2020年度  30本目の劇場鑑賞


シリアの内戦の状況をそこに住む住民の目で捉えたドキュメンタリー。


トルコ国境に近いシリア最大の都市アレッポ。そこの住民は皆アサド政権に不満を持ち、平和的なデモはやがて内戦に発展する。

アレッポ大学の女学生だったアワドはアサド政権に反対する学生運動の様子を動画撮影することから記録を取り始める。政府軍からの圧制が始まり、内戦状態になって行く中でも彼女は町に留まり映像を撮り続け、同じく町に留まり住民の命を守るために奮闘している医師ハムザと結婚、戦況が悪化する中で娘を出産する。

アレッポの町は完全に崩壊し、政府からの最終通告(降伏し町を離れるか、死か)に従い町から脱出するまで映像を撮り続けた。


実際彼女が撮影しただろう映像に加え、他の者が撮影した映像も多くあり、監視カメラやニュース番組からの映像、また何時撮影したのかドローンによる映像も加わっている。

完全な記録映像だけの映画ではなく、音響や上記の空撮映像なども加えられたある程度演出されている作品だ。


映像の多くは夫ハムザの勤める病院(彼が指導的立場で最後まで維持し続けた)内の様子、町の様子、そして彼女や友達の家族のプライベートな時間の映像で政府軍も反政府軍もほとんど映っていない。


砲撃や空爆によって正にカメラのある場所が一瞬で瓦礫と化す様子は衝撃的だ。四六時中政府軍のヘリやロシア軍の攻撃機や爆撃機からの空爆が続く中子供を含む住人はなす術が無い。


次々と病院に運び込まれる怪我人の山。目を覆いたくなるような状態の死人。死んだ子供を抱き、放さない母親。病院は血の海だ。

爆撃により怪我をして運び込まれた妊婦から帝王切開で取り出した男の子。ぐったりしたままでダメか、と思ったら泣き出した時は涙が出た。


この作品を観るとアサドやロシアを悪者と考えてしまいがちだが反政府軍や米英仏軍によって苦しんだ住民もいることを忘れてはいけない。戦争はどちらの側の住民にとっても不条理で皆が不幸になる。


第一次世界大戦の記録映画「彼らは生きていた」でも感じたことだが地獄の様な状況の中でもちょっとしたことで表れる笑顔が痛々しい。


この主人公で撮影者の夫婦と子供は最後にはどこに避難したのだろうか。これほど顔を露出しても今でも無事に生活しているのだろうか。


評点・・・★★★★  4
『映画としては良くできた作品とは言えないが、我々は現在でも進行中の惨事をもっと知るべきだ。』