文庫編集者のお薦め Part.1 | 一迅社文庫編集部のブログ

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一迅社文庫の最新情報を最速で紹介……できるといいなという編集部ブログです。

新刊情報など中心に更新していく予定。

気がつくと最近、MF文庫J大好きな人とばかり認識されているらしいT澤です。
こないだは徹夜明けのバカノリした頭で「MF文庫J分析講座」みたいなものを開いてしまい、家で一眠りしてから自分は何やってるんだと頭抱えました。

それはさておき、文庫ブログが開設される前に発刊された本はこれまできちんと紹介できていなかったので、この機会に久々に自社の文庫のお奨めを、制作裏話も交えた作品の簡易解説付きでやろうかと思います。

まずは、こういう作品がライトノベルで増えてほしいという一作から。
私がライトノベルの編集に復帰した理由のひとつが、自分が読んで面白いこういうタイプの作品が減っていることへの不満で、それなら自分で作ろうと。
幻想症候群 (一迅社文庫 に 2-1)/西村 悠
¥650
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大きい画像はこっちでどうぞ。こちらはbk1にリンク。
一迅社文庫編集部のブログ-幻想症候群 『幻想症候群』
夢、欲望・恐怖、あらゆる願望が実体化してしまう謎の病「幻想症候群」が蔓延し終焉へと向かう世界を舞台に、人々の様々な思いが交錯していく四つの不思議なストーリー。
ややモダンファンタジー寄りですが、SF連作短編集の形式です。一話一話が独立して完結した物語ながら、その中で未解決だった謎、作中で築かれた何かが、最後に結実するというのが、この形式の特徴です。
作者の西村悠さんは短編の名手として電撃文庫でとくに評価されていますが、「短編連作」という形式については不慣れだったこともあり、色々とアイデアを出しあって、このような形に結実しました。

一迅社文庫編集部のブログ-幻想1 1.遥か遠くの夏

空を飛びたい少女と人語を解する心優しい巨大クラゲ。そんなおかしな彼女と一匹に出会った22才の青年が、ともに笑い、そしてお別れをするまでの成長の物語。
ライトノベルの定石から外れた結末に驚かれたかたも多いようですが、大人になっていくということを正面から描いてみた一作です。嬉しいとか悲しいとかそういうのでは割り切れない人の心の不思議。

青く輝く海と空、白い雲、そしてどこまでも続く水平線。そして空を飛ぶ少女。
シンプルながらも描かれていることは全くシンプルではない。
本作品集の中では、T澤はこれが一番好きです。


一迅社文庫編集部のブログ-幻想2 2.無限回帰エンドロール

いつのまにか無人になった映画館の中で凶悪な殺人鬼に襲われる、映画研究会に所属する主人公と先輩の運命は……
当初の案では存在しなかった一篇。「幻想症候群」によってなぜ人類が滅びるのか。「遥か遠くの夏」は正の側面が描かれたので、これは反対にその負の側面に向き合った作品です。

閉鎖空間となった映画館の中でスクリーンの中から怪物が出現するというホラー映画『デモンズ』シリーズの着想をもとにした一作ですが、徐々に迫ってくる闇、無限に続く部屋や幾度も象徴的に現れる○○○○のイメージは、よくあるスラッシャー映画ではなくクリストフ・ガンズ監督やD・リンチ監督の描く心の闇の世界を強く意識しています。
本作の結末に驚き、怒ったかたもいるようですが、真の結末は最後の短編にて。

余談ですが、イラスト担当の鍋島氏に象徴的に現れる○○○○のイラストを依頼したところ、これだけやけに仕上がりが遅く、どうしたのかと聞いたら、「僕は○○○○が大の苦手なんですよ!!」と本当に泣きそうだったので驚きました。そこまで嫌いなのにこれだけリアルにイラスト化したのは偉いと思いました。

一迅社文庫編集部のブログ-幻想3 3.『夏休みの終わり』
幻想症候群に冒されたために危険人物と認定され自主的な死を迫られた少年と、それを知らない明るく元気な幼馴染みの少女。そんな二人のひと夏の思い出作りの旅。しかし、そんな彼を追う影が……。

病に冒された恋人たちの最後の青春というテーマでありながら、あえて時系列の入れ替えなどを意図的に加え、意外な結末へと繋がるようその気配と伏線、この短編連作をグランドフィナーレへと導くための鍵をいくつも含んだ最も重要な作品です。

お話の内容は全然違いますけれどカート・ヴォネガットの『スローターハウス5』の持つ不思議な雰囲気を意識的に盛り込んでみました。なんとなく、ああ似ているところがあるかもと思ってもらえると嬉しいです。
この小説を作るにあたって、初期のプロット改良の打ち合わせでT澤が一番連呼したのは「ヴォネガットを読みましょうよ。そしてあの感覚を可能な限り取り込みましょう」だったりします。

本作を読んだ人から、「○ック○」は禁止じゃなかったの? と以前に聞かれたことありますが、それを描くこと自体を目的としておらず、小説としてのテーマを描くために必要な要素であればと、作品ごとに判断しています。

第二話を超える意外な結末に驚いてください。

一迅社文庫編集部のブログ-幻想4 4.『一〇〇〇年の森』
本作品のトリを飾るのは、この短編連作でもっとも短い33ページの本作。
幻想症候群に翻弄された人々の物語の先にあるものは……ということで、あらすじはあえて書きません。

ここまでの三篇に登場した、彼ら、彼女らの未来を内包した最終作。
こういうSFをこそ、私たちはやりたかったんですよねということで、西村悠さんの渾身の作品世界が凝縮された短編です。

と、珍しく長々と一作の紹介に文字数を割いてしまいました。
明るいラブコメも好きですけど、このように恋愛の枠にとどまらない何かをテーマにした作品も大好きで、こういうタイプの作品を今年はもう一度作っていきたいですね。

さて、次回は「ミステリ入門に最適では?」と思っている作品の紹介を予定(T澤)