っていた・・と」
「ああ、そういう意味では見取った・・のか・・な」
「何か遺言めいた言葉を聴いたとか」
「遺言って言うか何かをうなっていたのを聞いていただけです」
「で、彼は何を?」
「ま、聞いていたというより、聞こえていたというか・・・はっきり意味は解りませんでした」
「でしょうね。単語だけでも聞き取れませんでしたか」
「え、まあ、あの・・溶接免許がどうした・・と」
「溶接免許ね」
自分が聞き取ったことを正直に言うべきかどうか悩んでいた。
すべてを語ればこの遺体の家族は路頭に迷うのではないか。
今の不景気な世の中をもっと厳しい風に吹かれるのではないかと
心配することはいけないことか、これも偽証になるのだろうか。
「何か心配ごとでも?・・」
「いえ、私も興奮してましたので・・それで」
「そうですね。また思いf出したことがあったら連絡をください・・今日はこれで」
その言葉が終わりきらないうちに交番が騒がしくなった。
ひとりの男が警官に腕を聞かれてつれて来られたのだ。
「どうした?」
「この者は爆発現場に居たのですが、両手に血が付いています」
「なに!」
「俺じゃねえって」
「おとなしくしろ!」
「今、事情を聞くから」
「こっちへ来い」
口々に警官がしゃべる。
椅子に座らされた男は
「この血は怪我人を助けたときに付いたんだ」
「その助けた人の名前は?」
「聞かないよ」
そこへやけに甲高い間抜けな言葉が聞こえた
「あれえ?お巡りさん。今、その男のポケットから
これが落ちましたよ~」
まだ交番に居た例のアルバイトが叫んだのだ。
彼もまだ身柄を拘束されているのか。
側にいた警官が指で摘み上げたものは女性のパンティだった。
「部長、こんなものが・・」
「・・・・」
「これは君が落としたものに間違いないな!」
「そ、それは・・公園で拾ったんだ」
つづく