さて、ミステリというと「犯人当て」だと思うかたが多いですが、「自殺などの動機当て」「宝物の隠し場所探し」「出身地探し」、あげくは「美味しいココアの作り方」や「毎日必ず50円玉20枚を持ってきてお買い物するお客さんの正体」まで、ふとした疑問、「謎」を解き明かすのもミステリです。
ミステリの起源や流行するきっかけになった文化的背景については、古くは英国鉄道史にまで遡りますので、興味のあるかたは『英国鉄道物語』など読まれると楽しめますよ。これはお奨め。
- 英国鉄道物語/小池 滋
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たとえば私がいいアイデアを思いつき、「○○ネタのミステリなんかどうなんだろ」とか言おうものなら、「そんなの20世紀初頭に既に書いた人がいますよ」とか頭の中身がミステリ百科事典と化しているミステリ系編集者から延々と類似ミステリについて語られるほどです。
そんなわけで、生半可なミステリを出すと関係者から「○○が既にやってますよ!」とか言われるので、あいつらをどうやって騙してきってやろうかと考えた結果が、一迅社文庫でほぼ唯一のミステリのこちらです。
一迅社文庫の仕事を引き受けた時点で、一冊はミステリ出そうとずっと思っていたんですよね。
『月明のクロースター ~虚飾の福音~』 萩原 麻里
-あらすじ-
全寮制の学園を舞台に、仮面を被った男女が深夜に集い学内のスキャンダルや秘密を語り合う謎のクラブと、偶然それに遭遇してしまった主人公。その結果、学園で巻き起こるいくつもの陰湿な事件。
学内の風紀を乱そうとする事件の真相と犯人は……
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これが表向きの内容ですが、前述の通り、ミステリ系の人は過去の読書経験からあっさり犯人や動機を看破するので、この作品は二重三重にワナを仕掛け、伏線を張り、そう簡単には全体像をつかませないよう、著者の萩原さんには頑張って執筆して頂きました。
そう、この小説は犯人探し以外の引っかけや構造などの謎を推理するタイプの小説です。
「犯人は誰か」より、この作品を読んでいる読者が感じるであろう違和感の正体、主人公たちの行動の謎など、そっちの謎解きを積極的に楽しんもらえると嬉しいです。
仮想敵にしていたミステリ系の何人かは無事に騙しきり、「犯人当てはオトリで、こっちの仕掛けで騙してアッと言わせるのが本命か」と笑わせることに成功したようなので、T澤個人としても満足度はとても高い一作です。
二つか三つは謎を解かれても、他にまだ隠してた謎で「やられた!」と言わせるのが本作のコンセプト
ちなみに「乙女心はミステリ」とか言って恋愛ものをミステリに分類するのはダメだと思っていますが、しかし「存在自体がミステリ」な文庫レーベルのあり方とかはとても好きです(T澤)