10年ほど前、健康を害して
リハビリと称して友人の田舎に引き込んだことがある。
たまに病院に検査に行くだけで
他にやることは何も無い。
昼間は友人は仕事に出かけてしまう。
ま、留守番をしてれば良かったわけだ。
庭で子供たちの笑い声が聞こえる。
田舎のことだ。
子供たちはどこの家でも遠慮なしに
入り込み、庭など駆け回る。
そんな笑い声を子守歌にうとうとしていた。
ふと気がついてみると
夕方になっていた。
縁側に出て子供に声をかけた。
「おうい、もう夕方だよ。家に帰らなくていいのかい?」
「まだ平気じゃあ」
「ふうん、君の家はどこだい?」
「おら、あそこの一本杉の木下じゃ」
「ふーん、結構歩くんじゃないのかい。そうだ
おじさんが散歩がてら一緒に送っていってあげよう」
「わーい。」
男の子と女の子それぞれひとりづつ。
女の子の家はその先だという。
古びたサンダルを突っかけて庭先から外へ出た。
ちょっとくぼ地になった地形のその場所は
それこそあっという間に暗くなっていく。
二人と左右の手をつないで
とりとめもない話をしながら歩いた。
「こんなに遅くなってお母さんは心配しないの?」
「うん、母ちゃんはもっと遅くなる。じいちゃんがおる」
あまり家庭の事情を突っ込んで聴くのも気が引けて
「ととろの歌を歌おうか」
「うん」
などと気持ちを明るくさせながら歩いた。
まず少年の家。
「ここでええ!」
「じゃ、おじさんたちここで家に入るまで見てるから・・」
「うん、身とってな、約束やで」
少年は時々後ろを振り返り手を振りながら
大きな杉の木の陰に見え隠れしながら帰っていった。
彼を見送る間にも日はどんどんかげってゆく。
「さあ、遅くなった。今度は君の番だ。
ウチはどっち?」
「あっち。」
彼女の手はとても冷たく、日がかげると
同時に気温も下がってきたようだ。
「あっこのお墓のよこ」
指差す丘の先にはひとつの家の明かりがちらちらしている。
「家の隣がお墓だと恐くないかい?」
「ちょこっと恐いけど、でも・・・」
また大人気ないことを言って
心を傷つけてしまったようだ。
「さあ、じゃあ、急ごう。」
家の明かりが目立つほど暗くなっていたのだ。
「うん、でももうここでええよ。」
「でも・・おうちには誰かいるのかい?」
「ああ、猫のみいチャンもおるし・・・」
またあまり突っ込んで聴いて不必要な気持ちにさせても悪いと思い
「じゃあ、おじさんはこの電燈のしたでちゃんと見てるからね」
「うん、絶対みとってな!」
「電燈の下だから向こうからでも見えるだろう」
そのこの家は丘を登って、お墓を横に折れるのだろう。
一軒の家が見える。
といっても暗くなった青空に黒い家のシルエット見えるばかりになっていた。
彼女は時々走ったり歩いたりしながら後ろを振り返り手を振った。
見えるかどうか解らないが、すこしでも
安心させようと笑顔を作ってうなづいてやった。
最後に一番高いお墓の石の策の上に立って大きく手を振って
元気にぴょんと飛び降りると
彼女は闇の中へ消えて行った。
家に戻ろうと道を戻りかけたところ
おばあさんが立っていたので
ちょっとびっくりした
「どなたさんじゃろか。なんか御用け?」
「いや、いま娘さんを見送って・・・」
「へえ、どこの娘を・・」
「あ、いや、名前は聞いてなかったけど・・お宅のお子さんじゃないのかな」
「この先に人家はウチしかあらせんが」
「猫を飼ってる家でみいちゃんという・・」
間抜けである。
猫の名前をいっても解るまい。
「私は友人の家に遊びに来て・・・」
遅ればせながらの自己紹介と事情を語った。
「ふ~ん。よりゃ、よう助かった。
そりゃ手つなぎ狐がでよったな。」
「え、手つなぎ狐?」
「まあ、あんたもはようかえりんさい。
呼ばれても振り向いたらあかんよ。気をつけてな」
そういうとばあさんは闇の中へ消えた。
背筋にぞっとしたものが走り、あわてて小走りに
友人の家に戻った。
帰宅した友人にその話をすると
「そりゃこの辺の民話で、おれも
子供の頃、じいちゃんに聞かされことがあるが
子供の夜遊びをいましめる作り話だよ。
体験した俺には作り話とは思えなかった。