電車の中で、年配の男性2人が楽しそうに話し込んでいる。聞くともなく
聞いていたら、ホタルの思い出だった。
「ふるさと」と聞いて何を思いだすか。今の時期なら「ホタルだ」と一人
が言った。もう一人は深くうなずき、「群舞していた」と懐かしそうに言葉を
重ねた。
聞きながら、わがふるさとのホタルを久しぶりに思いだす。純農村だった
ので、夜になると物音ひとつしない。明かりも乏しい。その庭先にかわいい
点滅が一つ、二つ、三つ…そして数えるのが嫌になるほどのつつましいあか
りが漆黒の海を泳いだ。
庭の一角に小さな池があり、その周囲の植え込みに止まっては、また闇夜
に浮かぶ。うちわで蚊を追い払いながら、じっと見ていると、おふくろが蚊
取り線香を近くに置いてくれた。
農薬をたくさん使ったせいか、ホタルの群舞はやがて減った。あの景色は
もはや幻想だろうか。夜道を歩きながら、しばし思い出に酔う。
(2026・7・12)